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 共通テストが終わってから月日の流れは格段に早くなる。
 1月下旬から始まる私立受験を終えると、本命である志望校受験がすぐにやってきた。

「よしっ!」

 受験票や筆記用具など必要なものをチェックすると、気合を入れるように掛け声を出す。玄関まで歩いていくと両親の「頑張ってらっしゃい」と言う声が聞こえてきた。それに「いってきます」と返事をして外へと出ていく。

「香恋、おはよう」

 外に出ると門扉に誠の姿があった。今日は大学の門前まで見送ってくれるらしい。去年行ったことがあるので場所は分かっているが、気持ちの面ではかなり助かる。
 空を見上げると雲ひとつない快晴だった。冬風の寒さはあるものの、太陽の光が暖かく心地いい。

「いよいよだね」
「ようやくこの日がやってきた。できることは全部やった。だから悔いはない」
「それを言うのはまだ早いよ。それに受験が始まるまでは最後の悪あがきをしないと。問題です。nが奇数である時、n二乗のマイナス1が8の倍数であることを証明しなさい」
「まさかの数学の問題。用紙が欲しいよ」
「これくらいは頭の中でやってもらわないと」

 誠に言われて仕方なく頭の中で考える。電車に乗るまでは声に出しても問題ないため、考えたことを声に出して説明していく。計算は頭の体操になるし、定理を知っていないと解けない問題なので、知っているかどうかの確認にもなる。一石二鳥の問題。流石は誠だ。

 そうして私たちは大学に着くまでの間、ひたすらに問題と回答のやりとりを行った。数学から始まり、英語、生物。電車内では互いのチャットでやりとりを行っていく。気づけば、私たちは大学の前に辿り着いていた。

「じゃあ、行ってくるね」

 本番前に不正がないようにスマホの電源はここで切っておく。
 誠に最後の声をかけると、私は手首にはめた『タンザナイト』の腕輪を見せる。それを見た誠は自分の手首にはめた『アクアマリン』の腕輪を見せる。彼もまた自分の誕生石の腕輪を購入したらしい。

 去年の3月は誠に何もしてあげられなかったから今年は盛大に祝ってあげよう。彼に微笑みかけると私は顔を引き締めた。ここからは自分との戦い。もう何度言ったか分からない「よし!」という気合の言葉を口にして会場へと足を運んだ。