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 次に誠が出勤した日、私たちはすぐに面談を行った。
 私たちを遮るテーブルの上には前に使った模試の結果が置かれている。

「この前言ったとおり、前回の模試では結果の残せなかった分野が今回の模試では良い成績を残せている。確実に苦手なところは消せてるよ」
「でも、苦手を潰せても他の部分で取りこぼしが出ちゃう。それをどう防ぐかだね」
「ただ、去年の結果も交えて、取りこぼした分野について追っていくとその前に良い結果を残せなかったのは1年以上前になるんだ」
「つまり、この調子で克服し続ければ、いずれは満遍なく取れるようになると言うことだね」
「あくまで可能性が高いという話だけど、信じてみる価値はあると思う」
「そこは私の力量次第だね。傾向が見えているなら、予め対策を取ることができる」

 去年の頭から成績の悪い分野についての問題を解いて、躓いたところを復習すれば次の模試までには良い成績を残せるようになっているはずだ。あとは私がどれだけ集中して取り組むことができるか。

「ありがとう。自分の傾向が知れただけで有益だった。あとは頑張るのみ」
「応援してるよ。それからこれ」

 誠は隣に置かれた自分の鞄に手を伸ばすと中からリングケースを取り出した。蓋を開けて私の前に差し出す。見ると、紺色の珠が結ばれた腕輪が入っていた。

「1ヶ月以上早いけど、誕生日プレゼントを渡しておこうと思って。これは『タンザナイト』の腕輪なんだ。正しい判断力を与えてくれて、落ち着きと思慮深い思考で成功に導いてくれるらしい。香恋の誕生日である12月の誕生石だから効果は高いと思う」
「こんなところで渡さなくていいよ。なんか恥ずかしい」

 私はチラチラと周りを見る。休憩している生徒や先生は不思議な様子で私たちを見ていた。それもそのはず。あんな騒動があって、数日後にはイチャイチャしているのだ。「一体何があったのだろうか」と思うのは当たり前のこと。

「ほらほら、これつけて落ち着いて」
「こんなところで効果を出させるな!」

 そうは言いつつも、嬉しくないわけがない。
 私はケースの中に手を差し伸べると、腕輪を取り、利き手とは逆の腕につけた。光り輝く紺色の珠。思っていたより軽く、つけていてもあまり気にはならない。

「ありがとう。絶対に成功させるから見ていてね」
「今度こそ絶対に合格しよう」

 一つの不安が払拭されたことで、心の器に空きができた。落ち着きを取り戻し、私は再び受験に専念した。