ポタッ。ポタッ。ポタッ。ポタッ。
全身の麻痺は解けたものの、縄で縛られて身動きは取れない。鉄格子の牢屋に転がされた俺は、天井から滲み出る水滴の落下をただ眺めていた。
「……無様なものだ」
独り言が代々木体育館跡の地下に響く。
平和ボケしていたと言われたら、その通りだ。俺は2119年の日本を甘くみていた。全ての人間が味方だなんて、あり得ない話だ。2022年を思い出せば、簡単にわかることだ。
カツッ。カツッ。カツッ。カツッ。
意外だな。こんな荒廃した世界でヒールの足音を聴くことになるとは。
足音は牢屋の前で止まった。見上げると、ラバースーツで全身を覆い、顔に仮面をつけた女がいた。その後には同じく全身ラバースーツの太った男が控えるように立っている。
「貴方がルーメンね」
鼓膜にまとわりつくような、蠱惑的な声だ。
「名乗った記憶はないが、もしかして俺のファンか?」
「フフフッ。その強がりはいつまで続くのかしらね? 配信者さん」
女は男から何かを受け取りこちらに向ける。アクションカメラだ……。この女、配信しているのか!?
「フフフ。アハハハハッ! コメントが大変なことになっているわよ。ルーメンさん? このおもちゃ、本当に面白いわねぇ」
「貴様っ! スマホとカメラを返しやがれ! 未来人には過ぎた代物だ!! お前らは電気を禁止されているんだろう?」
身体を捻って鉄格子に近づく。
「アハハハハッ! 口が悪いわねぇ。過去の日本人は。ほら、見てみなさい」
そう言ってスマホの画面を俺に見せる。
コメント:イェーイ! ルーメンみてるー?
コメント:マジ捕まってんの? ウケるわwww
コメント:ルーメン、ダサ過ぎっしょ!
コメント:どうせ演出だろ?
コメント:ルーメンさん!! 大丈夫!?
コメント:これ、マジっぽくね? やばくね?
オイ、コメント欄!! これはヤラセでもなんでもないぞ!! 本当のピンチなんだよ!!
「アハハハハッ! いい顔になったわねぇ」
「お前はオークみたい顔だな。仮面をつけていてもわかるぞ」
女の雰囲気がサディスティックなものに変わる。
「マサオッ!」
「はいっ!」
太った男が牢屋に近寄り、鍵を開ける。そして中に入ると縄を持って強引に俺を立たせた。髪の毛を掴まれ、鉄格子に押し付けられる。
「ちょっとだけお仕置きよ」
女の身体が青白い光に包まれる。こいつ、能力者か……!?
右手を伸ばし、人差し指を俺に向かって構える。指先から青白い炎があがった。女はゆっくりと炎を俺の首筋に近づける。
──ジュ。
「……ンンッ」
「あら、我慢せずに叫んでいいのよ? 皮膚が炭化したんだから」
仮面の奥の瞳が愉悦で濡れている。
「……フーフー」
「アハハハハッ! いいわぁ! ルーメン! いいいわぁ!」
女は自分の身体を両腕で抱き締め、震えている。とんでもない変態だな。
「……覚えていろよ」
「フフフッ。荷物を奪ったらさっさと殺すつもりだったけど、気が変わったわ。貴方を飼ってあげる。オーガ達を片付けたら、一緒に遊びましょうね?」
「……後悔するぞ」
「アハハハハッ! マサオッ、行くわよ」
「はいっ!」
マサオと呼ばれた男はまた俺を地面に転がし、牢屋から出て鍵をかけた。そしてまた、ヒールの足音が響き、徐々に遠ざかっていく。
……不味いことになったぞ。荷物は奪われ、身体は縛られたままだ。どうすればこの状況を挽回出来る?
天井からの水滴が無情に時を刻み、俺は考えるのをやめて瞼を閉じた。
全身の麻痺は解けたものの、縄で縛られて身動きは取れない。鉄格子の牢屋に転がされた俺は、天井から滲み出る水滴の落下をただ眺めていた。
「……無様なものだ」
独り言が代々木体育館跡の地下に響く。
平和ボケしていたと言われたら、その通りだ。俺は2119年の日本を甘くみていた。全ての人間が味方だなんて、あり得ない話だ。2022年を思い出せば、簡単にわかることだ。
カツッ。カツッ。カツッ。カツッ。
意外だな。こんな荒廃した世界でヒールの足音を聴くことになるとは。
足音は牢屋の前で止まった。見上げると、ラバースーツで全身を覆い、顔に仮面をつけた女がいた。その後には同じく全身ラバースーツの太った男が控えるように立っている。
「貴方がルーメンね」
鼓膜にまとわりつくような、蠱惑的な声だ。
「名乗った記憶はないが、もしかして俺のファンか?」
「フフフッ。その強がりはいつまで続くのかしらね? 配信者さん」
女は男から何かを受け取りこちらに向ける。アクションカメラだ……。この女、配信しているのか!?
「フフフ。アハハハハッ! コメントが大変なことになっているわよ。ルーメンさん? このおもちゃ、本当に面白いわねぇ」
「貴様っ! スマホとカメラを返しやがれ! 未来人には過ぎた代物だ!! お前らは電気を禁止されているんだろう?」
身体を捻って鉄格子に近づく。
「アハハハハッ! 口が悪いわねぇ。過去の日本人は。ほら、見てみなさい」
そう言ってスマホの画面を俺に見せる。
コメント:イェーイ! ルーメンみてるー?
コメント:マジ捕まってんの? ウケるわwww
コメント:ルーメン、ダサ過ぎっしょ!
コメント:どうせ演出だろ?
コメント:ルーメンさん!! 大丈夫!?
コメント:これ、マジっぽくね? やばくね?
オイ、コメント欄!! これはヤラセでもなんでもないぞ!! 本当のピンチなんだよ!!
「アハハハハッ! いい顔になったわねぇ」
「お前はオークみたい顔だな。仮面をつけていてもわかるぞ」
女の雰囲気がサディスティックなものに変わる。
「マサオッ!」
「はいっ!」
太った男が牢屋に近寄り、鍵を開ける。そして中に入ると縄を持って強引に俺を立たせた。髪の毛を掴まれ、鉄格子に押し付けられる。
「ちょっとだけお仕置きよ」
女の身体が青白い光に包まれる。こいつ、能力者か……!?
右手を伸ばし、人差し指を俺に向かって構える。指先から青白い炎があがった。女はゆっくりと炎を俺の首筋に近づける。
──ジュ。
「……ンンッ」
「あら、我慢せずに叫んでいいのよ? 皮膚が炭化したんだから」
仮面の奥の瞳が愉悦で濡れている。
「……フーフー」
「アハハハハッ! いいわぁ! ルーメン! いいいわぁ!」
女は自分の身体を両腕で抱き締め、震えている。とんでもない変態だな。
「……覚えていろよ」
「フフフッ。荷物を奪ったらさっさと殺すつもりだったけど、気が変わったわ。貴方を飼ってあげる。オーガ達を片付けたら、一緒に遊びましょうね?」
「……後悔するぞ」
「アハハハハッ! マサオッ、行くわよ」
「はいっ!」
マサオと呼ばれた男はまた俺を地面に転がし、牢屋から出て鍵をかけた。そしてまた、ヒールの足音が響き、徐々に遠ざかっていく。
……不味いことになったぞ。荷物は奪われ、身体は縛られたままだ。どうすればこの状況を挽回出来る?
天井からの水滴が無情に時を刻み、俺は考えるのをやめて瞼を閉じた。