「今日はお前達に伝えたいことがある!」

 俺はカメラに向かって叫ぶ。その声が届かなくとも。

「まず、この世界が西暦何年か判明した!!」

 この情報を伝えるかどうか、俺はしばらく悩んでいた。視聴者が今、一番気にしているのはこの情報だ。間違いない。しばらくこのネタで引っ張ることも出来る。しかし……俺は伝えることにした。

 カメラで地面を映す。そこにある文字は──。

『この地球は西暦……』

 コメント:ちょっ! いきなりかよ!
 コメント:待って!! まだ聞きたくない!!
 コメント:うおおおおー!! 来たー!!
 コメント:俺は覚悟出来てる。
 コメント:やだやだやだー!!
 コメント:来い! ルーメン、来い!!

『2119年!!』

 コメント:セーフ!!!!!!!!!
 コメント:俺死んでるわ。セーフ!!
 コメント:ほぼ全員死んでるだろ
 コメント:長生きしたらルーメンに会える可能性
 コメント:私! 長生きするううううぅぅ!!
 コメント:いや、よく考えろ。割と近い未来だぞ……

 その通りだ。よく考えろ。俺のいる時代が2119年というだけで、いつから地球がこんな風になったとは、まだ言ってない。

『地球は異世界と融合する……』

 コメント:……そゆこと!?
 コメント:融合とか初耳なんですけど!!
 コメント:豚がオークになったわけじゃないの!?
 コメント:異世界融合って?
 コメント:地球と異世界が繋がる?
 コメント:エルフチャンス来たあぁぁぁ!!

『異世界融合は西暦……』

 コメント:ちょっと待って!!
 コメント:情報多いて!!
 コメント:怖い怖い怖い
 コメント:お前等、生きてる内にエルフチャンスだぞ!!
 コメント:ウオオオオオオー!!
 コメント:……いや、虫もでかくなるんやで……

『2032年!!』

 コメント:十年ごおおおおおおおー!!
 コメント:お前等、ほとんど生きてるだろ……
 コメント:えっ……仕事やめようかな
 コメント:ヒャッハー!!
 コメント:マジ……? 家買ったんだけど
 コメント:これ、株価やばくね?

 あっ。株価とか全く考慮してなかった。まぁ、大丈夫だろ! ルーメンチャンネルにそこまでの影響力はない!! 筈!!

 そして、まだまだ伝えることはある。カメラは次々と事実を突きつける。

『富士山噴火が異世界融合の合図』

『電気使えなくなる』

『魔素? が拡散』

『魔素 イズ 何?』

『ここのボスの名前は一条院』

『最初にあった娘の名前は世奈』

 コメント:魔素ってなんだよ!?
 コメント:俺達に聞くなよ!!
 コメント:電力株死んだぁぁー!!
 コメント:富士山……
 コメント:ちょ、これマジなの?
 コメント:農業始めよう
 コメント:ちょっとルーメン、まさかあの小娘と……
 コメント:へー、世奈ちゃんね
 コメント:あの厳ついオッさんが一条院ね
 コメント:魔素で虫が巨大化!?
 コメント:もうお腹いっぱいだよ

 思ったより皆、落ち込んでいないな。まだ十年先だと余裕なのか? それとも実は変革を望んでいる?

 って、そうだ。忘れるところだった。これから何をするのかも伝えないといけない。

 俺は棒切れで地面に殴り書きをする。そしてカメラに──。

『なんかモヤモヤするからオークの集落を潰す!』

 ──と映した。

 コメント:wwwモヤモヤってなんだよ!
 コメント:とんだ八つ当たり!!
 コメント:どっちが悪者www
 コメント:オークに人権はないのか!?
 コメント:まぁ、人権はないかな……
 コメント:オーク食べるの?

「オークなんか食わねーよ!! ただ潰すだけだ!!」

 ──ハッ! 多くの視線を感じる。見渡すと集落の子供達に囲まれていた。仕事の帰りなのか、どの子も大きな籠に収穫物をいっぱい入れている。

「虫のニーチャン。オークを潰すの?」

 いつの間に虫のニーチャン?

「……まぁな」

「じゃ、これあげる。頑張って」

 そう言って渡されたのは緑の小さな粒々だった。俺はこれが何かを知っている。これは……胡椒だ! 俺が望んでいたもの。

「任せろ! ぶっ潰してやる!!」

 そう、強く宣言して俺はその日の配信を終えるのだった。