私は結局3キロ痩せることができ、1キロも太らなかった。
 そしていじめは回避することができ、私は今も美由ちゃんたちのグループに所属している。
 美由ちゃんは最近渡辺遥が転校したことに面白くないと思っているのだろう。毎日つまらなそうにしている。
 でも、相変わらず柚月が美由ちゃんに立場を感じない接し方をしているので、美由ちゃんは柚月にイライラしているみたいだ。
 まあ、それ以外は〝平穏〟が続いている。
 …と、思っていた。今までは。
 それは、ある日突然起こった。
 朝、私が美由ちゃんと話していると、教室のドアがガラリと開いた。
「あ、柚月おはよ!」
 柚月は美由ちゃんの机につかつかと歩み寄って来た。
 美由ちゃんの言葉に返事もせずに。
「あのさ、大事な話があるんだけど」
 美由ちゃんは怪訝そうに言った。
「なによ?大事な話って」
 柚月は大きく息を吸って言った。

「私、このグループ卒業するわ」
 
 美由ちゃんが、意味がわからないと言うような顔をする。
「だから、もう美由たちといるのやめるって言ってんの」
 柚月は少しイライラしたように言った。
 美由ちゃんは急に笑い出した。
「は?なにそれ。私に逆らうっていうの?ははは。笑える!」
 その目は、笑っていなかった。
「柚月!それがどういう意味か、わかってる?」
「なに?意味聞いてくるとか、きしょいんだけど」
 柚月は淡々と続ける。
「前から思ってたんだけど、美由ってわがままだよ?しかも、自分が女王様みたいに思ってるでしょ。偉そうでウザいんだけど。美少女とか言われてるけど、性格ブスは嫌われるよ」
 柚月はそう言って、私の方をちらりと見た。
「結夏も、最近困ってたし」
 私は、全身に鳥肌が立つのを感じた。
「…っ私、困ってなんてっ…」
「へー?結夏もそう思ってたんだ?」
「違う!私は、困ってないよ…全然」
 私は必死になって言った。
 …本当に、『全然』だろうか。
 喉の奥に、言葉が引っかかってなかなか出てこない。
 私は、嫌だったの…?
 確かに、美由ちゃんのおかげで平穏は保てていた。
 だけど、見えない圧力で私は息苦しくなっていたのかもしれない。
 …でも、そんなこと、言えないよ…!
「ま、結夏は言えるような立場じゃないけどね!どうせ、結夏なんて自己中なサイテー女なんでしょ?隠してるだけで。バレてるよ」
 …私は全身から怒りが込み上がってくるのを感じた。
 私が自己中?サイテー女?
 ふざけてる。私はいつだって美由ちゃんの機嫌を取ろうと頑張ってきた。
 それが、無駄だったっていうの?
「……さい」
「は?」
 私は大聞き息を吐いた。
「うるさい!私は…私はいつもあんたの機嫌とってるんだよ!あんたが女王様気取りしてるからみんな困ってる!私だけじゃない。あんたがいじめてた遥さんも、不登校になった鈴音さんも!自分がどんだけ迷惑な存在か少し考えて!」
 私は、勢いでそう叫んでしまった。
「ほら、やっぱりね。まあ、このグループからは外さない。あんたが外れると、都合が悪い」
 美由ちゃんは言った。
 そう、私は美由ちゃんの弱みを握っているのだ。
 それは、美由ちゃんが何人もの人と交際してる浮気サイテー女ってこと。
 私が知っているところ…5人と付き合ってるみたいだ。
 私が映画を見に行った時、隣に座っていた美由ちゃんと背の高いバスケ部の男子が暗闇の中で抱き合っていた。
 その時は気づかれなかったけど、その後も何回か美由ちゃんの浮気現場を見た。そのうち、美由ちゃんに気づかれて口止めされた。
 グループからは外さない。でも、私はさっき、美由ちゃんに逆らってしまった。
 私は真っ青に他なった。
 …いじめ、られる…