過酷な受験が終わり、清々しい気持ちで迎えた入学式だった。
長い校長の話を右耳から左耳へ通過させながらやり過ごし、クラスメイトと初めての顔合わせ。
そこそこの進学校に入学したため、中学の頃に仲が良かった同級生とは離れてしまった。これから友達作りをするのは少し億劫だ。
しかし、貴重な高校時代を一人寂しく過ごすのは気が引けるので、まずは隣の人に話しかけようとした。だけど、隣の席には人が座っていなかった。
初日から遅刻かな。
その後、その日一日中隣の席に人が座ることはなかった。
どんな人か気になるな。若干モヤモヤした気分で校門に向かって歩いていると、この学校のシンボル的な存在である桜の木の下に人影が見えた。女子生徒だ。何をしているんだろう。
興味が湧いたため、彼女の方へ行ってみる。すると、僕の足音に気づいたのか、くるりとこちらへ振り向いた。その瞬間、僕は息を呑んだ。
彼女の周りを舞う桜の花弁や、しなやかに揺れる長い黒髪が止まったように見えた。真っ黒なビー玉のような瞳がこちらを見つめる。
「美しい」
ただ、その一言だけが口から零れた。まるで、一枚の絵のようなこの瞬間に相応しい言葉は、この世に存在するだろうか。否、存在しないだろう。
「君は、誰」
彼女の透き通った声が、僕の耳に届く。
「僕は高瀬紫朗です。今日からこの学校の生徒になりました」
「そう。私の同じね。関わることがあるか分からないけど、よろしくね」
そう言って、彼女は立ち去ろうとする。
まだ彼女の名前を聞いていない。緊張で震える声を絞り出す。
「あ、あの、あなたの名前は」
「まだ名乗っていなかったね。私の名前は藤野麗桜」
「ふじの、れお、さん」
「そう。藤野麗桜。またね、紫朗くん」
ほのかな笑みを浮かべながら僕の名前を呼んだ彼女、藤野麗桜は校舎の方へと歩いて行った。
桜が舞う今日、僕は、生まれて初めて一目惚れした。桜のように美しい、藤野麗桜に。
長い校長の話を右耳から左耳へ通過させながらやり過ごし、クラスメイトと初めての顔合わせ。
そこそこの進学校に入学したため、中学の頃に仲が良かった同級生とは離れてしまった。これから友達作りをするのは少し億劫だ。
しかし、貴重な高校時代を一人寂しく過ごすのは気が引けるので、まずは隣の人に話しかけようとした。だけど、隣の席には人が座っていなかった。
初日から遅刻かな。
その後、その日一日中隣の席に人が座ることはなかった。
どんな人か気になるな。若干モヤモヤした気分で校門に向かって歩いていると、この学校のシンボル的な存在である桜の木の下に人影が見えた。女子生徒だ。何をしているんだろう。
興味が湧いたため、彼女の方へ行ってみる。すると、僕の足音に気づいたのか、くるりとこちらへ振り向いた。その瞬間、僕は息を呑んだ。
彼女の周りを舞う桜の花弁や、しなやかに揺れる長い黒髪が止まったように見えた。真っ黒なビー玉のような瞳がこちらを見つめる。
「美しい」
ただ、その一言だけが口から零れた。まるで、一枚の絵のようなこの瞬間に相応しい言葉は、この世に存在するだろうか。否、存在しないだろう。
「君は、誰」
彼女の透き通った声が、僕の耳に届く。
「僕は高瀬紫朗です。今日からこの学校の生徒になりました」
「そう。私の同じね。関わることがあるか分からないけど、よろしくね」
そう言って、彼女は立ち去ろうとする。
まだ彼女の名前を聞いていない。緊張で震える声を絞り出す。
「あ、あの、あなたの名前は」
「まだ名乗っていなかったね。私の名前は藤野麗桜」
「ふじの、れお、さん」
「そう。藤野麗桜。またね、紫朗くん」
ほのかな笑みを浮かべながら僕の名前を呼んだ彼女、藤野麗桜は校舎の方へと歩いて行った。
桜が舞う今日、僕は、生まれて初めて一目惚れした。桜のように美しい、藤野麗桜に。