僕は彼女が去った後の公園のブランコに座っていた。
僕は少し驚いていた。
今まで出会った人の魂…幽霊達はみんな成仏していった。そして、天国に上がるときには必ず、この世に残る僕を憐れむような視線を送ってくる。
でも、彼女は違った。
彼女は、僕を憐れんだりしなかった。
何だか、どうでもよさそうだった。
それが、少し嬉しかった。
ーーーー彼女のことを、もっと知りたい。
僕はそう思って歩き出した。
私はあれから3日間、ずっとゆーくんの後を追いかけていた。
朝も、昼も、夜も。
ときに椿さんと肩を並べ歩く君の姿を、ずっと見つめていた。
…何がしたいんだろう、私。
追いかけたって、私は幽霊。もうどうしようもないのに。
でも、忘れられない。
だから、しょうがない。
今、ゆーくんは椿さんとデート中だ。
心から楽しそうな君の笑顔。
それを見るだけで、胸がギュッと締め付けられる。
私はそれを、重いため息で体の外に出す。
…って言っても、私はもう死んでるから、体という体もないけど。
ただ見つめているだけ。
君は、私の存在には気づかない。
決して、君は振り向いてはくれないだろう。
「祐樹くん、もう直ぐ誕生日だから買ったんだけど…」
椿さんが、恥ずかしそうに紙袋をゆーくんに差し出した。
「え?ほんと?わぁ、オシャレな指輪だ!ありがとう!」
「それ、私とお揃いなんだ…って、恋人がましいよね…あはは。」
「ううん、全然。むしろつばちゃんとお揃いで嬉しいよ!」
二人はまだ恋人ではないみたいだ。でも、二人とも頬がほんのりとピンク色になっている。
二人は両想いのようだ。
手を繋ぐ二人は、映画から繰り抜いたような誰がどう見てもお似合いな恋人だ。
二人の周りだけ時間がゆっくり進んでいるように錯覚してしまう。
そのことに悲しくなった。
しかも、ゆーくんは椿さんのことを「つばちゃん」とあだ名で呼んでいる。仲がいい証拠だ。
「ゆーくん……」
君が遠くなるようで、思わずつぶやいた。
「いつまで、そうしてるの?」
私はビクッと肩を震わせた。
「急にどっか行くからさ、びっくりしたよ」
それは、大っ嫌いな憎たらしい台詞。
「えーっと、オトハ…だっけ、名前。何してんの?」
「だから、あんたには関係ないって言ったでしょ?」
「教えたくないならいいや。でも、それやめたら?」
「どうして?私がどうしようと勝手でしょ?」
意味がわからない。やっぱり変なやつだ。
「いやだって、泣いてるよ?君」
「え?」
私は思わず頬を触った。
そこには、冷たい涙が伝っていた。
「あれ、私、なんで…」
「ま、いいや。とりあえずついてきてよ」
私は戸惑いながらも彼の背中を追いかけた。