「ああ、もう……本当に残忍な人だなぁ」
「ごめん。でも、嬉しかった……」
「止してください」
私にそれ以上、喋らせまいと少し怒ったように言う。
そして、直江くんは前を向いてしまった。
背中を見せられると、途端に落ち着かなくなる。
少しだけ、ヒヤッとするような。
思わず、手を伸ばしたい衝動に駆られる。
――私、人が恋しくて、とにかく甘えたいだけなのかな。
我ながら、馬鹿なことを考えていると思う。
直江くんは振り返りもせず、やはり淡々と話す。
「本当に止めてください。清水さん、実は誰でも良い、とかですか?」
「失礼な……! そんなこと」
「だったら、『嬉しかった』なんて期待させないでください」
やっぱり声が怒っている?
一体、どんな表情で言っているのか、見えないから怖い。
「ごめん、ね」
意味が有るのか無いのか、あやふやな謝罪をしても、ただ気まずい沈黙が流れるだけ。
人を振り回したり、気を遣わせたり、怒らせたり、困らせたりして。
自分勝手だ、私。
目線が足元に落ちる。
すると、また大きな溜め息が聞こえた。
そして、足音が近づいてくるのが分かる。
足音は私の後ろに回り込み、彼の両手が私の両肩に添えられた。
「え」
「もう良いですから。早く場所取り済ませて、一足先にまったりしましょう」
「直江くん……」
「ほら、早く歩いてください」
さっきから直江くんの顔が見えず、不安だ。
けれど、今、触れている手が温かくて、力加減をしてくれていることで伝わる優しさに、少しだけ安堵した。