「そんな、まさか……間に合わなかったのか?」
わなわなと肩を震わせる栗丘の隣で、マツリカは心底呆れたような声を出す。
「あんた、どこ見てんの? ミカゲならこっちだよ」
「えっ」
言われて、慌てて示された方を見る。
するとそこには、だらりと四肢を投げ出した御影と、それをしっかりと腕に抱え上げている平泉の姿があった。
御影は気を失っていたが、呼吸は安定しているようだった。
「三人とも、無事に戻って来れたようだな」
彼は至極落ち着いた様子で三人に尋ねたが、返事は待たないまま、やや早足でその場から歩き出す。
「御影はこのまま病院へ連れて行く。君たちも怪我をしているだろう。一緒に乗って行きなさい」
怪我、というワードを耳にした瞬間、栗丘は右腕の患部が急激に痛み出すのを感じた。
「いっ……てててて」
「大丈夫ですか、栗丘センパイ」
絢永が後ろから心配そうに聞く。
よく見れば、彼のトレードマークである眼鏡にはヒビが入っていた。
そこで栗丘は「あっ!」と一つ大事なことを思い出す。
「絢永、いま何時だ?」
「今ですか?」
腕時計を確認しながら、「午後十一時過ぎですね」と答える。
「そうか。よし、間に合ったな!」
「はい?」
もうじき年が明ける。
その前に、栗丘はどうしてもやっておきたいことがあった。
「今日のことが全部無事に終わったら、今日中に言おうと思ってたんだ」
「何です、改まって」
栗丘は改めて絢永の方を向き直ると、ニカッと白い歯を見せながら満面の笑みを浮かべた。
「誕生日おめでとう、絢永!」
予想外の祝福を受けて、絢永は面食らった。
「全部終わってからじゃなきゃ言えないと思ったんだ。お前にとって、大晦日ってのは悲しい印象があるかもしれない……。でも今日は、お前の誕生日でもあるからさ。祝ってもらう気分になれるかどうかはわからなかったけど、せめてお祝いの言葉ぐらいは言っておきたかったんだ」
自分でも忘れていた誕生日。
それを、こんな時にまで覚えていた相棒に、絢永は思わず笑みを漏らす。
「……本当に、あなたって人は」
どこからか、除夜の鐘が鳴り始める。
今頃はあちこちの神社で人が賑わっているだろう。
その風景が今後も壊されることなく、平穏に続いていくことを祈りながら、彼らは人知れずその場を後にした。