「三日後には遷宮ですね」

 荒日佐彦と縁側で月を眺めていた白花は、しみじみと告げる。

 神の元に嫁入りして既に一年が経過していた。
 けれどここに来てから白花は、時間の感覚が朧気になっている。

 おかしなものだ。
 自分が住んでいたところと変わらない槙山家の敷地内で、朝に陽が昇り夜は月が顔を出す。
 朝昼晩きちんときていつもの日常なのに、毎日がとても短く感じる。

 しかし、仮宮に移り住んだ荒日佐彦と住んで、本宮は着々と施工が進み完成したという報告が宮司からあった。
「なに、そう大きくない宮だしな。それにそこは神の出入り口、玄関のようなもの。実際の住処はこうして別次元のところにある」

 そうだ。自分と荒日佐彦が住む場所は日本庭園のある重厚な和式の屋敷で、縁側もある。
 一見武家屋敷のように見えるし、寺小屋のようにも見える。
 奥行きが広く、何部屋も畳部屋が繋がっている。
 屋敷の大きさからは考えられない広さだ。

「これが神のお力」
 と最初目を白黒させていた白花だったが、一年経った今は荒日佐彦と相談して住みやすい広さにしている。

 最初、荒日佐彦もどこまで広くしたらいいのかわからず、部屋をたくさん造ったのだという。

「ええ、最初驚きました。だってお台所に行くのも湯をもらいに行くのも長い渡り廊下に広い畳部屋をいくつも歩いて行かなくてはならなかったのですもの」
「ちーっとばかり部屋数が多すぎたよな」
と、当時を思い出し荒日佐彦と笑い合う。

「快適に暮らす屋敷を造るのはなかなか難しいということがわかった。まあ、住む場所さえこうなのだから、木を切り倒すところからはじめる下界の建設は時間がかかるだろう。一年は短いほうだと思うぞ」
「ええ、宮大工の皆様が頑張ってくれたお陰だと思います。私たちからも何かお礼をした方がよろしいでしょうか?」
「神は物は与えられん。『よい運』や『村の平和』に『繁栄』の祈りを与える」
 荒日佐彦の言葉に白花は考え込む。

「どうした? 白花」
「それは荒日佐彦様にはお出来になりましょうけれど……私には難しいことだと思います」
「白花は既に俺の妻。俺についた『災』や『厄』を浄化できるのだから、それ相応の力はついている」
「そうでしょうか? 私自身、変化がわかりません。……以前となんら変わりないように思いますし」

 そう言いながら白花は体を確認するように自分の手足を動かす。