終業式から二週間と数日が経った。同時に清水と出会って二週間と数日が過ぎたという事になる。あれから日曜日以外は基本清水の家に居た。ミャーコと遊んだり、二人で自分たちのお昼ご飯を作ったり、たまにベッドでいちゃついたり。ディープキスより先の進展はまだないんだが、今日横には清水ではなく俊介がいた。
「蝉は元気に鳴くなー。笑ってんのかあれ」
「にしても暑いなー」
久々俊介から連絡があって引退ぶりに会った。陽炎が揺れているアスファルトの上を、少しずつ溶けてそうなタイヤのゴムを走らせてファーストフード店に向かっている。
「あれから進展はどーなんよ」
「清水と?」
「当たり前だろ。だれが蓮に課題の進展聞くんだよ」
「課題はもちろん全く手をつけていません」
「だから清水との進展を聞いてんだよ」
「んー。まぁ部活なくなってから俺らも会ってなかったじゃん?」
「まぁそうだな。会うのも久しぶりな感じするな」
「部活なくなってからはほぼ毎日遊んでたね」
「うわまじかよ」
「まじだよ」
この二週間の出来事を簡単に説明すると「それもう半同棲じゃん」と俊介は突っ込み続けている。
「それとキスしたかな」
「んあ? キス?」
「そうだ。それもディープキスってやつだ」
「まじかよ。あの蓮が……」
「あのってなんだよ……。まぁでもそう言いたい気持ちもわかる」
「成長したなー」
「高度経済成長ってくらい一気に成長したわ」
「まぁ家に遊びに行くようになったならそうだな」
「まぁそうだね。それとおっぱい揉んだ」
「え!?」
今までの反応とは打って変わり俊介のペダルを回す足が止まった。
「邪魔だよ。ここ左だろ」
「ああ。すまん」
平日の昼過ぎだが駐輪場には自転車がたくさん止まっていた。
「なんでこんなに多いんだよ」
「西校の溜まり場といえばここだもんな……」
店内に入ると丁度良いクーラーの涼しさに感動して、膝から崩れ落ちるように寝そべりたい気持ちをグッと堪えまずは席を探した。
「涼しい……」
「お、あそこ空いてるぞ」
注文してる間に席を取られてはまずいので、スマホを机の上に置いてやった。
「俊介っていつも何頼んでたっけ」
「おいおいそこ忘れるのかよ」
「遊ぶの久しぶりだもん」
「それさっき話した」
俊介はビックバーガーのセットでサイドはナゲット、飲み物はシェイクにしていた。俺はエッグバーガーのセットでサイドはポテト、飲み物はシェイクにした。
「あれ、お前エッグバーガーなんて頼んでたっけ」
「気分転換だな」
「毎回男はビックバーガーだとか言ってたのにな」
少し前に清水とこの店に来た時清水はエッグバーガーを頼んでいた。清水が食べていたものと同じものを食べていたい。そんな思考回路が多くなってしまった。
よく恋人同士はよく似ていると聞くけれど、元々似ているんじゃなくて似ていくものなんだと分かった。清水は俺と似ていくのかな。そして清水の顔や声を想い出しながらいろんな妄想をすることも多くなった。
「……でお待ちのお客様」
「おい、蓮」
「んああ。俺か」
俺がカウンターに行こうとすると、俺の前を割り込むように知らない人が入ってきてそのまま商品を持っていってしまった。
「え?」
自分のレシートの番号とモニターに表示されている番号を見ると、なんと俺の番ではなかった。俊介の方を急いで振り返ると腹を抱えて笑っていた。
「ざけんなよ」
「合格発表はどうでしたか?」
「落ちました……じゃねーよ」
俊介はまた気持ちよく笑った。我ながら良いノリツッコミをしたなと思ったが普通に取りに行くの間違えて恥ずかしい。
「すまんすまん」
「一応受験生だから、落ちるとか不謹慎だぞ」
「わるいって。あ、今度こそ俺らだわ」
「本当か〜?」
モニターを見るとどの番号も表示されてなかった。

「それでそれで?」
「そこで俺がキスをしたんだよ。んでそのまま清水が上にきて」
「そのままちゅっちゅしてたわけか」
「そーゆー事です」
「かあー、いいなー。初々しいなー」
ポテトをシェイクにフォンデュしながら、清水との進展を話した。俊介はまるで自分の息子の話を聞くかのように懐かしみながらも真剣に聞いてくれた。
「その時期が一番楽しいからな」
「その後も楽しいでしょ」
「蓮にもいつかわかるわ」
「そして、今回俺がなぜエッグにしたのか」
「どーせ清水が頼んでたやつだろ?」
「えっ。なんでわかった?」
「そーだと思った。蓮は単純だからなー」
「単純で悪かったな」
「てか清水とここに来た話めちゃくちゃ広まってるぞ」
「え? あー……」
「西校のやつらに見つかってしまったか……」
「あん時もまぁまぁ人居たんだよな」
「そりゃー、蓮と清水の話だ。同校のやつらなら、そりゃ広まるのも無理がない」
「俺いつからそんなに有名人に?」
「まぁ二人が揃って有名になる感じだな」
「俺らは合体してんのかよ……」
「そういえばさっき蓮なんか言ったよな」
「ん? さっきっていつ?」
俊介は必死に大事な事を思い出そうとしていた。頭を捻らせ思いついた時の顔はかなり酷かった。
「ああ、そうそう、清水のおっぱい揉んだのか?」
「はい……」
「うわまじかよ。普通に羨ましい」
「なんだよ羨ましいって。俊介だってたくさん揉んだことあるだろ」
「わかってねーなー。清水のが良いんだよ」
「なんだそれ、きもちわる、鳥肌立ったわ」
「たしかにな、クーラー強いもんな」
「ま、まぁそれもあるな」
最高気温を更新し続ける外で汗をかいて店内に入ったため、汗が冷えてきて肌寒い。シェイクも半分飲んだところでいらなくなった。腹も膨れた事なので俊介と店内を出ることにして店内を出るとまた暑さで溶けそうになった。
「やば……」
「しぇ、シェイク……」
捨てなくてよかったと心から思った。熱くなったサドルに跨り、またタイヤを回した。

「はー、やっぱ夏は家の中や」
「ゴミそこに捨てていい?」
「ああいいよ」
俊介はエアコンをつけっぱで家を出たようでゴミ箱さえもひんやりしていた。
「んでさ蓮」
「ん?」
「えっちするの?」
「え?」
「清水とな。誰が俺としようって言ったんだよ」
「ああ。清水とか。特に考えてないなー」
「最近買ったやつだけどこれやるよ」
渡されたのは四角い袋の中に丸いものが入っているやつだった。初めて実物を目にして少し動揺した。
「絶対に一つは持っておいた方がいいぞ」
「ああ、あ、ありがとう」
「それ大切に保管しておけよ、破れたりしたら終わりだぞ」
「わかりました」
流石俊介さん! と心の中で思ったがこれを持ち歩くのはなんか嫌だな。でもいつか清水とするかもしれない。いざって時になかったらそれはそれでダメだ。
「そういえば納涼祭り清水と行くんだよ」
「まぁそうか。誘ったのか?」
「うん。結構勇気出した」
「進展がすげーな、たった二週間でここまで変わったか」
「だから高度経済成長期だっての」
「バブルかもな……」
「バブルだったら弾けちゃうじゃないか」
「高度経済成長でも公害や石油危機があるじゃないか」
「社会の勉強はもういいよ」
「蓮……本当に進学にすんのか?」
「なんだよ、勉強なら大丈夫だよ」
「いやいや、だってまた学校に通わなきゃ行けないんだぜ?」
「まぁ大学生の生活も味わってみたいしな」
「俺らがあんなに嫌ってた学校だぜ?」
「いやなんか行く以外選択肢ないっていうか」
「俺は行く意味ないと思うよ」
俊介は真面目な顔をして話をしていた。俊介の家は一階でパン屋をやっている。今も営業中なのでパンの美味しそうな匂いがぷんぷんしている。
「俊介はこの店やるんだよな?」
「初めは雑用からだけどな。てかその大学に行かなきゃできない事をやりたいなら良いかもしれないけど、資格も取りに行くわけでもないなら、ただただお金の無駄だと思うけどなー」
「まぁそうかもな……。けど俺にはやりたい事がない」
「別にやりたい事がないからって。逆にやりたくない事は?」
「やりたくない事かー……」
「やりたい事がなければ、やりたくない事さえやらなければ別にいいじゃん」
「仕事……」
「まぁでも早いうちから仕事してたらその仕事覚えて、天職になるかもしれないぞ」
「案外俊介も色々考えてんだな」
「まぁ家がパン屋さんなもんで、計画もちゃんとコネコネしてます」
正直、将来の事なんか一ミリも考えたくない。何をしてるかだとか、考えるだけでつまらない。どうせ社会に押し潰され続けるごく普通のサラリーマンだろう。それでも俊介の言ってることは正しいと思ったので少しは考えてみようと思った。
「また考えてみるよ」
「まぁそろそろ決めないと進学も来年になるぞ」
「はいはい、お待たせー」
突然俊介の部屋に入ってきたのは俊介の母だ。
「あ、すみません、お邪魔してます」
「いらっしゃい。蓮くんならいつでも歓迎だわ」
そう言いながら俊介の母は、ミニクロワッサンを山ほど持ってきた。
「じゃ、ゆっくりしていってね」
嵐のようにいきなり入ってきてはいきなり消えて行った。
「おいおい、俊介なんだこれは」
「ミニクロワッサンです」
「見ればわかるわ。なんでおばさんが持ってきてくれたんだよ」
「おばさんって言うなよ、俺が頼んでおいた」
「俺と遊ぶ前にか?」
「うん。俺予知能力あるんだよな」
「流石俊介さん!」
サクサクと口の中で音を立てて、程よい甘さがなんだか眠気を誘ってきた。チョコがコーティングされてるものもあり、それもまた美味だった。
「俊介は毎日これ食ってんの?」
「よく食べるね。これ生地のあまりでできるからおやつ的な感覚で」
「幸せもんだな……」
なんだか羨ましかった。やるべき事が決まってる人も。でも俺は一体何がしたいんだろう。二十歳前後も清水とずっと一緒に居れたらいいな。働こうかなー。そう思いながら口の中でサクサクと音を立て続けて俊介と昼寝をしてから家に帰った。

最近心の変化が多いからか、長い時間眠ってしまう。昨日の夜親に進路を考え直すと言ったら、「今更になって考えてんの?」と怒られてしまった。全くその通りである。なんでもっと早くから考えなかったのだろうか。いや清水と出会ってなかったら、俊介の説得もフル無視であったろう。恋愛って人の心も変えてしまうものなのか。これが初めてだからそう思っているのか。
きっと今だから感じる事なんだろうけど、逆に今しか感じれない気がして大切にしておこうと思った。そして今日は清水と会う約束をしてる日だ。今日は夜ご飯も一緒に食べに行く予定である。どこへ行こうかな。
スラスラと器用に階段を降り、洗面台に向かって準備をする。
「かっいい顔がよかったなあ……」
鏡越しに映る自分はとてもではないが、かっこよくはなかった。中学のジャージをそのまま寝巻きにして、愛着が湧くくらい毎日同じ箇所にねぐせがつく。おまけに目やにがついていた。少し変わったとすれば少し口角が上がっていること。清水がずっと笑っているため移ってしまった。
清水とは一度離れたが十数年ぶりにミャーコを通してもう一度出会った。運命的な何かがあるのだろうか、しかしこんな自分を十数年も待っててくれたなんて。
清水の容姿はどこも可愛くて、可愛らしさのある猫目に鼻筋はまっすぐ通っていてる。反則級なのがその容姿で無邪気に笑うのだ。あんなにも可愛いくて優しい性格も持ち合わせているのだ。他の人に取られないという絶対的な保証はない。そんな事を考えると少しブルーになるのだが、清水と会えるならなんでも良かった。
「あ、そーだ!」
今日はあそこに寄ってから清水の家に行こう。急いで準備を済ませ自転車に跨った。
あの道を曲がると商店街に入って、中央のあたりに出てくるお店に用がある。
「俊介はいるかな〜」
少し前にお店を綺麗にしたらしく、佐野パンと書かれたお店の前に来た。
「あら、蓮くんじゃないの」
「ああ、おばさん。こんにちは」
「珍しいわねお店の方に顔を出すなんて」
「いつもは二階の俊介の部屋ですもんね」
「今日はどうしたの? 俊介はさっきおつかいに行かしたけど」
「今日は俊介に用事はないです。あの前作ってくれたミニクロワッサンを僕に売ってくれませんか」
「あら、いいわよ」
「ありがとうございます!」
「はいこれ。さっき俊介のために焼いたけど持っていってね」
「お金は……」
「いいのよ。こんなんでお金もらってはこっちも申し訳ないわ」
「出世したらいつか恩返しします!」
きれいになってから初めてお店の方に入ったが、いかにも個人店って感じでなんの概念にも囚われない作りだ。店内はパンの生地のいい香りに包まれており、どれも美味しそうだった。
「また遊びにおいでね」
「ありがとうございます!」
ビニールに包まれたミニクロワッサンを持って、店の外に出て自転車のカゴに入れた。
「清水きっと気にいるだろうな〜」
清水の事を考えるとニヤつきが止まらなく、急いで自転車を漕いだ。

インターフォンを押すと、清水が窓から顔を出した。
「上がってきていいよ!」
「あいよー」
最近は清水も玄関まで出るのがめんどくさいのか上から返事をするようになった。ミニクロワッサンを片手に登り慣れた階段を上がり清水の部屋に入った。
「おじゃまパジャマ」
「待ってたよ」
「あれ? ミャーコは?」
「ミャーコさっき外出て行っちゃった」
「おお、そうかそうか」
ミャーコは俺が来たってのに顔も出さずにまたどこかへ行ってしまった。まぁどうせ夕方には帰ってくる。
「今日はお土産を持ってきた」
「え! なにそれ!」
「じゃじゃーん! 俊介の家のクロワッサン」
「えー! すごい!」
「俊介の家はパン屋だからね」
「おいしそう!」
「食べよ食べよ」
巻かれてたビニールタイを取りさっそく清水と食べた。清水は「サクサクで美味しい!」と笑った。その笑顔にまたやられる。
「チョコついてるのもあるんだ!」
「そうそう。昨日俊介の家で遊んでた時、おばさんがおやつで出してくれたんだ」
「いいなあ。佐野くんはいつもこれ食べてるんだ」
「ほんとな。羨ましいよな」
清水はモグモグとほっぺたを膨らませながら、顔は美味しいと言っている。まるで顔が喋っているかのようだ。
「清水はさ」
「ん?」
「なんで俺の事を待っててくれたの?」
「なんでって……なんだろうね」
「……」
「初めての友達だったし、優しくしてくれたのが嬉しくて」
「優しくしてくれる人は俺以外にもいるでしょ」
「蓮の優しさは普通に話してて、どことなく優しさがまとわりついてる感じがするの」
「そ、そうなんだ……」
「それに……顔が好き!」
「え? 俺の顔?」
「うん!」
「俺の顔のどこが!?」
「んー、これといった特徴はないんだけど」
「……」
「面白い性格の中に優しさがある顔をしてるの!」
「なんだそれ」
何を言ってんだかさっきから意味がわからなかった。思ってた返事が帰ってこないので間抜けなツラをしていると清水は恥ずかしそうに喋った。
「なんか安心するの」
「そうか……」
「一緒にいて面白いし、安心もするし、だからずっと一緒に……」
「わかったわかった。ありがとうな」
「なんで止めるの!」
「これ以上聞いたら焦げるわ」
「まだ話し始めたばっかなのに!」
「にゃお」
「あ! またそれやった!」
思ってた返事が来たら今度は照れて、部活でやけ慣れた肌を通り越して直接胸に来た。清水は無邪気だ。俺が心配してる以上に清水は俺の事を想っててくれていた。クロワッサンを半分ほど食べ終えるとする事もないし、腹も膨れたのでいつも通り昼寝をした。

再び目が覚めると横にいる清水は起きていた。
「起きてたんだ」
「今さっき起きた」
「そかそか……」
このベッドの上に行くことさえも初めは緊張していたけれど今はすっかり慣れてしまった。清水も慣れてきたのか布団で顔を隠す癖がなくなっていた。
「私ね」
「うん」
「あの頃よくミャーコとずっと話してたの。蓮と会えなくなってから寂しい夜がたくさんあってさ。ミャーコと一緒に月を見るなり蓮に会えないかなとか、よく泣いてた」
「だから高校に入って、蓮を見つけた時すごく嬉しかったの。けど蓮は女の子からの人気もあったし、いつも佐野くんといるから話しかけづらかったし。今こうして同じ布団の中にいる事がただのいい夢なんじゃないのかって思うくらいなの」
「話しかけるの遅くなってごめん」
「なんで謝るの。私の方こそごめん。あの時お弁当忘れてよかった」
「俺も忘れてよかった。学校行事がある日って大体いつもドタつくよね」
「少し早く目が覚めるのにね」
「そうそう。結局ギリギリになる」
少し笑った後清水は少し表情を変えて話した。
「ねえ蓮」
「どうした?」
「一つだけお願いがあってさ……」
「なんでもいってごらん」
「下の名前で呼んでほしい」
「……そ、そのうちね」
「そのうちじゃなくていま」
今度は真剣な顔をして体を寄せてきた。
「あの時みたいに……」
「わかったよ。か、かおりで呼ぶね」
「名前呼んで」
「かおり……」
夏織は真剣な表情からいつもの笑顔に戻り、さらに顔を寄せてきて唇は重なった。
「私の事すき?」
「すきだよ」
「私も蓮好き」
幼稚な会話で少し乱れた髪で小さい唇を吸う。息を止めて、小さな身体に触れる。くっつくような柔らかい頬も、すべすべな腕も、その先の小さいな手の指と指の間を絡ませて、身体中で愛を感じ受け止めた。
この時間は将来の事とか何も考えなくていいし、ただひたすらに目の前にいる清水に愛を込める。
それでも時計の針は動く。回り続ける。窓から差し込む光は月光のみとなった。
「暗くなったね」
「暗いね」
薄く青い月夜に照らされながら甘い声をかける。
「ゴムあるよ……」
「私汗っかきだよ」
「いいよ。俺も汗かく」
リップ音を鳴らす箇所が唇から首に変わる。首の周りを口付けるとかおりの甘い吐息が漏れた。下着をなぞるように外側から優しく触れていた胸。手のひらぐらいの大きさをした胸部は下着越しでもわかる柔らかさを持っていた。
流れる汗さえも舐めてしまうピンクな雰囲気を二人で楽しんでる時、かおりのお腹が音を立てた。
「お腹すいた?」
「ぺこぺこかも」
今日食べたのはミニクロワッサンだけだ。そりゃお腹も空いてしまう。さっきまでの雰囲気はなくなってしまった。
「また今度しよう」
「ごめんね」
少しの間抱きしめあって最後にもう一度キスをした。

熱帯夜のような蒸し暑い夜だったが、俺らの関係に水を刺すように次の日は雨が降った。
自分の部屋でゴロゴロする日なんて久しぶりだ。口の周りがベタベタになるくらいキスをしてたが、お腹が空いたため初めてはお預けとなった。
「今日は何しよっかなー」
しばらくの間、かおりはミャーコも連れて親の実家に帰るみたいで次会えるのは納涼祭り当日となった。
当然する事なんてないし、漫画を読み返したり、TVを見たりして暇を潰した。
「花火を見ながらキスとかロマンチックだなー」
次かおりと会えた時に話す事や、何をしようかとか妄想を膨らませていた。なんだか儚い夢を見ている気分だ。