【鴉の落とし子】

 人類史上最も不幸な人間は、きっと私だろうと思った。アインシュタインでも、ジョン・レノンでも、芥川龍之介でもない。凶悪殺人犯に殺された子どもでもなければ、自宅で孤独に死んでいった老人でもない。ましてや不治の病に侵された物語のヒロインでも、残された主人公なんかでもない。私のこの不幸せさを誰にも理解できないことだけが、今の私には残念でしかたない。
 私はきっと、幸福に憧れていただけなんだと思う。誰かと幸せを分かち合うことに憧れて、けど疎ましくて、素直になれないままでいた。それだけの話なんだと思う。意外と単純なんだ。私という人間は、本当に単純な存在なんだ。きっと、だから、こんなものを書いているんだと思う。単純だから、こうやって書き記すことで鬱憤を晴らそうとしている。メンヘラかよって、思う。馬鹿みたいだって、自分でもわかってる。これじゃSNSで戯言を垂れている自己愛な奴らと何ら変わらない。
 昔はもう少し違っていた。こうじゃなかった。本当はもっとずっと楽観的な人間だった。純朴で、無垢で、自分に悲観するような人間じゃなかった。当然といえば当然かもしれない。だってまだ子どもだったから。純粋で無知な子どもは好かれる。幼い私は、良い子でいた。生意気な言い方をすれば、大人びていたのかもしれない。
 でもいつかは思い知る。無知でいるほど楽なことはないけれど、無知でいるほど愚かなことはないと。もう無垢なままじゃ生きていけないんだと、気づく時がくる。きっとみんな周りの空気感とか、教育からそういうのを学んでいくんだと思う。けれど私には、それを思い知る決定的なきっかけが、十数年歩んできた人生において二つあった。