男が落とした手紙
あなたのことを嫌いになったわけではないということを、まずはじめに理解しておいてほしい。その上で、あなたにこの手紙を残します。
あなたのことを好きになった理由はただひとつ。あの日、路頭に迷う私を救ってくれたからだった。当時付き合っていた彼氏が浮気しているのを見つけた私は、どうすればいいかわからず行き場を失っていた。
そんな私に、あなたは声をかけてくれた。そして、優しい顔で話を聞いてくれた。何か言うこともなく、ただ静かに相槌を打って聞いてくれた。同情してくれた。他人のはずなのに、最後には「その男はクズだ」なんて言ってくれた。あなたは、そんなの当たり前だと言うけれど、その時の私の心は、あなたのおかげで確かに救われていた。嬉しかった。薄情な女だと思われるかもしれないけど、私にはあなたみたいな人が必要なんだって思った。
それから私達は付き合い、同棲するようになった。やっぱりあなたはとても優しい人で、仕事で朝が早いというのに、私の分の朝食まで作ってくれた。頼んでもいないのに部屋を掃除してくれて、デートの時にはいつだって自分からエスコートしてくれた。あなたは私が出会ってきた人の中で、間違いなく最もよく出来た人格者だった。
けれど、一緒に住むようになってから、私はあなたとのズレを感じるようになった。でも、そう。あなたは、とても優しい人なの。だからこそ、そのズレを感じる度に私は自分を誤魔化さなきゃならなかった。
あなたは洋画を好んで観るけれど、私は邦画のほうが好きだった。
あなたは朝食にはパン派だけど、私はごはん派だった。
あなたは時間にルーズだけど、私は厳格だった。
あなたは早く性欲を満たそうとするけれど、私はもっと長くあなたを感じていたかった。
あなたは今日あったことを話すけれど、私はあなたとのこの先について話をしたかった。
そういう小さなすれ違いが、ずっと積み重なっていた。
思い返せば、話すようになってから何かそんな予感はしていた。私達はあの日出会わなければ、決してかかわることのない存在だったから。
私からあなたに打ち明けることができたらよかったのかもしれない。けれど、私があなたに不満を言うことはできない。私の命は、あの日あなたに拾われたのだから。
私達はもしかしたら、出会うべきじゃなかったのかもしれない。一つになるべきではなかったのかもしれない。あなたは私と出会わなければ、きっともっといい人と巡り会えたと思う。
だから、私がいなくなったのは、あなたのせいなんかじゃない。
あなたのことを嫌いになったわけではないということを、まずはじめに理解しておいてほしい。その上で、あなたにこの手紙を残します。
あなたのことを好きになった理由はただひとつ。あの日、路頭に迷う私を救ってくれたからだった。当時付き合っていた彼氏が浮気しているのを見つけた私は、どうすればいいかわからず行き場を失っていた。
そんな私に、あなたは声をかけてくれた。そして、優しい顔で話を聞いてくれた。何か言うこともなく、ただ静かに相槌を打って聞いてくれた。同情してくれた。他人のはずなのに、最後には「その男はクズだ」なんて言ってくれた。あなたは、そんなの当たり前だと言うけれど、その時の私の心は、あなたのおかげで確かに救われていた。嬉しかった。薄情な女だと思われるかもしれないけど、私にはあなたみたいな人が必要なんだって思った。
それから私達は付き合い、同棲するようになった。やっぱりあなたはとても優しい人で、仕事で朝が早いというのに、私の分の朝食まで作ってくれた。頼んでもいないのに部屋を掃除してくれて、デートの時にはいつだって自分からエスコートしてくれた。あなたは私が出会ってきた人の中で、間違いなく最もよく出来た人格者だった。
けれど、一緒に住むようになってから、私はあなたとのズレを感じるようになった。でも、そう。あなたは、とても優しい人なの。だからこそ、そのズレを感じる度に私は自分を誤魔化さなきゃならなかった。
あなたは洋画を好んで観るけれど、私は邦画のほうが好きだった。
あなたは朝食にはパン派だけど、私はごはん派だった。
あなたは時間にルーズだけど、私は厳格だった。
あなたは早く性欲を満たそうとするけれど、私はもっと長くあなたを感じていたかった。
あなたは今日あったことを話すけれど、私はあなたとのこの先について話をしたかった。
そういう小さなすれ違いが、ずっと積み重なっていた。
思い返せば、話すようになってから何かそんな予感はしていた。私達はあの日出会わなければ、決してかかわることのない存在だったから。
私からあなたに打ち明けることができたらよかったのかもしれない。けれど、私があなたに不満を言うことはできない。私の命は、あの日あなたに拾われたのだから。
私達はもしかしたら、出会うべきじゃなかったのかもしれない。一つになるべきではなかったのかもしれない。あなたは私と出会わなければ、きっともっといい人と巡り会えたと思う。
だから、私がいなくなったのは、あなたのせいなんかじゃない。