始業式の後は、いつものように授業があり、そして放課後になった。
俺と遥太と陽葵は、尋に言われた通り図書室に集まっていた。尋は掃除があって遅れてくるらしい。
俺達以外に図書室に人影はなかった。遠くの方で生徒達の談笑する声が聞こえる。
確か放課後は、来週の文化祭に向けて準備をするらしかったが、どうせやる気もないのでどうでもよかった。
俺達のクラスは劇をやることになっていた。俺達四人は当然舞台に立ちたくないので、全員裏方に回っていた。だから、数人いなくても作業に支障はないだろう。
本来、劇の内容は全て千種がオリジナルで作るはずだった。だが彼女が死んで、脚本のデータが入ったUSBメモリが紛失してしまったため、仕方なく『ロミオとジュリエット』という何ともベタな劇をやることになった。
「遥太はいいのかよ。生徒会、仕事あるんだろ?」
「そんなのどうでもいいよ。どう考えても、こっちのほうが大事でしょ」
「……そっか」
俺と遥太が話している間、机を挟んで向こう側に座っている陽葵は、黙々と本を読んでいた。美術書のようだ。陽葵は以前、美大に進学すると言っていた。
この時期になると、教室内ではしばしば進学のことについての話題が上がる。一年前は誰一人として気にもしていなかったのに。
俺は、一応文系の私立大学に進学するつもりだが、正直何がしたいのかよくわからない。遥太は有名国立大を受験するらしいし、尋も普段は将来とか気にしてなさそうだけど、頭はそれなりにいい。陽葵はしっかりとした夢を持っている。俺だけが、自堕落に生きている気がする。
千種は、どうだったんだろう。彼女なら、何にでもなれたのではないかと思う。
「今朝はごめん。尋を疑うような真似して」
「俺に謝るなよ」
「そうだけど、友人を疑うなんてどうかしてた」
「……しょうがないだろ。あんなメールが送られてきて、動揺しないわけねーよ」
こんなことを言っているが、多分一番動揺を表に出していたのは俺の方だ。遥太はただ冷静に事を分析して、その結果を述べただけだ。感情に翻弄されて物を言った俺が、彼を責めることはできない。
それからしばらくして、尋がやってきた。
「悪い、遅くなった」
その声に反応した陽葵は、本から視線を上げて「気にしないで」と返した。
「度々で申し訳ないんだけど、この後すぐに担任に呼び出されてるから行かなきゃならなくなった」
そりゃ夏休みを抜きにしても、一か月ほど、しかも高校三年という大事な時期に学校を休んだのだから、呼び出されて当然だろう。
「じゃあ、今じゃないほうがいいか」
「いいよ。どうせ一言だけで終わる。その後どうしたいかは、みんなで決めてくれ」
尋は陽葵の隣に座って、そして、単刀直入に告げた。尋が言い出したことに、遥太と陽葵は驚いていたが、俺は存外驚かなかった。それは、彼ならそうするだろうと薄々思っていたからでもあるし、俺自身も、そうすることを望んでいたからだ。
彼女の死の真相から、目を背けたままにはできない。
「――千種を殺した犯人を、見つけようと思う」
俺と遥太と陽葵は、尋に言われた通り図書室に集まっていた。尋は掃除があって遅れてくるらしい。
俺達以外に図書室に人影はなかった。遠くの方で生徒達の談笑する声が聞こえる。
確か放課後は、来週の文化祭に向けて準備をするらしかったが、どうせやる気もないのでどうでもよかった。
俺達のクラスは劇をやることになっていた。俺達四人は当然舞台に立ちたくないので、全員裏方に回っていた。だから、数人いなくても作業に支障はないだろう。
本来、劇の内容は全て千種がオリジナルで作るはずだった。だが彼女が死んで、脚本のデータが入ったUSBメモリが紛失してしまったため、仕方なく『ロミオとジュリエット』という何ともベタな劇をやることになった。
「遥太はいいのかよ。生徒会、仕事あるんだろ?」
「そんなのどうでもいいよ。どう考えても、こっちのほうが大事でしょ」
「……そっか」
俺と遥太が話している間、机を挟んで向こう側に座っている陽葵は、黙々と本を読んでいた。美術書のようだ。陽葵は以前、美大に進学すると言っていた。
この時期になると、教室内ではしばしば進学のことについての話題が上がる。一年前は誰一人として気にもしていなかったのに。
俺は、一応文系の私立大学に進学するつもりだが、正直何がしたいのかよくわからない。遥太は有名国立大を受験するらしいし、尋も普段は将来とか気にしてなさそうだけど、頭はそれなりにいい。陽葵はしっかりとした夢を持っている。俺だけが、自堕落に生きている気がする。
千種は、どうだったんだろう。彼女なら、何にでもなれたのではないかと思う。
「今朝はごめん。尋を疑うような真似して」
「俺に謝るなよ」
「そうだけど、友人を疑うなんてどうかしてた」
「……しょうがないだろ。あんなメールが送られてきて、動揺しないわけねーよ」
こんなことを言っているが、多分一番動揺を表に出していたのは俺の方だ。遥太はただ冷静に事を分析して、その結果を述べただけだ。感情に翻弄されて物を言った俺が、彼を責めることはできない。
それからしばらくして、尋がやってきた。
「悪い、遅くなった」
その声に反応した陽葵は、本から視線を上げて「気にしないで」と返した。
「度々で申し訳ないんだけど、この後すぐに担任に呼び出されてるから行かなきゃならなくなった」
そりゃ夏休みを抜きにしても、一か月ほど、しかも高校三年という大事な時期に学校を休んだのだから、呼び出されて当然だろう。
「じゃあ、今じゃないほうがいいか」
「いいよ。どうせ一言だけで終わる。その後どうしたいかは、みんなで決めてくれ」
尋は陽葵の隣に座って、そして、単刀直入に告げた。尋が言い出したことに、遥太と陽葵は驚いていたが、俺は存外驚かなかった。それは、彼ならそうするだろうと薄々思っていたからでもあるし、俺自身も、そうすることを望んでいたからだ。
彼女の死の真相から、目を背けたままにはできない。
「――千種を殺した犯人を、見つけようと思う」