私達はそれから手当たり次第クラスメイトに聞いて回った。私は何も言わず、三人の後ろを付いていった。けれど、目立った成果は上がらなかった。返ってきたのは、覚えていないか、知らないかのどちらかだった。クラスメイトの死に関するメールよりも、高校最後の文化祭の方が、彼らにとっては重要らしかった。
「やっぱ出ねぇな」
蓮が椅子を前後に揺らしながら、溜め息交じりに呟いた。
「校舎に残っていた人がそもそも少ないしね。それに、三か月も前のことだし、詳細まで覚えていなくても無理ないよ」
警察の判断を覆すのは、容易いことじゃなかった。当然だった。難航することがわかって上で、それでも私達は始めた。全員が覚悟を決めたことだった。私も、そのつもりだった。
「そんな簡単に忘れられるものか? 千種のことなんだぞ?」
「忘れたくもなるさ。東堂のことを良く思ってるわけじゃないけど、こればかりは彼の意見が正しい気がする。誰だって、辛い記憶は消し去りたいものだよ」
「だからって、揃いも揃って都合よく忘れようだなんて……」
「今更言っても仕方ないよ。他の方法を考えよう」
それから各々思考を巡らせたが、なかなか別の案は出なかった。私も何か言わなきゃいけないという切迫感に駆られて、必死に考えた。
「……あのさ、千種の家に行ってみるってのはどう?」
浮かんだ案を、とりあえず言った。彼女の家に言って、何が得られるかもわからなかったけど、何でもいいから言わなきゃいけない気がした。自分もみんなと協力しているという確証がほしかった。
「家?」
「ほら、家なら何かまだ、手掛かり残ってるかもしれないし。もしかしたら千種の両親が、何か知ってるかもしれないって、思って……」
「なるほど、確かに盲点だった。悪くはないんじゃない?」
「いや、やめた方がいい」尋がきっぱりと言う。「遥太、お前が言ったことだぞ。千種の親だって忘れたいはずだ。それを無理に思い出させようとするのは、違うんじゃないか」
「そっか……」
その通りだった。私はそこまで頭が回らなかった。余計なことを言っただけだった。これじゃみんなの足手まといでしかない。
「でもよ、このままじゃ埒が明かないだろ」
「……ううん。尋の言う通りだよ。私が軽率だった」
「せっかく言ってくれたのに、ごめんな、陽葵」
尋が申し訳無さそうに言う。彼は何も悪くないのに。
「謝らないでよ。あんたがやり始めようって言ったんだから、私はあんたに従うまでだよ」
「……本当に、ありがとう。とにかく今は、地道に手掛かりを探していこう。それしかない」
結局、尋の意見に落ち着いた。何も変わっていない。それほど、できることが少ないということだった。
「そういえばさ。いや、ふと思ったんだけど……千種って兄弟とかいたのかな」
遥太が言った。みんなに言ったんだろうけど、目は私を見ていた。知っていると思っているのかもしれない。だけど、聞いたことがなかった。そんな話、したことがなかった。
「……どうだろう、聞いたことなかった」
申し訳なかった。遥太は大丈夫だと言うけど、このところ、何も知らない自分が本当に嫌になる。
「……俺らってさ、実は千種のこと、あんまりわかってなかったのかもな」
「…………」
まさに蓮の言う通りだった。仲間だと思っていたのに、友達だって思っていたのに、私は彼女のことを、きっと知ろうとしていなかったんだ。
私達はサラダボウル。趣味も違えば、共通点も少ない。寄せ集められて仲良くなったってことを考えれば、もしかしたら残飯を放り込む三角コーナーのほうが正確かもしれない。
「やっぱ出ねぇな」
蓮が椅子を前後に揺らしながら、溜め息交じりに呟いた。
「校舎に残っていた人がそもそも少ないしね。それに、三か月も前のことだし、詳細まで覚えていなくても無理ないよ」
警察の判断を覆すのは、容易いことじゃなかった。当然だった。難航することがわかって上で、それでも私達は始めた。全員が覚悟を決めたことだった。私も、そのつもりだった。
「そんな簡単に忘れられるものか? 千種のことなんだぞ?」
「忘れたくもなるさ。東堂のことを良く思ってるわけじゃないけど、こればかりは彼の意見が正しい気がする。誰だって、辛い記憶は消し去りたいものだよ」
「だからって、揃いも揃って都合よく忘れようだなんて……」
「今更言っても仕方ないよ。他の方法を考えよう」
それから各々思考を巡らせたが、なかなか別の案は出なかった。私も何か言わなきゃいけないという切迫感に駆られて、必死に考えた。
「……あのさ、千種の家に行ってみるってのはどう?」
浮かんだ案を、とりあえず言った。彼女の家に言って、何が得られるかもわからなかったけど、何でもいいから言わなきゃいけない気がした。自分もみんなと協力しているという確証がほしかった。
「家?」
「ほら、家なら何かまだ、手掛かり残ってるかもしれないし。もしかしたら千種の両親が、何か知ってるかもしれないって、思って……」
「なるほど、確かに盲点だった。悪くはないんじゃない?」
「いや、やめた方がいい」尋がきっぱりと言う。「遥太、お前が言ったことだぞ。千種の親だって忘れたいはずだ。それを無理に思い出させようとするのは、違うんじゃないか」
「そっか……」
その通りだった。私はそこまで頭が回らなかった。余計なことを言っただけだった。これじゃみんなの足手まといでしかない。
「でもよ、このままじゃ埒が明かないだろ」
「……ううん。尋の言う通りだよ。私が軽率だった」
「せっかく言ってくれたのに、ごめんな、陽葵」
尋が申し訳無さそうに言う。彼は何も悪くないのに。
「謝らないでよ。あんたがやり始めようって言ったんだから、私はあんたに従うまでだよ」
「……本当に、ありがとう。とにかく今は、地道に手掛かりを探していこう。それしかない」
結局、尋の意見に落ち着いた。何も変わっていない。それほど、できることが少ないということだった。
「そういえばさ。いや、ふと思ったんだけど……千種って兄弟とかいたのかな」
遥太が言った。みんなに言ったんだろうけど、目は私を見ていた。知っていると思っているのかもしれない。だけど、聞いたことがなかった。そんな話、したことがなかった。
「……どうだろう、聞いたことなかった」
申し訳なかった。遥太は大丈夫だと言うけど、このところ、何も知らない自分が本当に嫌になる。
「……俺らってさ、実は千種のこと、あんまりわかってなかったのかもな」
「…………」
まさに蓮の言う通りだった。仲間だと思っていたのに、友達だって思っていたのに、私は彼女のことを、きっと知ろうとしていなかったんだ。
私達はサラダボウル。趣味も違えば、共通点も少ない。寄せ集められて仲良くなったってことを考えれば、もしかしたら残飯を放り込む三角コーナーのほうが正確かもしれない。