翌日の卒業式は、春の穏やかな日差しの中で壮大に行われた。心配していた下田先輩も出席していたのを見て、なんだかんだ緊張していた私もほっと胸を撫でおろすことができた。

 式が終わり、あとは卒業生を見送るだけとなったタイミングで、私はひとり監査委員会活動室を訪れていた。

 監査委員会は、今日をもって正式に解散が決まっている。私は明日から、風紀委員会に新たに設置された部署で働くことになっていた。

 そのことに悔いはないとは言い切れないけど、それでも、田辺先輩が新たな場所でがんばってほしいと言ってくれたことで、気持ちに区切りをつけることができた。

「ここで、田辺先輩と出会ったんだよね」

 まだ片付けていない部屋を見渡しながら、ひとつひとつ思い出を辿るように残された備品に目を向けた。

 いつも田辺先輩が寝ていた穴だらけのソファー。

 急にいうことを聞かなくなるパソコン。

 予定が埋まることはなかったホワイトボード。

 田辺先輩と解決した事案書類が収められたロッカー。

 本当にいろんなことがあったし、もちろん、いいことだけでなく悪いこともあった。それでも、ここで田辺先輩と泣き笑いしながら過ごした日々は、私にとって大切なものであり、まさに私の青春(グローリーデイズ)そのものだった。

 ――ありがとう。そして、お世話になりました

 最後となる監査委員会活動室の鍵をかけ、お礼の言葉を心の中で呟く。監査委員会はなくなってしまうけど、思い出はちゃんと私の中で生きているし、私が出会った人たちはみな苦難を乗り越えて前に進んでいったから、私も新たに前を向いていくと改めて誓った。

「花菜ー、早くしないと置いていくよ」

「ちょっと、すぐに行くから待ってよ」

 卒業生の見送りが始まったみたいで、廊下の先にいた友達がせかしてくる。今日一番の笑顔を田辺先輩に見せることを決めていた私は、慌てて先に行く友達を追いかけていった。

 ―グローリーデイズ 完―