監査委員会に届けられる依頼は様々だけど、その中で圧倒的のは部活に関するトラブル相談だ。

 文武両道が学校の基本方針になっているから、生徒は何かしらの部活に所属するという暗黙のルールがある。

 当然、真面目に部活動に励んでいる人もいれば、適当に入部しただけという人もいる。そういうわけだから、どんなクラブにもトラブルは多岐に渡って発生することになる。

 そんな厄介事を手分けして対応にあたるのが監査委員会の仕事だけど、大半は田辺先輩が中身を見ないまま適当に問題なしの印鑑を押して終わることが多い。

 本当なら調査に一ヶ月かかる内容も、田辺先輩にかかると数秒で終わってしまう。その結果、あとに残るのは生徒の不満と私のため息だった。

 この日も、届けられた苦情に田辺先輩が問題なしの印鑑を片っ端から押し始めていた。やれやれと再び壮大なため息をついた瞬間、田辺先輩の手が止まったのが見えた。何事かと視線を向けると、最後の一枚に印鑑を押す手を止めて、田辺先輩が鋭い眼差しを書面に落としていた。

「これ、知ってる?」

 書面の陰から田辺先輩をこっそり観察していた私に、田辺先輩が急に書類を差し出してきた。

 慌てて受けとり、内容を斜め読みでざっくりと確認する。差し出し人は、女子バレー部のキャプテンである笹山先輩となっていた。

 内容は、男子バスケ部の不正を告発するもので、規則に定められた上限以上の部費を徴収しているというものだった。

「これって、部費が盗まれたことで発覚した問題ですよね?」

 脳裏に浮かんだのは、一週間前の事件だった。男子バスケ部の部費が盗まれたけど、なぜかすぐに戻されたというものだ。

 事件そのものは窃盗事件といっていいのか怪しいものだったけど、問題はその中身にあった。

 風紀委員会に申告されていた被害金額は四万二千円。バスケ部の部員数からしたら問題ない金額だったけど、発見された中身には、倍の八万四千円が入っていた。

「そのおかげで、バスケ部は規則の上限を超えて部費を徴収しているんじゃないかって、疑われているみたいなんです」

「なるほどな。だからウチにきたわけか」

 珍しく神妙な雰囲気で田辺先輩が腕を組む。田辺先輩のいうとおり、部費を盗んだ犯人を探すのは風紀委員会の仕事で、部費の中身を調べるのは監査委員会の仕事だった。

 だから、キャプテンの笹山先輩は監査委員会に不正を告発したというわけだ。

「盗難事件から、まさかの部費に関する不正の発覚か。これ、ちょっと調べてみるか」

「え? 本気ですか?」

 とっさに空を確認した私は、明らかに不機嫌な顔をした田辺先輩にポニーテールを引っ張られる。

 久しぶりに訪れた大チャンス。田辺先輩のすごさを知らせることになるかもしれないまともな仕事に、首は痛かったけど私の胸は自然と熱くなっていった。