3
「なんかじゃれあってるね、あのふたり。」
「ああ。案外、仲がいいんだな、あいつら。ああやって二人だけで直接はしゃいでるの、おれは初めて見る気がするよ」
「サキは基本、はしゃがないものね。もともとの設定というか。デフォルト設定?」
「だな。実際、はしゃがなすぎて、サイボーグ入ってるかと思うときあるよ」
「サイボーグ・サキ。」
「ロボティック・サキ。」タカキが続けた。「きわめてよくできた新時代型ヒューマノイドだ。欲を言えば、ポジティブ系統のソフトな感情表現のバリエーションにもうすこし技術開発の余地がある」
二人は同時に噴き出し、笑いの発作に包まれた。く、く、く、と。タカキは笑いを押さえるのに必死だ。ハルオミは腹をかかえて笑っている。
「で、実際どうなんだ。おまえらどこまで行ってる?」
ようやく笑いがおさまったあとで、タカキが言った。スリーパーに積もった褐色の砂をシューズで蹴った。砂埃はすぐに、線路の土手から吹きあがる南風にさらわれて消えた。
「ん? 行ってるって、何?」
ハルオミがタカキの方をふりかえり、まとまりの悪いカール気味の前髪を右手で左右に分けた。ハルオミは帽子のかわりに、白のタオルをバンダナのように広く頭全体に巻いている。巻き方のバランスが悪いのか、歩くたびに前髪がくずれてすぐにひたいに落ちてくるのだ。
そのかぶりもののファッションは、タカキの認識ではおそらくはるか遠い大航海時代の海の男らの装束が起源であるはずだが、ハルオミがそれをかぶると七つの海を馳せる屈強な男のニュアンスはどこにもなく、むしろ保育園児のお遊戯衣装のような、どこかかわいらしいソフトな雰囲気を醸し出していた。汗っかきのハルオミは、まだそれほど歩いてもいない時点からハアハア口で息をして、しょっちゅうバッグからボトルをとってはごくごく飲んでいる。
「シロヤナギと、だよ。おまえら正直、もうやっちゃってるのか?」
「何。それってけっこう露骨な話題?」
「いや。露骨っていうかさ、まあほら、やっぱちょっとは気になるじゃん? 友人のおまえが、おれよりどれくらい最前線の経験値ためこんでるか、とかさ。純粋な好奇心、的な?」
「それってぜんぜん純粋じゃないし。ってか、これ、昼間にする話題なの? んでから、あそこに本人、歩いてますけど?」
ハルオミがジュースのボトルで、二十メートルほど先をあるくシロヤナギの背中をちょいちょいと指した。
「いいじゃん。聞こえないよ。なに、おまえこういう話題ダメな人?」
タカキが笑い、右足のアウトソールでからかうようにハルオミを蹴った。
「だめってことはないけど。まあ、そりゃさ、」
ハルオミが言って、首を左右に振った。
「ん。まあ、言うとあれだけど、やることは全部もうすべてやっちゃってますよ。貧しいタカキくんの想像をこえるあらゆる最前線のあれらこれらをね。みっちりと。」
「おお。マジですか? そこのとこ、詳しく。詳細求む。」
「こらこら。食いつかない食いつかない。」
ハルオミが左手でタカキの肩をばんばんと叩いた。
「って、嘘だよ。実際のとこ、何もないよ。今のところはね。まだね。たまにちょっとキスするくらい?」
「なに。キスだけ? それも逆にむしろ、嘘くさいぜ。ってか、だっておまえら幼馴染だろ? しかも両家族公認の、生まれながらのカップル、的な?」
「ん、それ自体は否定もしないけど。でもいま言ったのは、ほんとのことだから。」
ハルオミが言って、足元のバラストを大きく蹴り散らした。
「なんてかさ、シロはさ、ちょっとおれには、綺麗すぎるんだよね。美人もあそこまで行くと、ちょっと遠慮する。公共財、っていうかさ。自分だけのものじゃなく、なんか、公共の福祉、じゃなく。なんか世の中ぜんぶの人のために存在する大事な女の子、っていうの?」
「公共財。自分の彼女に関してそんなこと言うやつ、おれは初めて見たな。マジで言ってるのかそれ?」
「まあね。でも、マジだよ。なんかマジメに、そういう感じしてさ。そうそうシロには、公共性の低いおれなんかが、それほど気軽に、なんか悪いことはできないよ。それにさ――」
ハルオミが、しばらく口を閉ざし―― ワークブーツの底で熱をおびたバラストをざくざく踏みながら。足元に視線を下げ、なにか言葉を、しばらく探していた。
「シロも、ふだんはああ見えて、けっこうシャイなところある。」
「シャイ?? どこのどのへんが?? もっともその言葉から距離の遠いとこにいるヤツじゃないのか、シロの場合は??」
「タカキはまだシロの一面しか知らない」
ハルオミが言った。感情の揺れのない、静かなトーンで。
「あいつは―― シロは。けっこうああ見えて、繊細だ。けっこういろいろ可愛いとこあるし、けっこういろいろ、真面目なとこもある。皮肉屋の大胆キャラやってるシロヤナギも。まああれも、たしかにシロの一部だけどさ。でも、そうじゃない、すごく繊細で傷つきやすいっていうか。とてもピュアで壊れやすいシロも、やっぱりそれはシロなんだよ。ってかさ、それ以前にさ、」
「む。なんだ。まだあるのか?」
タカキが意外そうにハルオミに目をやり、さきほどまでの冗談めかしたトーン抜きで静かにきいた。タカキの眼鏡のフレームが、陽光を反射してギラリと光った。
「まあ、本音で言っちゃうとさ。シロとはずっと子供の頃から、ずっと一緒だったでしょう。だからなんか、恋人って言うよりは。家族、っていうか。なんかちょっと近い従妹、あるいは妹、みたいな。そんな感じするよ。」
「妹。…あいつがそういう、キャラだろうか。おれには疑問だが――」
「まあでも。だから。なんかそういう身近なシロに対してさ。あんまりそういう、露骨な願望みたいの、なんか、浮かばないわけじゃないけど。なんかそういうので、今までのシロとのいろんなことを変えちゃうのが、ちょっぴり怖い。そう。怖いんだと思う。ただでさえ繊細なとこある複雑な子だからさ。そういう自分のギラギラしたシンプルなもので、せっかくのいろんないい関係を、なんか、ありきたりな自分本位の衝動で汚すのが、嫌だ。っていうのかな。うん。たぶんわりと、そういう感じだと思う。あえて簡潔に言えば、臆病者のチキンですいません、ってとこ?」
「……けどさ。別に、好きで、一緒になりたいとか。それが別に、汚いことばかりでもないだろう。自然なことじゃないのか? 好きな子と、ずっとひとつになりたいとかって。肌に触れてみたいって。おれがうっかり思っちゃうのは、それは間違ったことなんだろか?」
「いや別に。間違いとかでは、ないと思う。まあでも。それがなくても、いろいろ、綺麗なことや、すごく相手の可愛いとこがちゃんと見えたりとか。そういうのは、女と男のべたべたした何かと別個に―― とか、えっと。なに語ってるんだ、自分。ほら、タカキがなんか話ふるから。妙なテンション、なっちゃっただろう。やめよう。よそう。話題転換」
「おれはむしろ、もうちょっとお前の語りを聴いてたいとこは、正直あるぞ」
「それよりタカキも、自分のこと話してよ」
「自分のこと? おれがか?」
タカキが意外そうにハルオミの方に視線を振った。
「そうだよ。タカキはどうなの。誰かつきあってる子とかって。今、いたりするわけ?」
「…いや。今はとくに、ないな。」
「『今は』ってことは、前はいた?」
「ん。まあ、いたような、いなかったような」
「何だよ。自分のことになると、急にディフェンシブになるよね、タカキ?」
ハルオミが皮肉っぽく笑い、バッグのポケットからボトルをとって、自分の口にもっていく。蛍光イエローのその液体は、もうボトルの底に近いところまで減っている。
「じゃ、別の質問。いま、好きな子とかはいないの?」
「む。厳しい質問だな」
「ぜんぜん厳しくないですから。普通の質問でしょ?」
ハルオミが笑った。ボトルのキャップを閉じ、それをまた背中のバッグのサイドに戻す。
「っていうか。サキはどうなの?」
「あん?」
「サキのことは。けっこう好きとか、思っちゃってる?」
「…おい。具体的にくるな。けっこう、ボディーブロー的に?」
「この程度でダウンされると困りますね。っていうか。いまの返しは、けっこうあれだね。ちょっぴり答え、含んでました、的な?」
「いや。ぜんぜん答えは言ってないし」
「でもなんか、今朝とか、二人は、いい感じだったじゃない? なんか親密な二人の絵がそこにあった気がしたよ」
「今朝っていつだ。意味わからねぇよ」
タカキが笑った。そしてそのあと、ちっ。まいったな、と。そう言って自分の短い髪を右手で掴んでガシガシこすった。
「…いや、訂正する。正直おまえ、鋭いとこあるよな、ハルオミよ」
「ほら。図星だった」
「む。まあ、完全に認めることもないわけだが。全否定もしねぇと。その程度で、いまはおまえに言っとくことにするよ」
「ははっ。なにそれ。けっこうなにげに照れ屋さん?」
「照れてはいねぇ。まあ、全否定でもないって。おれはそう言っただけだ」
タカキは言って、それから唇の上に自虐的な笑みをつくった。
「まあ。そうだな。じっさい可愛いじゃん? あいつ?」
「あいつってサキ?」
「言わすな」
「むしろ言わせたいねぇ」
「バカやろう。やめだやめだ、この話題。それこそあっちに聞こえちまうよ。ここでうかつに自爆するとかは、おれの明るい近未来のオプションには入ってないからな。やめよう。なにかもっと別のこと話そう。ほら、ハルオミ。次の話題来い。」
「なにそれ。なんかせっかく盛り上がってきたのに。もう。照れ屋さん」
ハルオミは言って、ワークブーツのサイドでタカキのふとももを軽く蹴った。蹴られたタカキは、「いいから! 終われっつってんだよ、この話題!」と言って、足元のバラストを思い切りハルオミの方に蹴り散らす。タカキはそのあと笑って、
「くそ。やられたな。誘導尋問的に。ったく、ハルオミめ。」
と左手で頭を掻いた。
「なんかじゃれあってるね、あのふたり。」
「ああ。案外、仲がいいんだな、あいつら。ああやって二人だけで直接はしゃいでるの、おれは初めて見る気がするよ」
「サキは基本、はしゃがないものね。もともとの設定というか。デフォルト設定?」
「だな。実際、はしゃがなすぎて、サイボーグ入ってるかと思うときあるよ」
「サイボーグ・サキ。」
「ロボティック・サキ。」タカキが続けた。「きわめてよくできた新時代型ヒューマノイドだ。欲を言えば、ポジティブ系統のソフトな感情表現のバリエーションにもうすこし技術開発の余地がある」
二人は同時に噴き出し、笑いの発作に包まれた。く、く、く、と。タカキは笑いを押さえるのに必死だ。ハルオミは腹をかかえて笑っている。
「で、実際どうなんだ。おまえらどこまで行ってる?」
ようやく笑いがおさまったあとで、タカキが言った。スリーパーに積もった褐色の砂をシューズで蹴った。砂埃はすぐに、線路の土手から吹きあがる南風にさらわれて消えた。
「ん? 行ってるって、何?」
ハルオミがタカキの方をふりかえり、まとまりの悪いカール気味の前髪を右手で左右に分けた。ハルオミは帽子のかわりに、白のタオルをバンダナのように広く頭全体に巻いている。巻き方のバランスが悪いのか、歩くたびに前髪がくずれてすぐにひたいに落ちてくるのだ。
そのかぶりもののファッションは、タカキの認識ではおそらくはるか遠い大航海時代の海の男らの装束が起源であるはずだが、ハルオミがそれをかぶると七つの海を馳せる屈強な男のニュアンスはどこにもなく、むしろ保育園児のお遊戯衣装のような、どこかかわいらしいソフトな雰囲気を醸し出していた。汗っかきのハルオミは、まだそれほど歩いてもいない時点からハアハア口で息をして、しょっちゅうバッグからボトルをとってはごくごく飲んでいる。
「シロヤナギと、だよ。おまえら正直、もうやっちゃってるのか?」
「何。それってけっこう露骨な話題?」
「いや。露骨っていうかさ、まあほら、やっぱちょっとは気になるじゃん? 友人のおまえが、おれよりどれくらい最前線の経験値ためこんでるか、とかさ。純粋な好奇心、的な?」
「それってぜんぜん純粋じゃないし。ってか、これ、昼間にする話題なの? んでから、あそこに本人、歩いてますけど?」
ハルオミがジュースのボトルで、二十メートルほど先をあるくシロヤナギの背中をちょいちょいと指した。
「いいじゃん。聞こえないよ。なに、おまえこういう話題ダメな人?」
タカキが笑い、右足のアウトソールでからかうようにハルオミを蹴った。
「だめってことはないけど。まあ、そりゃさ、」
ハルオミが言って、首を左右に振った。
「ん。まあ、言うとあれだけど、やることは全部もうすべてやっちゃってますよ。貧しいタカキくんの想像をこえるあらゆる最前線のあれらこれらをね。みっちりと。」
「おお。マジですか? そこのとこ、詳しく。詳細求む。」
「こらこら。食いつかない食いつかない。」
ハルオミが左手でタカキの肩をばんばんと叩いた。
「って、嘘だよ。実際のとこ、何もないよ。今のところはね。まだね。たまにちょっとキスするくらい?」
「なに。キスだけ? それも逆にむしろ、嘘くさいぜ。ってか、だっておまえら幼馴染だろ? しかも両家族公認の、生まれながらのカップル、的な?」
「ん、それ自体は否定もしないけど。でもいま言ったのは、ほんとのことだから。」
ハルオミが言って、足元のバラストを大きく蹴り散らした。
「なんてかさ、シロはさ、ちょっとおれには、綺麗すぎるんだよね。美人もあそこまで行くと、ちょっと遠慮する。公共財、っていうかさ。自分だけのものじゃなく、なんか、公共の福祉、じゃなく。なんか世の中ぜんぶの人のために存在する大事な女の子、っていうの?」
「公共財。自分の彼女に関してそんなこと言うやつ、おれは初めて見たな。マジで言ってるのかそれ?」
「まあね。でも、マジだよ。なんかマジメに、そういう感じしてさ。そうそうシロには、公共性の低いおれなんかが、それほど気軽に、なんか悪いことはできないよ。それにさ――」
ハルオミが、しばらく口を閉ざし―― ワークブーツの底で熱をおびたバラストをざくざく踏みながら。足元に視線を下げ、なにか言葉を、しばらく探していた。
「シロも、ふだんはああ見えて、けっこうシャイなところある。」
「シャイ?? どこのどのへんが?? もっともその言葉から距離の遠いとこにいるヤツじゃないのか、シロの場合は??」
「タカキはまだシロの一面しか知らない」
ハルオミが言った。感情の揺れのない、静かなトーンで。
「あいつは―― シロは。けっこうああ見えて、繊細だ。けっこういろいろ可愛いとこあるし、けっこういろいろ、真面目なとこもある。皮肉屋の大胆キャラやってるシロヤナギも。まああれも、たしかにシロの一部だけどさ。でも、そうじゃない、すごく繊細で傷つきやすいっていうか。とてもピュアで壊れやすいシロも、やっぱりそれはシロなんだよ。ってかさ、それ以前にさ、」
「む。なんだ。まだあるのか?」
タカキが意外そうにハルオミに目をやり、さきほどまでの冗談めかしたトーン抜きで静かにきいた。タカキの眼鏡のフレームが、陽光を反射してギラリと光った。
「まあ、本音で言っちゃうとさ。シロとはずっと子供の頃から、ずっと一緒だったでしょう。だからなんか、恋人って言うよりは。家族、っていうか。なんかちょっと近い従妹、あるいは妹、みたいな。そんな感じするよ。」
「妹。…あいつがそういう、キャラだろうか。おれには疑問だが――」
「まあでも。だから。なんかそういう身近なシロに対してさ。あんまりそういう、露骨な願望みたいの、なんか、浮かばないわけじゃないけど。なんかそういうので、今までのシロとのいろんなことを変えちゃうのが、ちょっぴり怖い。そう。怖いんだと思う。ただでさえ繊細なとこある複雑な子だからさ。そういう自分のギラギラしたシンプルなもので、せっかくのいろんないい関係を、なんか、ありきたりな自分本位の衝動で汚すのが、嫌だ。っていうのかな。うん。たぶんわりと、そういう感じだと思う。あえて簡潔に言えば、臆病者のチキンですいません、ってとこ?」
「……けどさ。別に、好きで、一緒になりたいとか。それが別に、汚いことばかりでもないだろう。自然なことじゃないのか? 好きな子と、ずっとひとつになりたいとかって。肌に触れてみたいって。おれがうっかり思っちゃうのは、それは間違ったことなんだろか?」
「いや別に。間違いとかでは、ないと思う。まあでも。それがなくても、いろいろ、綺麗なことや、すごく相手の可愛いとこがちゃんと見えたりとか。そういうのは、女と男のべたべたした何かと別個に―― とか、えっと。なに語ってるんだ、自分。ほら、タカキがなんか話ふるから。妙なテンション、なっちゃっただろう。やめよう。よそう。話題転換」
「おれはむしろ、もうちょっとお前の語りを聴いてたいとこは、正直あるぞ」
「それよりタカキも、自分のこと話してよ」
「自分のこと? おれがか?」
タカキが意外そうにハルオミの方に視線を振った。
「そうだよ。タカキはどうなの。誰かつきあってる子とかって。今、いたりするわけ?」
「…いや。今はとくに、ないな。」
「『今は』ってことは、前はいた?」
「ん。まあ、いたような、いなかったような」
「何だよ。自分のことになると、急にディフェンシブになるよね、タカキ?」
ハルオミが皮肉っぽく笑い、バッグのポケットからボトルをとって、自分の口にもっていく。蛍光イエローのその液体は、もうボトルの底に近いところまで減っている。
「じゃ、別の質問。いま、好きな子とかはいないの?」
「む。厳しい質問だな」
「ぜんぜん厳しくないですから。普通の質問でしょ?」
ハルオミが笑った。ボトルのキャップを閉じ、それをまた背中のバッグのサイドに戻す。
「っていうか。サキはどうなの?」
「あん?」
「サキのことは。けっこう好きとか、思っちゃってる?」
「…おい。具体的にくるな。けっこう、ボディーブロー的に?」
「この程度でダウンされると困りますね。っていうか。いまの返しは、けっこうあれだね。ちょっぴり答え、含んでました、的な?」
「いや。ぜんぜん答えは言ってないし」
「でもなんか、今朝とか、二人は、いい感じだったじゃない? なんか親密な二人の絵がそこにあった気がしたよ」
「今朝っていつだ。意味わからねぇよ」
タカキが笑った。そしてそのあと、ちっ。まいったな、と。そう言って自分の短い髪を右手で掴んでガシガシこすった。
「…いや、訂正する。正直おまえ、鋭いとこあるよな、ハルオミよ」
「ほら。図星だった」
「む。まあ、完全に認めることもないわけだが。全否定もしねぇと。その程度で、いまはおまえに言っとくことにするよ」
「ははっ。なにそれ。けっこうなにげに照れ屋さん?」
「照れてはいねぇ。まあ、全否定でもないって。おれはそう言っただけだ」
タカキは言って、それから唇の上に自虐的な笑みをつくった。
「まあ。そうだな。じっさい可愛いじゃん? あいつ?」
「あいつってサキ?」
「言わすな」
「むしろ言わせたいねぇ」
「バカやろう。やめだやめだ、この話題。それこそあっちに聞こえちまうよ。ここでうかつに自爆するとかは、おれの明るい近未来のオプションには入ってないからな。やめよう。なにかもっと別のこと話そう。ほら、ハルオミ。次の話題来い。」
「なにそれ。なんかせっかく盛り上がってきたのに。もう。照れ屋さん」
ハルオミは言って、ワークブーツのサイドでタカキのふとももを軽く蹴った。蹴られたタカキは、「いいから! 終われっつってんだよ、この話題!」と言って、足元のバラストを思い切りハルオミの方に蹴り散らす。タカキはそのあと笑って、
「くそ。やられたな。誘導尋問的に。ったく、ハルオミめ。」
と左手で頭を掻いた。