実際の難易度だけを問題にした場合、市街の外に出ること自体は、じつは4人にとっての最大課題ではなかった。
 街を出るにあたってのもっとも大きな現実課題は、「どのように4日の不在を偽るか?」という問題。つまり、4日間、時間にして96時間以上自宅を空けるというのは、4人のうち誰にとってもそれほど小さなイベントとは言えないわけで、そしてそれだけの時間を無言のままに姿をくらますというのは、現実的に誰にとっても不可能だった。
 まずもって保護者が疑う。学院の関係者から事務連絡が入ることもある。4人の生徒の4日間の不在は、発覚した場合にはまず、大きな騒ぎを巻き起こすことは間違いなかった。最悪、市警察に通報がいって全市で捜索が行われるような大問題にもなりかねない。

 いくつかの試案を検討し、最終的に4人が採用したのは、「セミナー合宿」というプランだった。
 毎年シロヤナギ邸では夏の終わりに学院の優秀生徒十数名を集めたプライベートなセミナー合宿が恒例となっており(実際にはそんなものはない。が、4人で急遽、そのコンセプトを捏造した。)、今年に関しては、ハルオミとタカキとサキの3人もその名誉ある優秀メンバーにノミネートされた―― 大雑把に言えば、そのようなストーリー。

 ほかならぬシロヤナギ財団の邸宅で開かれるというその勉強イベントだ。全市のトップに近い、将来を約束された優等学生しか参加が認められないというその名誉あるセミナーに招待されたと聞いて、サキとタカキの保護者らは単純に歓喜し、その場で参加の許可を出した。シロヤナギが一晩つかって周到に準備したという架空の日程スケジュールと、華々しい文言をちりばめた招待メッセージを見せつけられた二つの家庭の保護者らは、まさかそれが偽造された架空のイベントであるとは疑いもしなかった。
 ただし上院議員の肩書を持つハルオミの父親の反応は、それほど単純ではなかった。


「ふふん。子供だましだな。セミナーっていう名目の、単なるお泊りイベントだろう? 知っているぞ? そもそもおまえはそこまでトップの成績ではないわけで、だいたいが、そんなたいそうなエリート向けのサマーセミナーなど、シロヤナギの屋敷で企画されたことは過去に聞いたことがない。」
 そういって父親は皮肉っぽく笑ったのだが。まあしかし、ウエダ家とシロヤナギ家は家族ぐるみの長いつきあいで、息子のハルオミの正規の婚約者であるシロヤナギ家の令嬢ルカは重篤な病をかかえて予断を許さないという。そういう中で、息子がこの夏—— あるいはルカにとっての最後の夏に、そういった遊びのイベントでシロヤナギ家に数日滞在することそのものには、特に父親は反対しなかった。
「ま、ルカちゃんとゆっくりいい時間を過ごすことだ。ただし。戻ったら、怠けたぶんをしっかり取り戻すんだぞ。それがわたしの条件だ。」
 最終的に承認を与えたハルオミの父親は、もうその5分後には、次回の特別予算審議会の準備会合のうちあわせで奥の部屋に引きこもり、その日はもう、ウエダ家においてその話題が話されることはなかった。