二日後の昼間、虎太郎から連絡があった。
 タロウ:泉さん、まだ杉ヶ裏にいるって!
 タロウ:それで、文也が会いたがってるっていって、電話番号教えてもらった!
 やった、と思わず文也は声を上げた。正直、あまり期待はできないと思っていた。住民の平均年齢が上がっている杉ヶ裏から、若い家族は次々と引っ越して出ていく。だから彼女たちも例にもれず、既に引っ越して行き先がわからなくともおかしくはない。そう考えていたから、これは随分な朗報だ。
 虎太郎から泉家の電話番号を聞いた翌日の昼間、文也は電話をかけた。緊張の最中、電話には狙い通り、少女の声が反応した。正午にかければ両親ではなく、夏休み中の彼女たちが出るのではと考えたのだ。親からの取り次ぎだと、ひと手間がかかるだろうという打算。
 どちらさまと尋ねるのに、「覚えてるかな、月城文也です」と丁寧に返事をする。
「文也って、あの、一緒に遊んでた……」
「そう。えっと、今喋ってるのはどっち?」当時から文也には、双子の声の区別がついていない。一卵性双生児の彼女たちはそっくりで、服や髪型を揃えていれば、実際にこの目で見ても当てられる自信はない。
「葉澄だよ。夏澄は出かけてる」事前に重三から連絡があったおかげか、双子の妹にあまり驚く気配はなかった。「私たちと話したいって聞いたけど、どういうこと」
「昔のことで、聞きたいことがあるんだ。覚えてる? 俺たちとよく遊んでたこと」
「覚えてるよ。文也と、桜ちゃんもよく一緒にいたよね」
「そうそう」桜の名前が自動的に出てくるのに、思わず声が弾む。「当時のことで、聞きたいことがあってさ」
「なに?」
「長くなるから、直接会って話したいんだ。出来れば、二人一緒に」
 少しの沈黙が下りる。二人はまだ中学二年生の女の子だ。昔の友人を装って騙している等を考えて、もしかしたら警戒しているのかもしれない。不安に思ったが、「お母さんに相談してみる」と葉澄は言った。
「私も、会えるなら久々に会いたい。宗像さんから話聞いてたし、いいって言うと思うけど」
 ワンクッション挟むと、これだけスムーズにことが進むのか。文也はほっとしながら、重三と虎太郎に感謝する。
 また後で連絡する、そう約束して葉澄は電話を切った。