さて、とりあえずスライム達の色が変わってしまったが翌日も元には戻らず、普通に過ごしている。
 特に問題なく元気で、むしろ色で差別化が図られたためどれが誰なのか識別しやすくなった。
 ちなみに青と緑はそう珍しくないが黄色とピンクは他に居ない希少種らしい。
 
 それと多少、性格に変化があったようでレッドのプロフィアは活発で、ブルーのレンジャーは大人しいといった感じだ。やはりイエローはカレーが好きなのか気になるが確かめようがないのでおいておこう。
 ピンクはサリアの肩に乗っていることが多く、恐らく性別的に女の子っぽい。花を挿してやると喜んでたしな。

 ……四匹同じ色を揃えたら消えたりしないだろうな?

 そんなこんなで新しい仲間が増えて賑やかになり、遊び相手が増えたアロンも大満足。子供用プールに水を張ってそこを住処にしてもらっているが、上から見ると太陽光を浴びて綺麗だったりする。
 朝、散歩でウチのアロンとたわむれに来た子供たちがプールを見て目を輝かせていたのはまた別の話。ちなみにきちんと挨拶ができるウチのスライムたちは相当賢いとみんなが言う。

 そしてスライム達が家に来てから1か月が経とうとしていた――

 ◆ ◇ ◆

「今日はゆっくり家で過ごす?」
「だなあ。マンドラゴラの情報も無いし、町で買い物でもして、ついでに両ギルドに行ってから情報収集しよう」
「うん! 出かける用意をするわね。……あら、騎士さん?」
「ん?」

 外でアロンやスライム達とボール遊びをしていると、騎士が一人、慌ててこっちへ向かってくるのが見えた。

「ヒサトラさん! たいへんたいへんたいへん……へんたいです!!」
「やかましい」
「ぐあ!? すみません、取り乱しました。今、ゴルフ場の建設を進めているところですが土地を切り開いていたところ、どうも見つけたみたいなんですよ」
「なにを?」
「……マンドラゴラです」
「なに!?」

 まさかその辺に生えているとは……いや、植物型の魔物ってことだからあり得るのか? この一か月まったく情報が無かったので、もし違ったとしても嬉しい報せだ。
 
 早速全員をトラックに乗せてゴルフ場まで向かう俺達。
 よく考えたら建設中の状態も見ていないので初お披露目になるんじゃないか?
 どれくらい再現できているか見てみるかな。

 そうしてトラックで2時間ほどの距離を進むと、でかいホテルのような建物が見えてきた。え、リゾートホテル……?
 近くにトラックを適当に止めて騎士達にホテルへ案内されると、執事のような男性に迎えられた。

「お待ちしておりましたヒサトラ様。このゴルフ場建設に一役買ってくださったと聞き及んでおります。サービス業という業種の確立を進言してくれたおかげで、我々のようななにも能力がない者でも働く場を作っていただき感謝しております」
「あ、いや、結局決めたのはソリッド様だしそこまで俺に感謝しなくても……」
「いいえ、この老体が働く場所などそうそうありませんからね。ありがとうございます」

 執事の爺さんが深々と頭を下げ、後ろに控えていた女性やご老人の面々が揃ってお辞儀をしてきた。
 俺はいたたまれなくなり、早めに立ち去ろうとマンドラゴラについて尋ねてみる。

「いや、それはソリッド様に言ってもらうとして……マンドラゴラが出てきたと聞いてきましたんでそっちに案内してくれると助かります」
「これは失礼しました、こちらへ――」

 執事さんに案内してもらいグリーンに足を踏み入れる。
 驚いたのは真面目にゴルフ場のホールになっていることだった。芝もほぼ再現できているし、それっぽいコースにちゃんとなっている。
 元々草原だった地域で環境破壊には至っていないあたり俺の話をちゃんと聞いてくれていたようだ。

「こりゃすげえや……!?」
<わんわん♪>
<!!>
「荒したらダメですからね」

 駆け出そうとしたアロンとスライムを制止し、執事の後をついて行く。そして建設途中である4ホール目に来た時、それを確認することができた。でかい葉っぱが地面からでろんと出ているのだが、どうやらこれがマンドラゴラらしい。

「……こいつか」
<ふんふん……>
「ええ、根っこが欲しいというのは聞いていました。しかし、これを掘り出すには魔法使いなどが居ないと犠牲者が出てしまいます故、お知恵を拝借したいと」
「なるほど」

 とはいえ、アロンやダイトに引っこ抜いてもらう訳にもいかないんだよな。
 もし影響があったら困るし。麻痺させればいいとか言っていたが急で用意できてないしやっぱり長いロープで引っこ抜く方がいいのか? トラックなら出来そうだし……

<!!>
<♪>
「お、なんだ? ……なに、お前らがこいつを引っこ抜いてくれるのか?」
<!!!>

 五匹が飛び跳ね、身体をにゅっと変えてサムズアップを作るのでどうやらそうらしい。

「なら任せていいかプロフィア」
<!>

 二度飛び跳ねた後、マンドラゴラの葉に集結するスライム達を置いて俺達はその場を離れて遠くへ離れる。
 状況を確認するため双眼鏡を覗いていると、行動が開始された。
 もちろんシンプルに五匹が葉を引っ張って抜くだけなのだが、力を合わせて体を伸ばしたり手の形に変えて握ったりと努力が涙ぐましい。

 そして――

<あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!!!!!>
「うるさ!?」 <きゃいん!?>
「きゃあ!?」

 空高くマンドラゴラが叫びながら空中を舞った! 目らしきものと口があり、手足のようなものも存在するようだ。そして足の先から根っこがでろんと伸びており、恐らくあれが目的の物だろう。
 で、そのまま地面に転がるかと思いきや、華麗な着地を決め、スライム達を一瞥した後、踵を返して歩き出した。
 
「移動するのかよ!? 待て待て!」
 
 俺は慌てて駆け出し、マンドラゴラの前へ回り込み通じるか分からないが尋ねてみる。

「お前の足から生えている根っこが必要なんだ、そいつを分けてくれないか?」
<?>

 マンドラゴラはスライム達に囲まれ、首を傾げる仕草を見せた。
 小さい腕……といっていいか分からないが、それで腕組みをして考えだし、しばらく見守っているとごろりと寝転がり、足を手でぺしぺしと叩く。

「お、くれるのか……?」
<あ”あ”あ”あ”!>
<♪>
<♪>

 マンドラゴラが怪しい声を発し、スライム達が交互に飛び跳ねる様子は怪しい儀式にも見える……
 が、足をぺしぺし叩き『一思いにやれ』といった感じで鳴くので、俺は持っていたハサミで足先から生えている根っこをばっさり切り落としてやる。

「これが材料になるんだ。ありがとよ」
「揉めなくて良かったね」

 サリアがマンドラゴラの根っこを丁寧にしまうと、手を振ってマンドラゴラが再び歩き出す。あいつにとって地面は寝床なんだろうな、そりゃ自分で移動できたら目撃情報はあまりねえかと妙に納得してしまう。
 見送っているとスライム達が追いかけてまたマンドラゴラに回り込む。

 <!!>
 <あ”あ”あ”あ”!>
 <!!>

「なにか会話している……? あ、戻って来た」
 
 サリアの言う通りスライム達と一緒にマンドラゴラが俺の足元までやって来て……おもむろにお辞儀をした。
 
「え? なんだ? お前もウチに来るのか?」
<あ”あ”あ”あ”!>
 
 体を何度も前に倒すので頷いているようだ。スライム達も飛び跳ねているのでどうやらスカウトしたらしい。

「……まあいいけど、人が死ぬような声は出すなよ?」
 
 俺がそういうとシュタッと右手を上げてアピールするマンドラゴラ。
 また変な生き物が住み着くことになったらしい……まあ、根っこがまた採れるかもしれないからいいけど。