私がK君のことを好きなことは当然理解していた。

だからといって、彼とどうなりたいとかはあまり考えないようにしていた。

それは彼にとって私は同じゼミの村人Cくらいにしか思われていないことを何となく感じていたからだ。

彼のことを知れば知るほど私の気持ちは一方的で、届いても返ってこないものだと知るのが怖かったからだ。

だけど彼には好きな人がいてその人と幸せなこと知ってしまった。

知ってしまったがゆえに、彼の横に私が立てないことは確定事項として私の中で認識されてしまう。

涙は出てこなかった。すでにいっぱい泣いて枯れたから、とかではなく唖然とすることしかできなかったからだ。

ただ、寝起きというのは嫌なもので、頭が元気に働こうとする。

考えたくなくても昨日のことが頭をよぎり始める。

途端に、昨日の分も含めて大粒の涙が大量にこぼれ落ちた。

静まり返った部屋には私の鼻をすする音だけが響く。

床に使って放り投げたままだった有線のイヤホンを拾い上げ、スマホに差しYouTubeを開いた。

1番上のオススメにマカロニえんぴつのレモンパイが流れてくる。

「レモンパイなんてどこで売ってんだバカ」

そう言って、スマホを閉じ横になる。

どれだけ落ち込もうがバイトの時間は元気にやってくる。

なんとか起き上がり最低限の準備だけ済ませバイト先へ向かう。

「1080円です。ポイントカードお持ちでしたらご提示お願いします」

考えずとも口から出る定型分で会計を終わらせていく。

そして、また次のお客様さんが来る。

「お願いします……って、佐藤さんじゃん」

突然私のことを呼んできたのはK君だった。

「えっ……」

驚きで言葉は喉に引っかかった。

今が外見的にもメンタル的にも1番会いたくない状態だったのに、最悪だ。

「なんか体調悪そうだけど、大丈夫?二日酔い?」

私がソフトドリンクを制覇しようとしていたことも彼の視界には入っていなかった。

その事実にまた私はちょっと落ち込む。

「大丈夫、大丈夫」

そう言って、見えている目元だけ笑顔を見せた。

ピッ、ピッとレジを通していく。

カゴから出てくるストロングゼロ、ポテトチップス、ワンデイのコンタクト洗浄液。

1つ1つに彼がこれから誰と何をするか想像できてしまった。

このコンビニを出たら彼はまた彼女の家に帰るのだろう。

カゴの1番底からコンドームが出てきた。

「はず」

彼は小声で言いながら、モニターに表示された会計額に視線を向ける。

「私も一緒に買ってよ」

最後に、一言いえたらよかった。