火曜日と木曜日は門限が長いと言っても、門限は17時半。あっという間に時間がきてしまう。
 帰り際に、心でうずうず埋めく問いを投げかけた。

 
「ちなみにだけど……今日、きゅんとしたりした?」

 笑顔で振り返った凜の表情に、余計に心臓の鼓動はドクドクと速くなる。
 期待に胸を膨らませて言葉を待つ――。
 
「あ、大丈夫! きゅんは全くしそうにないよ?」

 満面の笑みを浮かべてはっきりと言い切った。悪気のない言葉は俺の心を突き刺した。

「お、おう……そっか」

 きゅんとさせないように気をつけていたとはいえ、男女でデートみたいに一緒に過ごして全くきゅんとしないのは、どうなんだろう。男のプライドが切り裂かれるようだった。
 凜と長く一緒に過ごすには、きゅんとさせてはいけない。そうだ。だから、これが正解なのだ。傷ついた心を修復するために自分に何度も言い聞かせた。

 凜が俺に恋をしてしまったら、心臓の負担になる可能性があるので、俺たちの関係は強制終了だ。
 だから、俺は凜を絶対にきゅんとさせない。一日でも長くこうして一緒に過ごしたい。その思いが日々強くなっていた。


 お店を出て帰り道をゆっくりと歩いた。


 


 両手を上に上げて、大きく手を振る凛を見送る。
 今の俺には、凛と過ごせるだけで幸せなんだ。
 
 夕日のオレンジの光に包まれて歩く小さな身体を、影が見えなくなるまでいつまでも見ていた。