俺には追いかける勇気がない。ずっと答えが分からない難問を追いかけていた。正解を探して全力で走り続けていた。もう、走り続けなくていい。そう思うと、情けないが、どこかほっとしている自分がいるんだ。

 俺の心臓は正常だ。だけど、心臓辺りがひどく痛む。今まで感じたことのない痛みで、胸の中がぐちゃぐちゃだ。
 泣き崩れた顔は無様だったと思う。かっこ悪いから泣くのをやめよう。なんて冷静な判断は出来なかった。一度決壊が崩壊した涙腺からは、涙が止まってはくれなかった。

 どこかで予感はしていたんだ。終わりが来ることを。
 初めから終わりがあるのをわかっていた。わかっていたはずなのに、なぜこんなに苦しいのだろう。

 ただ彼女という存在が欲しかった。今は違う。凜のことが好きでたまらなくて、凜以外が彼女の立ち位置になるなんて想像できない。


 付き合うことはできない。キスも出来ない。それでもいい。それでもいいと思っていた。

 最初から分かっていたはずなのに。
 この関係には、失恋も得恋もないと。
 ハッピーエンドなんてなかったんだ。

 最初から分かっていたのに。
 凛がきゅんとしてしまったら、終わる関係ということを。

 誤算だとするなら、思っていた以上に凜のことを好きになっていた。
 なに本気になってんだよ。
 なんでこんなに辛いんだよ。

 終わりがある関係だと承知で始まった俺たちの関係。
 俺は浅はかだった。こんなに好きになるなんて思ってなかった。本気の恋が辛いだなんて知らなかったんだ。

 辛い。だけど。
 凜と会えなくなるのは、もっと辛い。
 キミと笑い合えない人生なんて、いやなんだ。
 
 
「凜、」

 去ろうとする背中に投げかけた。何度も呼んだ名前。愛しい人の名前だ。

 
「……っ。俺、カッコいいこと何も言えない。だけど、終わりと言われて。『はい。そうですか』って簡単に割り切れる気持ちでもないんだ」
「……」
「初めて俺からお願いしていい? 気持ちの整理がつくまで会いにきていいか?」

 彼女から答えはなかった。振り返ることなく去っていく。黙って去ったその行動が答えだと思った。
 一人取り残されて、俯くことしか出来なかった。歩き出す気力もなくて、その場から動けなかった。