力なく歩いてやっと自宅へと帰ってきた。凄く疲れたような気もするが、凜のことが心配で食欲もなにも湧かなかった。
発作が起きる前に凜が言っていた言葉が脳裏の片隅に居座ってる。
凜は妊娠出産をすると寿命が縮む……?
急いでネットで調べた。凜が受けた手術の名前は分からない。だから、心疾患にまつわる情報を片っ端から読んだ。調べていくうちに、凜の言っていた手術かと思われる内容が出てきた。記事を読んではみたが理解が全く出来ない。考えることを頭が拒否してしまうんだ。
字を読むのを身体が拒否しだすと、猛烈に頭が痒くなった。完全に俺の頭脳ではキャパオーバーだ。身体の拒否反応がその証拠だ。頭をポリポリ搔きながら、画面から視線を外した。
手術の詳細を一度読んだだけでは、到底理解できない。そんな難しい手術を、凜はあの小さな身体で受けたのか。健康のはずの心臓に痛みが走る。大きな息を吐いて、もう一度情報と向き合った。
おれは凛のことを知りたい。俺の不能な頭脳は、これ以上難しい情報を受け入れようとしない。だけど、負けじと気合でねじ込んだ。一度では理解できないなら、理解できるまで繰り返し読めばいい。10回、20回。何度でも読めばいい。
俺の役立たずな頭脳で理解したこと。
凜と同じ手術を受けて、無事に出産をされた方もいた。しかし、妊娠出産は母体にも胎児にも大きな危険を伴うということだった。
「俺、知らないからって……凜の前でなんて残酷なことを言ったのだろう」
ある記憶を思い出した。俺は凜に将来の夢を聞かれて「そこそこの会社に入って、結婚して。子供は好きだから3人欲しいな。男の子だったらキャッチボール。女の子だったら、パパと結婚するって言われたい。ありきたりな夢だよな。な。普通だろ? 俺の夢は」確かにそう言った。
何が普通だよ。どこが普通だよ。
凜はどんな気持ちで聞いていたのだろう。あの時の俺は、普通に出来ることだと。疑うこともなかった。
俺は凜に、どんなに酷いことを言ってしまったのだろう。あの時の凜の表情が頭にこびりついて離れない。
「凜。……ごめん」
月明かりに照らされた部屋で伝えることのできない謝罪を吐いた。
誰か俺をぶん殴ってくれ。行き場のない怒りが心を支配していた。