もしもこの想いが赦されるなら君に伝えたいことがあるんだ

 ◆◆◆
 あと30分で今日も変わり映えのない学校生活が終わる。
 そんなことを考えながら黙々とほうきを動かしていると不意に後ろから名前を呼ばれた。
「ちょっといいか?」
 私を呼んだのは担任の和田先生だった。
「……はい。なんですか?」
 少なくとも先生に呼び出されるようなことはしていないはずだ。
「今日の放課後少し話があるから相談室に来てくれ。あっ蒼井も一緒にな。話はしてあるからちゃんと来いよ」
「えっ……なんで蒼井、くんと一緒なんですか?」
 私の戸惑いに和田先生は豪快に笑ってこたえた。
「まぁ、来たらわかるから」
 先生の返事にため息をつきそうになるのを必死に堪えて「……わかりました」と頷いた。
「……木野さん。ここはいてもらってもいい?」
「あっうん。井上さんごめんね」
「ううん、ありがと」
 久しぶりに人に声をかけられた。
 今日は簡単には終わらないらしい。
 ……お母さんに連絡しなきゃな。
 梓は今度こそ深いため息をついてほうきを握りなおした。
「ーー起立。礼。さようなら」
 学校が終わるセリフを当番の人が元気よく言ってとうとう放課後だ。
 あーあ。放課後になっちゃった。
 いつもならもうとっくに席を立って下駄箱に向かってるはずなんだけど。
 ふと隣から視線を感じて顔を向ける。
「……なに?」
 思わずそう言ってしまうほど隣の席の蒼井が珍しいものを見たような顔で私をみていた。
「あ……いや、なんでもない」
 なんでもないはずない。
 そう思ったけど深く追求するのはやめた。聞いたところで意味なんかない。
「ならいいけど、先生から話聞いた?」
「あぁ。相談室に来いとかいうやつだろ?」
 めんどくさそうな返事をするところを見ると蒼井も内容は聞いてなさそうだ。
「そう、それ」
「めんどいしさっさと行ってさっさと終わらすか」
 そう言って立ち上がった蒼井と一緒に行くのは正直嫌だったけどその考えには同感だった。
「そうだね。行こっか」
 だから私はいつものように淡々と行動した。
「ーーおっ!来たな?まぁ座れ」
「……はい」
 明らかに気乗りしてない私とやたら機嫌がわるい蒼井。はたから見たら滑稽だろうな。
「どうして呼ばれたかはわかってるよな?」
「え?」
 この言葉はどっちのものだっただろう?もしかしたら2人のものだったのかもしれない。
「記憶のことだよ」
「ーーえ?」
「ーーは?」
 記憶と聞いたら心当たりしかないけど……。
 それをここで言うの?他人がいる前で?この先生ふざけてるの?
 ーー駄目だ。これ以上は駄目。落ち着け。忘れてしまう。それは駄目。
 また、悲しませてしまう。
「先生、ふざけてるんですか?そんなデリケートなことをこんな場所でしかも他人がいるところでなに言うつもりですか?」
 怒気をはらんだ声が隣から響いた。
 私が思っていたことを代弁したのは紛れもなく蒼井だった。