◇◇◇
「ーー好きだなぁ」
そう言って笑った木野があまりにも嬉しそうでついこぼしていた。
「……知ってる」
慌てて口をつぐんでほっとする。木野はなんも聞こえてなさそうだったから。
あまりにもここから動かないから、写真を撮ればと言えば「……たしかに」と素直に写真を撮り始める。
俺が勝手に写真を撮ったことにも全然気づかなかった。それくらい夢中で歩いていた。
だから気づいた。木野はたぶん忘れる。今日のことを……俺との会話も、この景色も。全部なかったことになる。
だから、俺が覚えておこう。明日の木野に教えられるように、俺もたくさん写真を撮ろう。木野が諦めてしまう過去を俺が拾ってやる。
「今日1日でたくさん写真撮ったなぁー」
帰りの電車で木野がぼやいた。
「ずっと思ってたんだけど、木野はなんでスマホあんまり使わないの?」
俺の言葉に一瞬考えるようにして首を傾げた。
「言われてみれば……そんなに使ってない、かも?」
「いや、かもってなんだよ」
「だって、そんなに意識したことなかったし、そんなこと言う人もいなかったし……」
目を逸らしながら言われた言葉にああ、と思う。
「あー、まぁ、これからはもう少し写真とか撮るようにすれば?それも俺たちの過去に繋がるだろ」
「……うん、わかった」
珍しく素直に頷いた木野に思わず「どうした?」と聞いてしまった。
「なにその反応。……私たちの過去を辿るのにこういうのはいいなと思っただけ」
「あっ、そ」
ちょっと照れたように言った木野を直視できなくて目を逸らす。
流れる景色を眺めながら息を吐いた。
窓の向こうは夕陽に照らされていて眩しい。目を細めて窓の向こうを見ていると不意に視界の端で揺れるものがあった。何事かと思って横を向けば木野がうとうとしながら揺れていた。
……疲れたんだな。
いつもと違う木野を観察していると、とうとう眠気が勝って動かなくなった。
あまりにも無防備で危なくてそっと頭を引き寄せる。
木野が起きたら驚くだろうな。
そんなことを考えながら肩に乗せたぬくもりを支える。
気持ちよさそうに寝息を立てる木野の頬をそっとなでる。
ーー木野が好きだ。
そう思ったのはいつからだったろう。
こいつがどうして過去を捨てたのかはわからない。
もしかしたら、探さない方がいいことの方が多いのかもしれない。俺の親も木野の親も不思議なほど記憶に関することを遠ざけているから。
ガタンッと大きく揺れる。
「っ……あぶな」
小声で呟くと隣にいる木野が身じろぎをした。
「ーー……ごめんね、ーー」
すっとひとしずくだけ流れ落ちる。
「……寝言?」
微かに聞き取れた言葉は謝罪だった。
他はわからなかったけど、いい夢じゃないことだけはわかった。……だけど、起こせなかった。今起こせばきっと木野は全部誤魔化して笑うから。
そういうやつだから。
それに、知らないふりをしていたかった。全部、なんでもないような顔をして諦める木野に、これ以上線を引かれないために。
黙って前を向いたまま車窓に流れる景色を追っているとやっと見覚えのある景色が現れた。
「……木野、起きろよ。おーい」
肩を少しだけ揺らすと閉じていた目がゆっくり開いた。
「ーー……ゆう?」
寝ぼけたまま呟かれた言葉に心臓が跳ねる。
「木野?起きたか?」
なんでもないふりをした俺の言葉にばっと頭を上げた。
「えっ?蒼井?」
寝ぼけた頭がまだ覚醒してないみたいで混乱したように目が泳いでいる。
「おはよう」
「え……と、おはよう?」
両手で髪を横で束ねるようにした木野の動きで今さら気づいた。いつもと雰囲気が違うと思ったら珍しく髪をおろしているんだ。
前はよくしていた髪型だったから気がつかなかった。
「えっと……ごめん。寝てた」
はっと我にかえる。
「いや、疲れたんだろ。ほら、次で降りるぞ」
言い終わったタイミングでアナウンスが流れた。
多少の揺れとともに電車が駅に入る。
その様子を見て乗客は各々席を立ったり荷物をまとめたりして準備を始めた。
最後に数人のバランスを崩して電車が止まる。
俺たちは行きと同じように人の流れに乗って電車を降りた。
「ねえ蒼井」
改札を出たところで木野に後ろから声をかけられた。
「なんだよ?」
珍しく声をかけて来た木野を振り返る。
「今日どうしてあそこに連れてってくれたの?」
「……なんとなく」
俺の返事なんて予想通りだったのか木野は特に何も言わずに「そっか」と笑った。
「なに?」
「なにが?」
きょとんと目を丸くした木野に問いかける。
「だから、そもそもなんでそんなこと聞きたかったんだ?」
「あー、特に意味はないけど……」
立ち止まった木野に桜の影がかかる。
「……今日、楽しかった、から。その……ありがとう」
そう言って照れたように笑った。
「……なあ、お前本当にあそこ行ったことなかったのか?」
木野が風にさらわれた髪をおさえながらつぶやいた。
「え?」
驚いたように目を見開いた木野を見て全部わかった。
「いや、なんでもない。……お前が楽しめたならよかった」
俺の言葉に「うん」と微笑んだ。
「じゃあ、帰るか。家どっち?」
「は?なんで?」
途端に怪訝そうにこっちを見てくる木野に苦笑する。
「そんな不審そうにすんなよ。もう遅くなるし送ってく」
夜の帷はもうおりている。
周りの暗さも増してきた。ふたりの影ももう夜の匂いに溶けている。
「あ、蒼井?」
「なんだよ」
「えっ?いや、本当に蒼井?」
あまりにも怪しんでくる木野に向かって盛大にため息を吐く。
「お前は今まで誰かもわからない奴と水族館行って、飯食って、帰りに隣で寝てたのか?」
「正真正銘、蒼井だ」
真顔で即答した木野にもういちど盛大なため息を吐く。
「ごめんって、蒼井が送るとかとか信じられなくて」
苦笑いで言われた言葉に「なんでだよ」と問い返す。
「えっ……だって、蒼井って基本的に人と距離とってるし。普段から誰にでも優しいならともかく、いつだって当たり障りない感じでやり過ごしてるじゃん」
何を今更。とでも言いたげな木野の表情に目を丸くする。
俺が思ってるよりずっとこいつは周りを見てんだな。
素直にそう思った。
「……あっそ」
短すぎる返事に木野が「ちょっと、そっちが聞いたんじゃん!」と怒ったように言った。
「はいはい。ほら、風も冷たくなってきたしそろそろ帰るぞ。さっさと家の方教えろ」
俺の態度に諦めたのか今度は木野が盛大にため息を吐いて「こっち」と前を歩き始めた。
5月の風はまだ冷たい。
「そういえば、蒼井は記憶の方はどうなの?なんか手掛かりあったの?」
ゆっくり歩きながら紡がれた言葉に足が止まる。
「ん?蒼井?」
足が止まったままの俺を木野が振り返る。
手掛かり。
何もなかった。そう言うのは簡単だ。だけど、俺は知ってしまった。
俺の過去と木野の過去。それはきっと繋がっている。
ずっとしまってあるノート。そこに書かれた字。言葉、行動。全部、過去の手がかりになっている。だけど、どれも決定的ではない。
「……いや、なんでもない。手がかりね、俺は日記を見つけた」
「日記?」
「そう」
「ふうん。蒼井も日記とか書くんだね」
意外。と続けられた言葉に笑う。
俺だってそう思う。らしくない。
「てか、今さらだけど私の家まあまあ遠いよ?本当に大丈夫?」
「ああ、大丈夫。ていうか、無理だったらそもそもこんなことしてないわ」
「たしかに」
そう言って笑う木野はやけに楽しそうだ。今もいつも通りに歩いてるはずなのに足取りが軽そうにみえる。
「木野は結局なんもないのかよ」
「ないねー。びっくりするほど何もない」
「それも変だよな」
「ねー。お母さんはなんか知ってそうなんだけどね」
やっぱり木野のところも親が何か隠してる。
「まあ、地道に探してくか」
「それしかないもんね」
そう言ってふたりは肩を並べて歩く。
住宅街に入ると色々な匂いがした。
夕飯の匂い。
木々の匂い。
花の匂い。
風の匂い。
その全てに少しずつ記憶がくっついていた。
たくさんの記憶のかけらを少しずつ集めてる。
そんな気がした。
「あっ、ここでいいよ」
10分ほど歩いたところで木野が声をあげる。
「本当にここでいいのかよ?」
周りには街灯も少なくてひとりで行かせるのは気が引ける。
「大丈夫。この角曲がって直ぐの家が私の家だから」
そう言って指をさした家はたしかにあと数分で着くような場所だった。
「そんなに近いならむしろ家の前まで送ってくけど」
「いい、大丈夫だよ。それにお母さんに見つかると説明が面倒くさくし」
木野の言葉にたしかにと頷いて「じゃあ」と手をあげる。
「なんかあったら連絡しろよ」
「うん、蒼井もね」
そう言って笑った木野に背中を向けて来た道を戻る。
こんなやりとりでさえ、懐かしいと感じている自分がいる。
俺たちが捨てた過去を探すのは簡単じゃない。そんなことわかっていたはずだ。だけど、木野と一緒にいる時に感じる既視感が早く見つけろと急かしてくる。
何か大切なことを忘れていて、早くしないと大変なことになる。そんな焦燥感があった。
だから、覚悟を決めよう。きっとあの日記を読めば全部わかる。
夜はまだまだ明けそうにない。
それでも暗い中闇雲に手を伸ばしても何にも届かないとしても、輝き出した星に手を伸ばさずにはいられなかった。
「ーー好きだなぁ」
そう言って笑った木野があまりにも嬉しそうでついこぼしていた。
「……知ってる」
慌てて口をつぐんでほっとする。木野はなんも聞こえてなさそうだったから。
あまりにもここから動かないから、写真を撮ればと言えば「……たしかに」と素直に写真を撮り始める。
俺が勝手に写真を撮ったことにも全然気づかなかった。それくらい夢中で歩いていた。
だから気づいた。木野はたぶん忘れる。今日のことを……俺との会話も、この景色も。全部なかったことになる。
だから、俺が覚えておこう。明日の木野に教えられるように、俺もたくさん写真を撮ろう。木野が諦めてしまう過去を俺が拾ってやる。
「今日1日でたくさん写真撮ったなぁー」
帰りの電車で木野がぼやいた。
「ずっと思ってたんだけど、木野はなんでスマホあんまり使わないの?」
俺の言葉に一瞬考えるようにして首を傾げた。
「言われてみれば……そんなに使ってない、かも?」
「いや、かもってなんだよ」
「だって、そんなに意識したことなかったし、そんなこと言う人もいなかったし……」
目を逸らしながら言われた言葉にああ、と思う。
「あー、まぁ、これからはもう少し写真とか撮るようにすれば?それも俺たちの過去に繋がるだろ」
「……うん、わかった」
珍しく素直に頷いた木野に思わず「どうした?」と聞いてしまった。
「なにその反応。……私たちの過去を辿るのにこういうのはいいなと思っただけ」
「あっ、そ」
ちょっと照れたように言った木野を直視できなくて目を逸らす。
流れる景色を眺めながら息を吐いた。
窓の向こうは夕陽に照らされていて眩しい。目を細めて窓の向こうを見ていると不意に視界の端で揺れるものがあった。何事かと思って横を向けば木野がうとうとしながら揺れていた。
……疲れたんだな。
いつもと違う木野を観察していると、とうとう眠気が勝って動かなくなった。
あまりにも無防備で危なくてそっと頭を引き寄せる。
木野が起きたら驚くだろうな。
そんなことを考えながら肩に乗せたぬくもりを支える。
気持ちよさそうに寝息を立てる木野の頬をそっとなでる。
ーー木野が好きだ。
そう思ったのはいつからだったろう。
こいつがどうして過去を捨てたのかはわからない。
もしかしたら、探さない方がいいことの方が多いのかもしれない。俺の親も木野の親も不思議なほど記憶に関することを遠ざけているから。
ガタンッと大きく揺れる。
「っ……あぶな」
小声で呟くと隣にいる木野が身じろぎをした。
「ーー……ごめんね、ーー」
すっとひとしずくだけ流れ落ちる。
「……寝言?」
微かに聞き取れた言葉は謝罪だった。
他はわからなかったけど、いい夢じゃないことだけはわかった。……だけど、起こせなかった。今起こせばきっと木野は全部誤魔化して笑うから。
そういうやつだから。
それに、知らないふりをしていたかった。全部、なんでもないような顔をして諦める木野に、これ以上線を引かれないために。
黙って前を向いたまま車窓に流れる景色を追っているとやっと見覚えのある景色が現れた。
「……木野、起きろよ。おーい」
肩を少しだけ揺らすと閉じていた目がゆっくり開いた。
「ーー……ゆう?」
寝ぼけたまま呟かれた言葉に心臓が跳ねる。
「木野?起きたか?」
なんでもないふりをした俺の言葉にばっと頭を上げた。
「えっ?蒼井?」
寝ぼけた頭がまだ覚醒してないみたいで混乱したように目が泳いでいる。
「おはよう」
「え……と、おはよう?」
両手で髪を横で束ねるようにした木野の動きで今さら気づいた。いつもと雰囲気が違うと思ったら珍しく髪をおろしているんだ。
前はよくしていた髪型だったから気がつかなかった。
「えっと……ごめん。寝てた」
はっと我にかえる。
「いや、疲れたんだろ。ほら、次で降りるぞ」
言い終わったタイミングでアナウンスが流れた。
多少の揺れとともに電車が駅に入る。
その様子を見て乗客は各々席を立ったり荷物をまとめたりして準備を始めた。
最後に数人のバランスを崩して電車が止まる。
俺たちは行きと同じように人の流れに乗って電車を降りた。
「ねえ蒼井」
改札を出たところで木野に後ろから声をかけられた。
「なんだよ?」
珍しく声をかけて来た木野を振り返る。
「今日どうしてあそこに連れてってくれたの?」
「……なんとなく」
俺の返事なんて予想通りだったのか木野は特に何も言わずに「そっか」と笑った。
「なに?」
「なにが?」
きょとんと目を丸くした木野に問いかける。
「だから、そもそもなんでそんなこと聞きたかったんだ?」
「あー、特に意味はないけど……」
立ち止まった木野に桜の影がかかる。
「……今日、楽しかった、から。その……ありがとう」
そう言って照れたように笑った。
「……なあ、お前本当にあそこ行ったことなかったのか?」
木野が風にさらわれた髪をおさえながらつぶやいた。
「え?」
驚いたように目を見開いた木野を見て全部わかった。
「いや、なんでもない。……お前が楽しめたならよかった」
俺の言葉に「うん」と微笑んだ。
「じゃあ、帰るか。家どっち?」
「は?なんで?」
途端に怪訝そうにこっちを見てくる木野に苦笑する。
「そんな不審そうにすんなよ。もう遅くなるし送ってく」
夜の帷はもうおりている。
周りの暗さも増してきた。ふたりの影ももう夜の匂いに溶けている。
「あ、蒼井?」
「なんだよ」
「えっ?いや、本当に蒼井?」
あまりにも怪しんでくる木野に向かって盛大にため息を吐く。
「お前は今まで誰かもわからない奴と水族館行って、飯食って、帰りに隣で寝てたのか?」
「正真正銘、蒼井だ」
真顔で即答した木野にもういちど盛大なため息を吐く。
「ごめんって、蒼井が送るとかとか信じられなくて」
苦笑いで言われた言葉に「なんでだよ」と問い返す。
「えっ……だって、蒼井って基本的に人と距離とってるし。普段から誰にでも優しいならともかく、いつだって当たり障りない感じでやり過ごしてるじゃん」
何を今更。とでも言いたげな木野の表情に目を丸くする。
俺が思ってるよりずっとこいつは周りを見てんだな。
素直にそう思った。
「……あっそ」
短すぎる返事に木野が「ちょっと、そっちが聞いたんじゃん!」と怒ったように言った。
「はいはい。ほら、風も冷たくなってきたしそろそろ帰るぞ。さっさと家の方教えろ」
俺の態度に諦めたのか今度は木野が盛大にため息を吐いて「こっち」と前を歩き始めた。
5月の風はまだ冷たい。
「そういえば、蒼井は記憶の方はどうなの?なんか手掛かりあったの?」
ゆっくり歩きながら紡がれた言葉に足が止まる。
「ん?蒼井?」
足が止まったままの俺を木野が振り返る。
手掛かり。
何もなかった。そう言うのは簡単だ。だけど、俺は知ってしまった。
俺の過去と木野の過去。それはきっと繋がっている。
ずっとしまってあるノート。そこに書かれた字。言葉、行動。全部、過去の手がかりになっている。だけど、どれも決定的ではない。
「……いや、なんでもない。手がかりね、俺は日記を見つけた」
「日記?」
「そう」
「ふうん。蒼井も日記とか書くんだね」
意外。と続けられた言葉に笑う。
俺だってそう思う。らしくない。
「てか、今さらだけど私の家まあまあ遠いよ?本当に大丈夫?」
「ああ、大丈夫。ていうか、無理だったらそもそもこんなことしてないわ」
「たしかに」
そう言って笑う木野はやけに楽しそうだ。今もいつも通りに歩いてるはずなのに足取りが軽そうにみえる。
「木野は結局なんもないのかよ」
「ないねー。びっくりするほど何もない」
「それも変だよな」
「ねー。お母さんはなんか知ってそうなんだけどね」
やっぱり木野のところも親が何か隠してる。
「まあ、地道に探してくか」
「それしかないもんね」
そう言ってふたりは肩を並べて歩く。
住宅街に入ると色々な匂いがした。
夕飯の匂い。
木々の匂い。
花の匂い。
風の匂い。
その全てに少しずつ記憶がくっついていた。
たくさんの記憶のかけらを少しずつ集めてる。
そんな気がした。
「あっ、ここでいいよ」
10分ほど歩いたところで木野が声をあげる。
「本当にここでいいのかよ?」
周りには街灯も少なくてひとりで行かせるのは気が引ける。
「大丈夫。この角曲がって直ぐの家が私の家だから」
そう言って指をさした家はたしかにあと数分で着くような場所だった。
「そんなに近いならむしろ家の前まで送ってくけど」
「いい、大丈夫だよ。それにお母さんに見つかると説明が面倒くさくし」
木野の言葉にたしかにと頷いて「じゃあ」と手をあげる。
「なんかあったら連絡しろよ」
「うん、蒼井もね」
そう言って笑った木野に背中を向けて来た道を戻る。
こんなやりとりでさえ、懐かしいと感じている自分がいる。
俺たちが捨てた過去を探すのは簡単じゃない。そんなことわかっていたはずだ。だけど、木野と一緒にいる時に感じる既視感が早く見つけろと急かしてくる。
何か大切なことを忘れていて、早くしないと大変なことになる。そんな焦燥感があった。
だから、覚悟を決めよう。きっとあの日記を読めば全部わかる。
夜はまだまだ明けそうにない。
それでも暗い中闇雲に手を伸ばしても何にも届かないとしても、輝き出した星に手を伸ばさずにはいられなかった。

