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 ーー俺たちが残した過去を辿る。
 晴れた空の下で真っ直ぐに響いた言葉に息が止まった。
 言われてみれば当たり前。
 私たちが残したものがあるはずなんだ。それこそ私が毎日残している日記もそのひとつ。
 過去を……記憶を、思い出す。
 雲を掴むような話だと思っていた。何から始めたらいいのかすらわからなくて、真っ暗なまま進んでいた。
 そこにみえたひかりが怖いくらいで。
 それでも、今の状況が変わるかもしれないなら、手を伸ばしてみるしかない。この今にも崩れそうな足元が崩れてしまう前に。

 「ーー……はあー」
 自分の部屋を見て心の底からため息をついた。それこそ、かなりの覚悟で自分の部屋を漁ったのに。
「……何にもない」
 1時間も探したのに本当にびっくりするほど何も見つからない。
 日記もずっとつけてるはずなのに今使ってるやつ以外どこにもない。写真だって流石にあるだろうとスマホのフォルダを見ても適当に撮った風景の写真があるくらい。
 おかしい。
 さすがにわかる。ほぼ確実にお母さんが隠したか捨てたかしている。
 でも、理由がわからない。
 お母さんは私に記憶を思い出して欲しいって言ってた。それなのに記憶に関わりそうなものをわざわざ隠す意味がわからない。
「ーー梓?何してるの?」
 後ろから聞こえた声にぱっと振り返る。
「お、母さん。ちょっと、部屋の掃除でもしようかなって……」
 心臓がバクバクいってる。
 お母さんの顔が見れない。怒ってるのが顔を見なくても伝わってくるほど声に温度がなかった。
「……そう、あまり余計なことしないでいいのよ。何がきっかけで忘れてしまうのかはっきりとはわかってないんだから」
 お母さんはにっこりと笑って言った。
 ただ目が全く笑っていなくて、私の身を案じてるように聞こえるけど、はっきりと余計なことをするなと釘を刺された。
「うん、ごめん。掃除はお母さんがやってくれてるしね。いつもありがとう」
 引き攣った笑いになっていないか気が気じゃなかった。
 ほんの数秒、伺うように私を見ていたけどお母さんは「大げさよ」と今度こそちゃんと笑ってリビングに戻って行った。
 いつもと違いすぎるお母さんの様子に不安が広がる。
 お母さん、何を隠してるの?
 ブーッとスマホのバイブが鳴る。
 画面を確認すると『いま、時間あるか?』と表示されていた。発信者は蒼井悠。
 タイミングがいいのか悪いのか……。
『なに?』
 すぐに既読になったと思ったら通話がかかってきた。
「……もしもし?」
『あっ木野?悪いな。ちょっと確認したいことがあったんだけど』
 いつもより少し低く聞こえる声に少しだけほっとした。
「なに?」
『いや、どうせお前のことだから今頃部屋中探してんじゃねぇのかなって思って、なんか見つかった?』
 その通り過ぎてなんとなく悔しかった。
「……なにも」
『は……?』
「だからーー何も見つからなかったの」
『…………』
 急に黙った蒼井に「どうしたの?……蒼井?」と呼びかける。
『ーー……いや、それじゃスマホとかに写真もなかったのか?』
「……うん、なんか驚くほど何もなかったよ」
『そう、か。とりあえず次の土日、暇だよな?」
「は?」
 失礼すぎるんですけど。
『これからどうするか会って話したほうがいいだろ。だから駅前集合な』
「は?ちょっーー」
 切れた……。なんなの?突然電話してきたかと思えば突然電話切って、何がしたいの?
 散らかった部屋でひとり、意味がわからないまま手元のスマホを見つめるしかなかった。