◇◇◇
生徒たちもまばらでまだ朝早い昇降口。
「おはよう」
仏頂面で話しかけてきた木野に驚く。
「……はよ。珍しいな」
俺の言葉にバツが悪そうに目を逸らした。
……昨日のこと、忘れてんだよな。
「……ちょっと聞きたいことがあって、今いい?」
木野は周りの様子を見ながら小声で言った。
「……ここじゃ無理だろ。……場所移すか」
そう言って上履きを落とした。
「…………」
黙ったまま俺の後をついてくる。いつもはこの時間はもう教室でつまらなそうに窓の外を眺めてるのに、廊下にいる木野の存在に周りも不思議そうにしていた。
その視線が居心地が悪いのか、木野はどんどん俯いていく。
たどり着いた場所に木野が驚いた。
「えっ、ここって使っちゃいけないところじゃないの?」
「大丈夫。それも含めて全部説明してやるよ」
そう言って屋上に続く扉を開けた。
朝だし外でも十分話せる。
ガチャンッと音がして扉がしまった。
「……さてと、お前。どこまで覚えてんの?」
「……たぶん一昨日までは覚えてる。……昨日のことは日記に書いてあったから知ってる」
「何が書いてあったんだよ?」
「……私と蒼井の記憶を、探すって」
さすがに昨日の木野も忘れることがわかってて今日につなげたんだな。
「ーー……そう、俺とお前が捨てた過去を探す」
俺の言葉に驚いたように目を丸くした。
「……それ、日記にも書いてあったけど、実際どうやるの?私はあの頃のことほとんど何も覚えてない。友達の顔すら……ううん、友達がいたのかさえわからないんだよ?」
木野の長い髪が風に揺らされる。
「だから、自分の残した過去を辿る」
「……私たちが残した過去?」
ピンときてない木野に言葉を重ねる。
「なんでもいい、使ってたノートでも仕舞い込んだ写真でも、好きだった曲でも過去になったからにはその瞬間を俺たちは辿ってる。その痕跡が絶対に残ってるはずなんだ。俺たちはまず、自分と向き合う」
過去を振り返るのは記憶だけじゃない。
大切にしていたものがあるはずだから。そこから自分を見つけていく。
そうして、俺たちに何があったかがわかってくるはず。
「ーー自分と向き合う……」
そういって何か考えるように口元に手を当てた。
足元からは生徒たちの笑い声が響いている。
今この瞬間だって過去になっていく。
「だから、これからは家に帰ったらまずは自分の部屋を調べよう。それで何か見つかったらまた連絡する。お互いな」
「ーー……わかった」
絞り出すように出された言葉にほっとした。
「じゃあ、先に教室戻れよ。俺はもう少したってから行く」
俺が考えてることがわかったのか黙って頷いた。
「あっ、そういえばここは俺たちが記憶の話をするのに使えって和田が言ってたからお前も好きに使えよ」
俺の言葉に振り返った木野に預かっていたものを投げる。
「それ、ここの鍵だから。絶対無くすなよ」
「うん、わかった」
うまくキャッチした鍵をスカートのポケットに入れていつも通りの無表情に戻る。
木野の後ろ姿を見送ってはあっと息を吐く。
自分から言っといて今さらだけど、俺も覚悟を決めないといけない。
現実と向き合う覚悟を。
まだ暑くなるには早いのに太陽はいつにも増して輝いていた。
生徒たちもまばらでまだ朝早い昇降口。
「おはよう」
仏頂面で話しかけてきた木野に驚く。
「……はよ。珍しいな」
俺の言葉にバツが悪そうに目を逸らした。
……昨日のこと、忘れてんだよな。
「……ちょっと聞きたいことがあって、今いい?」
木野は周りの様子を見ながら小声で言った。
「……ここじゃ無理だろ。……場所移すか」
そう言って上履きを落とした。
「…………」
黙ったまま俺の後をついてくる。いつもはこの時間はもう教室でつまらなそうに窓の外を眺めてるのに、廊下にいる木野の存在に周りも不思議そうにしていた。
その視線が居心地が悪いのか、木野はどんどん俯いていく。
たどり着いた場所に木野が驚いた。
「えっ、ここって使っちゃいけないところじゃないの?」
「大丈夫。それも含めて全部説明してやるよ」
そう言って屋上に続く扉を開けた。
朝だし外でも十分話せる。
ガチャンッと音がして扉がしまった。
「……さてと、お前。どこまで覚えてんの?」
「……たぶん一昨日までは覚えてる。……昨日のことは日記に書いてあったから知ってる」
「何が書いてあったんだよ?」
「……私と蒼井の記憶を、探すって」
さすがに昨日の木野も忘れることがわかってて今日につなげたんだな。
「ーー……そう、俺とお前が捨てた過去を探す」
俺の言葉に驚いたように目を丸くした。
「……それ、日記にも書いてあったけど、実際どうやるの?私はあの頃のことほとんど何も覚えてない。友達の顔すら……ううん、友達がいたのかさえわからないんだよ?」
木野の長い髪が風に揺らされる。
「だから、自分の残した過去を辿る」
「……私たちが残した過去?」
ピンときてない木野に言葉を重ねる。
「なんでもいい、使ってたノートでも仕舞い込んだ写真でも、好きだった曲でも過去になったからにはその瞬間を俺たちは辿ってる。その痕跡が絶対に残ってるはずなんだ。俺たちはまず、自分と向き合う」
過去を振り返るのは記憶だけじゃない。
大切にしていたものがあるはずだから。そこから自分を見つけていく。
そうして、俺たちに何があったかがわかってくるはず。
「ーー自分と向き合う……」
そういって何か考えるように口元に手を当てた。
足元からは生徒たちの笑い声が響いている。
今この瞬間だって過去になっていく。
「だから、これからは家に帰ったらまずは自分の部屋を調べよう。それで何か見つかったらまた連絡する。お互いな」
「ーー……わかった」
絞り出すように出された言葉にほっとした。
「じゃあ、先に教室戻れよ。俺はもう少したってから行く」
俺が考えてることがわかったのか黙って頷いた。
「あっ、そういえばここは俺たちが記憶の話をするのに使えって和田が言ってたからお前も好きに使えよ」
俺の言葉に振り返った木野に預かっていたものを投げる。
「それ、ここの鍵だから。絶対無くすなよ」
「うん、わかった」
うまくキャッチした鍵をスカートのポケットに入れていつも通りの無表情に戻る。
木野の後ろ姿を見送ってはあっと息を吐く。
自分から言っといて今さらだけど、俺も覚悟を決めないといけない。
現実と向き合う覚悟を。
まだ暑くなるには早いのに太陽はいつにも増して輝いていた。

