勢いを増す雨の中をふたりは黙って進んだ。
繋いだ手は硬く握りしめられている。
逃げるとでも思われてるのかな……。
どうせもう逃げる気力も体力もない。
不意に目の前の背中が止まった。振り向いた空来はわたしの顔と繋いだ手を交互に見てからそっと離した。
「これ着てて、いくら夏でも風邪引いちゃうから」
空来は着ていたパーカーを私に被せた。
……あったかい。
そう思って初めて自分の体が冷え切っていることを自覚した。
そして私の手をもう一度とった空来は再び歩き出しす。それから5分もしないうちに知らないマンションが見えてきた。
「……空来?」
どうやら目指してる場所があのマンションみたいで流石に不安になって声をかけた。
「ごめんね星音。嫌かもしれないけどその格好のまま家に帰るのはさすがにできないから僕の家行くよ」
申し訳なさそうに眉を下げた空来はそのまま慣れた手つきでマンションの中に入って行った。
その様子を後ろで眺めていると後ろから声をかけられた。
「あら、空来くん。こんにちわ」
響いた声に振り向くと化粧の濃い派手なおばさんが立っていた。
「どうも……行くよ星音」
後ろから聞こえた冷たい声に驚いて後ろを振り向く。
「……空来?」
どうしたの?
続けたかった言葉はおばさんの声にかき消された。
「ーーたまには両親に会ってあげたら?空来くんのお母さんだってきっと……」
「ーーお先に失礼します」
おばさんの言葉を遮るように吐き捨てられた言葉に驚く。空来に繋いでいた手を引かれて私はいつのまにかきていたエレベーターに乗り込んだ。
……初めて見た。空来が笑わないで誰かと会話するところ。
「ごめんね、星音」
申し訳なさそうに謝る空来に首を傾げる。
「なにが?」
「変なところ見せちゃったから」
眉を下げてそう答えた空来に納得した。
「別に私はいいけど……あの人すごく面倒くさそうだよ」
「別にいいよ」
「そっか……」
重くなる沈黙と一緒にエレベーターは階を進んでいく。声をかけた方がいいのかと考え始めた頃に扉が開いた。
「こっちだよ」
そう言って空来は私の手を引いて歩き始めた。そうしてたどり着いたのは1番奥の部屋だった。
「……ここ?」
「うん、とりあえず入って」
そう言いながら空来は玄関の扉を開いた。部屋に入るなり空来は「ちょっと待ってて」と言って家の奥に消えた。大人しく待っていると大量の白い何かを抱えた空来が戻ってきて私にかぶせた。
「えっちょっ……なに?ーー……タオル?」
「うん。ていうかそんなとこで立ってないで入っていいよ?」
「いや、濡れちゃうし……」
「そんなの気にしなくていいから。とにかく部屋おいで。いくら夏でもそんなに濡れたら風邪ひくよ」
言いながら奥に戻って行った空来に渋々従った。それでもかけられたタオルで念入りに体を拭く。
案内された部屋に入ったのはいいけど結局どこかに座るわけにもいかなくて私は立ったまま空来が戻るのを待っていた。
空来の家はモデルルームみたいだ。
よく言えば整理整頓がきちんとされていて、悪く言えば生活感がない。ちゃんと家電を使ってる形跡もあるのに……不思議な感覚。
人の家をあんまりジロジロ見るのも気が引けてやめた。
私も人のこと言えないし。
そう思っていると後ろから声が響いた。
「星音?何してるの?」
突然の空来の声にびくっと肩が震えた。私の反応に空来も驚いたみたいで「ごめん。びっくりした?」と目を丸くしながら問いかけてきた。
「ううん、大丈夫」
「そっか、あのね星音。たぶん嫌だと思うんだけどお風呂入ってきて」
空来の言葉に呆気にとられる。
お風呂?今から?本気で言ってる?
その疑問に答えるように空来が的確に話を進める。
「着替えはシャツとジャージ出しとくからそれ着てね乾燥機はここだから脱いだ服はそのまま入れといてくれればあとは僕ができるから大丈夫。……抵抗があるのはわかってるつもりなんだけどやっぱり体冷え切ってる状態じゃダメだよ」
そう言い切った空来は「僕はさっきの部屋にいるから上がったら声かけて」と言い置いて脱衣所から出て行った。
…………。
たしかに、服もかえたいし体も冷え切ってるけど……。
しばらく考えた末星音はどうにでもなれと諦めてお風呂に入った。
数十分であがって手早く着替えるとさっきの部屋から音がした。
「空来、お風呂ありがとう」
ソファに座っていた空来に声をかけると「どういたしまして」と優しく笑いながらテーブルを挟んで向かい側にあるソファを示した。
「座って?……言いたいことあるよね?」
「……そう、だね」
外では相変わらず滝のような雨が降り続いていた。
繋いだ手は硬く握りしめられている。
逃げるとでも思われてるのかな……。
どうせもう逃げる気力も体力もない。
不意に目の前の背中が止まった。振り向いた空来はわたしの顔と繋いだ手を交互に見てからそっと離した。
「これ着てて、いくら夏でも風邪引いちゃうから」
空来は着ていたパーカーを私に被せた。
……あったかい。
そう思って初めて自分の体が冷え切っていることを自覚した。
そして私の手をもう一度とった空来は再び歩き出しす。それから5分もしないうちに知らないマンションが見えてきた。
「……空来?」
どうやら目指してる場所があのマンションみたいで流石に不安になって声をかけた。
「ごめんね星音。嫌かもしれないけどその格好のまま家に帰るのはさすがにできないから僕の家行くよ」
申し訳なさそうに眉を下げた空来はそのまま慣れた手つきでマンションの中に入って行った。
その様子を後ろで眺めていると後ろから声をかけられた。
「あら、空来くん。こんにちわ」
響いた声に振り向くと化粧の濃い派手なおばさんが立っていた。
「どうも……行くよ星音」
後ろから聞こえた冷たい声に驚いて後ろを振り向く。
「……空来?」
どうしたの?
続けたかった言葉はおばさんの声にかき消された。
「ーーたまには両親に会ってあげたら?空来くんのお母さんだってきっと……」
「ーーお先に失礼します」
おばさんの言葉を遮るように吐き捨てられた言葉に驚く。空来に繋いでいた手を引かれて私はいつのまにかきていたエレベーターに乗り込んだ。
……初めて見た。空来が笑わないで誰かと会話するところ。
「ごめんね、星音」
申し訳なさそうに謝る空来に首を傾げる。
「なにが?」
「変なところ見せちゃったから」
眉を下げてそう答えた空来に納得した。
「別に私はいいけど……あの人すごく面倒くさそうだよ」
「別にいいよ」
「そっか……」
重くなる沈黙と一緒にエレベーターは階を進んでいく。声をかけた方がいいのかと考え始めた頃に扉が開いた。
「こっちだよ」
そう言って空来は私の手を引いて歩き始めた。そうしてたどり着いたのは1番奥の部屋だった。
「……ここ?」
「うん、とりあえず入って」
そう言いながら空来は玄関の扉を開いた。部屋に入るなり空来は「ちょっと待ってて」と言って家の奥に消えた。大人しく待っていると大量の白い何かを抱えた空来が戻ってきて私にかぶせた。
「えっちょっ……なに?ーー……タオル?」
「うん。ていうかそんなとこで立ってないで入っていいよ?」
「いや、濡れちゃうし……」
「そんなの気にしなくていいから。とにかく部屋おいで。いくら夏でもそんなに濡れたら風邪ひくよ」
言いながら奥に戻って行った空来に渋々従った。それでもかけられたタオルで念入りに体を拭く。
案内された部屋に入ったのはいいけど結局どこかに座るわけにもいかなくて私は立ったまま空来が戻るのを待っていた。
空来の家はモデルルームみたいだ。
よく言えば整理整頓がきちんとされていて、悪く言えば生活感がない。ちゃんと家電を使ってる形跡もあるのに……不思議な感覚。
人の家をあんまりジロジロ見るのも気が引けてやめた。
私も人のこと言えないし。
そう思っていると後ろから声が響いた。
「星音?何してるの?」
突然の空来の声にびくっと肩が震えた。私の反応に空来も驚いたみたいで「ごめん。びっくりした?」と目を丸くしながら問いかけてきた。
「ううん、大丈夫」
「そっか、あのね星音。たぶん嫌だと思うんだけどお風呂入ってきて」
空来の言葉に呆気にとられる。
お風呂?今から?本気で言ってる?
その疑問に答えるように空来が的確に話を進める。
「着替えはシャツとジャージ出しとくからそれ着てね乾燥機はここだから脱いだ服はそのまま入れといてくれればあとは僕ができるから大丈夫。……抵抗があるのはわかってるつもりなんだけどやっぱり体冷え切ってる状態じゃダメだよ」
そう言い切った空来は「僕はさっきの部屋にいるから上がったら声かけて」と言い置いて脱衣所から出て行った。
…………。
たしかに、服もかえたいし体も冷え切ってるけど……。
しばらく考えた末星音はどうにでもなれと諦めてお風呂に入った。
数十分であがって手早く着替えるとさっきの部屋から音がした。
「空来、お風呂ありがとう」
ソファに座っていた空来に声をかけると「どういたしまして」と優しく笑いながらテーブルを挟んで向かい側にあるソファを示した。
「座って?……言いたいことあるよね?」
「……そう、だね」
外では相変わらず滝のような雨が降り続いていた。