うるさい。
 朝からこれでもかというぐらいの声量で鳴くせみが私を叩き起こした。これは壁にでもくっついているかもしれない。
 ふわぁっと星音は大きく伸びをした。
 昨日のことがあったからって何かが劇的に変わるわけじゃない。いつも通りの朝で、いつも通りの私だ。なんとなくぐるっといつもの部屋を見回す。家族で住んでいた頃と何も変わらない。ひとりでは少し広い家。どうしたって私の中には死にたい気持ちも消えたいと願う気持ちも残っている。生きるべきなのは私じゃない。今でもその考えは変わらないけど……。ほんの少しだけ息がしやすくなった気がした。
 不意に空来の顔が浮かんだ。
 ……なんで。
 静かな部屋に機会音が響き渡った。
 ぴくっと肩を震わせて音の発信源を手に取る。
 ……電話?こんな朝早くに誰から……?
 怪訝に思いながら表示された名前を見て慌てて通話ボタンを押した。
『あっもしもし。おはよう、星音』
「うん。おはよう……えっと、空来?どうしたの?」
 少しの間があって空来が申し訳なさそうに言った。
『……本当に申し訳ないんだけど、今日さ好きなもの探しできそうにないんだ』
「別にいいけど……」
 なんだろうこの違和感。
『ごめんね。ありがとう』
 声がいつもと違う。電話だからっていうのもあると思うけど……それよりは。
「空来、もしかして体調悪い?」
『……』
 何も言わないのがこたえだ。
「熱は?頭痛とか大丈夫?」
 しばらく無言が続いてから諦めたようなため息が聞こえた。
『……さすが、よくわかったね。……熱は三十八度くらいかな?頭は痛いけど我慢できないほどじゃないよ』
 顔は見えないけど笑った顔で話してるんだろうなと思った。
 空来が風邪を引いた理由は間違いなく私のせいだ。
「ごめーー」
『星音のせいじゃないから謝んなくていいよ』
 私が言おうとしてる言葉に気づいていたのか先に言えなくされてしまった。
 前も思ったけど空来ってエスパーなのかな?いや、そんなわけないか。だとすると私って相当わかりやすい人間なんだろうか?
 ……とにかく今は空来の体調だ。
「薬は飲んだ?」
「……飲んでない」
「えっ?なんで?ってもしかして……まさか薬ない?」
「……うん、ちょうど切らしてて。でも、大丈夫だから」
 空来の言葉を無視して星音は考えていた。
 ……空来ってたしか一人暮らしだったよね。じゃあ家にないなら買ってこなきゃいけないけど、今の空来に買い物はできないし、買ってくるとか言ったらむしろ怒る。
 私が何も言わないからか空来が駄目押しのように『大丈夫だから、心配してくれてありがとう』と言った。
「……うそつき。どんどん声ひどくなってるし。さすがにわかるよ。……もし、迷惑じゃなかったらお見舞い行ってもいい?」
『えっ、いいけど』
「じゃあ待ってて1時間もすればそっち着くから」
『わかった』
 その言葉を最後に電話を切り上げる。
 カーテンの隙間から見えた空は壊れそうな青だった。