夏頃。
 私はいつの間にか、彼のペースにハマっていた。
 彼は機嫌がいいのか、百合絵もランチに誘い。
 私と黒城、百合絵の3人で食べる事になった。
 自意識過剰(じいしきかじょう)かもしれないが、彼にとって両手に花である。

 そして、いつものように百合絵と下校し、家につく。
 宿題をしたり、百合絵と『ロイン』電話して、くつろいだ。
 それから、夜眠る。

 私は知らない部屋にいた。
 
 なんだろう?
 
 私は部屋を見渡した。
 
 ブルーの壁紙に、サッカー選手のポスターが()られていた。
 本棚にはたくさんの漫画が置いてあった。
 薄型テレビに家庭用ゲーム機。
 それに、ギターも置いてあった。
 
 男性の部屋に見える。
 
 勉強机には、見知った人がいた。

 黒城じゃん!

 彼は勉強机に向かっていた。
 
 私は黒城に近づき、(のぞ)き込む。
 
 彼はノートに何かを書いていた。
 
 私は何を書いているのか、目を()らす。

【今日も楽しかった。ヒナタとたくさん喋れたし、楽しかった。それに百合絵さんもランチに誘ったら、オーケーしてくれたし、彼女も楽しく話せた。順調だ。これなら、そのうちヒナタとお付き合いできるんじゃないだろうか?】

『え?』

 私は驚く。
 もしかして、彼は私の事が好きなの?
 お付き合いしたいという事は、そういう事だよね?

【俺の居場所は、学校しかない。家にいても苦痛でしかない。今度、また高野の家にお邪魔しようかな】

 あれ? もしかして、家族と上手くいってないのかな?
 まあ、私も時々、お母さんと口喧嘩(くちげんか)になる。
 少しは気持ちはわかるよ。
 
 彼はシャーペンを置き、ベッドに寝そべった。

『彼も、悩んでいたんだね』

 そう思うと、彼を(にく)む気持ちが少し、(やわ)らぐ。
 
 彼は目から涙を流し、嗚咽(おえつ)を押し殺していた。
 
 私は彼の手を握ろうとした。
 
 だけど、意識が遠のく。


 その日から、毎晩(まいばん)のように彼の夢を()るようになった。

【今日もヒナタと百合絵でランチをとった。すごく楽しかった。だが、家に帰れば大嫌いな家で過ごす。てか、不倫してできた俺と生みの母親じゃない義母と一緒に暮らすのは、気まずいし、何を喋ったいいのかわからない。そもそも親父の不倫で生まれたが俺だ。ちゃんとした居場所を与えるべきだろう? それこそ一人暮らしとか、させるべきだ。親父って無責任だよな。ああ、次は佐藤の家にお邪魔しようかな】

 私はそれを読んで思った。
 なんというか、同情心(どうじょうしん)()いてきた。
 不倫(ふりん)で出来た彼は、日々、辛い思いをしていたのだ。
 だからといって、誰かを、私を、下僕していいわけではない。
 
 私はどうしたらいいんだろう?
 
 彼に優しくすべきだろうか?