彼の下僕なってから、一週間が()つ。

 いつものように屋上(おくじょう)でランチをしていた。
 
 そう、またあのクマさんレジャーシートに座ってだ。
 
 黒城は惣菜(そうざい)パンを一口、食べモグモグと咀嚼(そしゃく)する。

 (だま)っていれば、イケメンだが。
 (しゃべ)るとだいなしの、残念女ならぬ、残念男。
 
 そんな残念男である、黒城が私を見る。

「高野陽介って知ってるか?」
「知ってる……」

 高野陽介(たかの ようすけ)
 私と同じ3年A組でクラスメイトだ。
 運動神経(しんけい)もよく、勉強もできる。
 それに明るい性格でちょっと、陽キャな感じだ。
 クラスの人気者なのは知っている。

「あいつは、小野紅葉さんの事が好きなんだ、だから美術部に入部したんだぜ?」

 マジか! まさか小野紅葉(おの もみじ)さんが好きなんて!
 確かに3年B組。小野紅葉さん。
 性格も温和で人当たりがいい子だ。
 イラストとか見せてもらった事あるが、上手すぎて、将来プロになれるんじゃないかって強く思うほど、衝撃を受けたのを覚えてる。

「へぇ、そうなんだ……」
 
 だが、私はあえて別に興味がないような態度(たいど)をとる。

「あいつはどっちかっていうと、バスケが好きなんだが、小野さんの事が好きすぎて、小野さんが所属している美術部に入部したんだ。結構、情熱的だよな」

「ふ~ん……」

 ああ、絶対、百合絵にその話をしたい。
 実は、高野陽介さんが小野紅葉さんに好意(こうい)(いだ)いて、美術部に入った事に。

「あのさ、今度の休日。お茶しないか?」
「え?」

 一瞬、何を言ってるのか理解できなかった。

「もちろん、相沢さんと一緒でかまわない!」

 彼は前のめりで近づく。
 距離が近い! てか、次は何を(たくら)んでいるの?
 とにかく、一人で決められる内容じゃない。

「えーっと、百合絵に聞かないと、わからないから」

 そう言うと、黒城はもっと私に近づく。
 だから、近いって!

「わかった! ぜひ、聞いてくれ!」

「う、うん……」