下僕なって次の日。
 
 私はいつものように、百合絵と登校していた。

「黒城くんって、カッコいいよね。イケメンだしスタイルもいいし」
「別に」

 確かにあいつは見た目がいい。だが、性格は腹黒く、盗撮したり脅したりする、最低野郎だ。

「あれ? もしかして嫉妬(しっと)してるの?」

 百合絵はニヤニヤする。

「そんなんじゃ、ないよ!」
「そんなに怒らなくてもいいじゃん!」

 百合絵は私の(ほほ)をツンツンする。
 
 百合絵に暴露(ばくろ)すべきだろうか?

 そして、教室にたどり着き。
 すると、黒城がこちらにやってくる。

「おう! ヒナタ!」

「お、おはよう……」

「今日、昼食一緒にとろうぜ」

「え?」
「いいよな?」
 笑顔だが、目は氷のように冷たい。
 私は(おび)えそうになるが。
 グッとこらえ。

「えっと、私は一緒に食べる子がいるんだけど?」
 私に近づき、
「(バラしていいのか?)」
 小声で(ささや)かれ。
 ビクっとした。

 マズい、バラされたら私だけじゃなく、百合絵もクラスメイト達に白い目で見られるようになってしまう。
 私は覚悟(かくご)を決め。

「うん、いいよ! 一緒に食べよう!」
「よし、決まりだな!」

 昼食の時間。
 彼と屋上で食べる事になった。

 百合絵には申し訳ないが、他の生徒と食べてもらった。
 彼女は不満(ふまん)げだったが、ちゃんと後日、訳を話すといったら、渋々(しぶしぶ)了承(りょうしょう)してくれた。

 空は青く、いい天気。
 何で、こういう時、雨が降っていないんだろう?
 空を(うら)めしく見上げていると。

「ほら、ここに来いよ」

 黒城は笑顔で手招(てまね)きして来る。
 笑顔は素敵(すてき)なのに、やる事は最低なんだよね。
 私は嫌な気分に(ひた)りながら、トボトボ歩く。

「ほら、ここに座って」

 床にはレジャーシートのようなモノが()かれていた。

「何、コレ?」

 レジャーシートにはクマさんの絵柄(えがら)(あい)らしくのっていた。

「何って、クマだけど? 可愛いだろ?」

 彼は恥ずかし気もなく、シートの絵柄を指で(しめ)す。

「可愛いけど……なんか恥ずかしいんだけど?」

 今時の小学生でもこんな恥ずかしいレジャーシートは選ばないだろう。

 彼は真顔(まがお)になり。

「可愛いは無敵(むてき)なんだ」
「はぁ? 意味わかんないだけど?」

 その言葉の使い方間違ってませんか?
 私が(あき)れていると、なぜか私をジロリと(にら)み。

「ほら、座れって。命令だ」
 
 私ははぁっと、ため息をもらし。

「はいはい」
 
 しょうがない、座るか。

「……」

「……」

 しばらく沈黙(ちんもく)が続いた。
 こんな奴と話す事はない。
 私はもくもくと弁当を食べる。

「なぁ、ヒナタ」

「……」

「無視すんなよ!」

「何?」

 私はギロリと睨む。
 ナオトは若干(じゃっかん)(ひる)み。

「おお、こわ~」

 そうやって、怖がってくれた方がいい。

「下僕の私に、何の用ですか?」

 あえて、笑顔で言ってみた。

「毎日、俺とこうやってランチしようぜ」
「嫌です。キモいです。最悪です」
「そ、そこまで言う!?」

 黒城は、かなりショックを受けたのか、涙目(なみだめ)になる。

「あんたってさ。本当に最低だよね。なんの非もない女子生徒を下僕にさせるなんて。もしかして体が目当てなの?」

「いや、ち、違う!!」

 黒城は(あわ)てて否定(ひてい)する。

「100パーセント、違うの?」

 私がそう言うと、彼は一瞬、(なや)み。

「いや、20パーセントくらいは」

「やっぱり体が目当てなの!?」

 私は自分の胸を両手で(かく)す。

「か、体だけじゃないんだ!」

 彼は慌てて(さけ)ぶ。
 そんなわけがない。

「本当に最低だね! あんたは!」

 とどめを()したつもりだが、彼は怯まず。

「ヒナタ!」

 彼は真顔になった。

「な、何よ!」

 急にどうしたの?

「お前は下僕だろ。そんな事いっていいのかよ」
 
 冷たい眼差(まなざ)しを向けられ、私は(おび)えそうになった。

「……わかった。言い過ぎたね」

「わかればいい」

「……」

「……」

 せっかくお母さんが作ってくれた弁当もマズく感じる。

 ああ、もう最悪!!