ある日の夏。

「ああ、もうすぐ夏休みだねぇ~」

 百合絵が下敷(したじ)きを扇子(せんす)のように(あお)ぐ。

「そうだね」

 私も下敷きで仰いでいた。

「俺、夏休み嫌いだな」
 黒城はつぶやく。

「どうして?」
 私が問いかけると、黒城は苦笑し。

「夏休みの宿題とか、だるくない?」
「確かに~」
 百合絵は同感する。

 彼は不倫で生まれた子。
 あの家にいるのは苦痛だろう。
 どうしたらいいんだろう?
 彼のために何かできないだろうか?
 そう、思い()めてると。
「――どうしたの? ヒナタ?」
 突然、ヒナタに声をかけられハッとする。
「あ、ううん何でもない……」

 
 そして、いつもの幽体離脱である。 
 彼はいつものように、ノートに日記を(つづ)っていた。

【今日もヒナタと百合絵さんでランチをした。美人二人がいると心が躍る】

 思わず、彼の頭にチョップ。
 まあ、すりぬけちゃうけどね。

【この前、百合絵さんから告白メールを受け取った】

『え?』

【返事はいつでもいいと言っていたが、正直、戸惑っている。俺の好きな人はヒナタだから】

 えええッ!?
 おい、どういう事だ! 百合絵!
 あんた、私と付き合ってるじゃん! 
 まさか、百合絵は浮気しようとしてる?

【百合絵さんを振ったらどうなるだろう? そうなったら、百合絵さんに嫌われてしまうだろうか?】

 振ってちょうだい!
 百合絵は私の彼女なの。
 振っていいんだよ!

【よし、振ろう】

 そうだよ! 振るのが正解だよ!