私の名前は百合川ヒナタ(ゆりかわ ひなた)

 私には秘密がある。

 同性の彼女と付き合っている事に。

 付き合ってる彼女は相沢百合絵(あいざわ ゆりえ)。

 パーマのかかった長い茶髪に大きな黒い瞳。
 小柄でリスのように愛らしい姿をしている。
 性格は明るく元気でクラスの人気者。
 そんな彼女と恋仲なのだ。

「俺、お前と彼女とキスしている所、見たんだ」

 その男は、黒城直人(こくじょう なおと)

 同じ1年A組のクラスメイトであるイケメン男子だ。

「はぁ!? 何を言ってるの?」
 
 私は(まゆ)をひそめ、『何言ってるんだ、コイツは?』的な表情で言った。
 ヤバい、公園でキスしてるところ、見られた?
 内心、冷や汗をかいてる。

「そんなわけないじゃん。私も百合絵も男が好きなの」

 声が(ふる)えないように、腹にぐっと力をいれて(しゃべ)る。

「ふ~ん、これを見てもか?」
 
 彼はポケットから写真を取り出し、私に渡す。
 そこには、私と百合絵がキスをしている姿だった。

「ちょ、何を勝手に!」

 私は彼から写真を(うば)いとる。

「女性同士キスするなんて、ヤバいね~」

「盗撮なんて、犯罪だよ!」
 
 私は慌てて、写真を破る。
 だが、彼はまたポケットから写真を取り出し。
 同じ写真をヒラヒラと見せる。

「で、コレ。クラスの連中に見せたら、どうなるかな?」

「やめて!!」

 私はまた奪いとろうとしたが、取れなかった。
 ネガフィルムがあるかぎり、いくらでも写真を現像(げんぞう)できる、くらいの知識はある。
 私は意味がないと、思いつつも、彼が持っている写真を奪いとろうとした。

「ねぇ、何でこんな事をするの? 人として最低じゃないの?」
 
 私は彼を(にら)みつけ、正論を投げてみた。
 
 悪戯(いたずら)のレベルを超えている、これはもはや犯罪なのでは?

「だってよ。リアル百合だぞ? 面白い話題(ネタ)になりそうじゃん」

 黒城は(わる)びれもせず、無邪気(むじゃき)に答える。

「さ、最低!!」

「ん? そんな事いっていいのかな? バラしてもいいのかな?」
 
 まるで悪党のような邪悪(じゃあく)()みを浮かべる。
 顔も整っているし、スタイルいいけど、とんでもない悪人だ。
 
 私は(つば)()()み。

「何が、欲しいの? 金?」
 
 1万円くらいなら(はら)える。
 
 黒城は腕を組み、思案(しあん)すると。

「そうだな……よし、俺の下僕(げぼく)になれ!」

「はぁ!?」

 そう、この日から、私は黒城の下僕になったのだ。