ちゃんと連絡先を聞こうと心に決めて、待ちに待った夏休み明けの学校に向かう。
結局毎日帰りに図書室を覗いても彼女に会えることはなく、長いようで短かった、今までで一番苦痛だった夏休みが終わり、今日からまた学校が始まった。
「ちゃんと連絡先聞くんだぞ」
「わかってるよ」
彼女と時間を共にする代わりに、瑛介と過ごしてきた夏休み。彼とは少し、踏み込んだ仲になれた気がする。
「また明日」
それだけ口にして、急ぎ足で図書室へ。
なんでかな。二学期が始まってから、やけに「卒業」が現実味を帯びてきたのは。
一緒に卒業できてもできなくても、きっと彼女とは離れ離れなら、ここで学問も恋愛も頑張る他ない。
「あ、久しぶり」
図書室の戸を開けると、待ってましたと言わんばかりに窓際で僕に手を振っている彼女。
あれ、なんで。
あんなに会いたかったのに、恋を自覚した途端話し方も彼女のそばに歩いていく歩き方も、わからなくなってしまった。
「どうしたの?夏休み、楽しくなかった?」
立ち止まってしまった僕のそばに、彼女から歩み寄ってくれる。
ドキドキと、心臓が早鐘を打つのがよくわかる。
「勉強漬けで、模試の結果が楽しみで……。えっと……」
夏休み中に受けた模試は、少し自信があった。夏休み明けに彼女に猛アタックするために、必死で勉強をしたから。
でも、こんなことを話したいわけじゃない。もっともっと、楽しい話がしたい。
「そっか。いいことだ」
でもなぜか、彼女のほうが誇らしげに笑っていた。
「優澄先輩は、夏休み何してたんですか?」
聞いてみると、少し困った顔をした。
少し考えて、彼女は「しっかり休んでた」と、下手な作り笑いで、多分、嘘をついた。
「ねぇ、ちょっと時間ある?」
彼女は懇願するように僕を見た。
「はい、あります」
勉強なんてそっちのけで、僕は彼女との時間を取った。
「ちょっと付き合って」
彼女はそう言うと、図書室を出た。