「母さん、ちょっといい?」
結局昨日は体育祭のゼッケンの縫い付けとか、団Tシャツの準備とか諸々で、全てが終わる頃には母さんが寝てしまっていたのだ。
「うん。どうしたの?」
テレビドラマを見ていた母さんは、それを躊躇することなく切って僕の方を見た。
溜め込んできた不安が、僕の言葉を押しつぶそうとするのを必死で押えて、新鮮な空気を肺に入れる。
「お願いがあるんだ」
綺麗だって、彼女が何度も褒めてくれた。
その言葉が欲しくて、文化祭の絵も気合を入れて書いたんだ。
「なに、どうしたの」
適当に書いたはずなのに、無意識にイラスト学部があるところを書いていたのは、きっとそれに惹かれていたから。
簡単に夢を捨てられるほど、浅い夢ではないから。
「僕、将来イラストレーターになりたい」
あぁ、言ってしまった。
これから傷つくことを言われるのは分かっているのに。だから今まで、夢なんてないふりをして生きてきたのに。
母さんの顔を見ると、スローモーションのように口が動くのが、さらに僕の緊張を加速させる。
「いいんじゃない?」
「え?」
それは意外な答えだった。
だって去年、触れるようで触れない話をしたときは全く別の意見だった。
イラストレーターでやっていける人はひと握りだと、もっと現実的な夢を吊べきだと、テレビの特集でやっているときにぼそっと話していたのだ。
だから、こんなに話すのを躊躇して、諦めるべきか悩んでいたのに。
実際話してみたら、意外と呆気なかった。
「簡単じゃないと思うけど、努力する前から夢を諦めてたら叶うものも叶わないからね」
そう、まるで優澄先輩のような言葉を並べていた。
「いいの?」
「いいに決まってるじゃない。そのつもりで第一志望の大学選んだんじゃないの?」
違います、とは到底言えなかった。
こういうときのために、こうなればいいという願望がなかったと言えば嘘になる。
「うん。……母さん、ありがとう」
「頑張りなさいね」
まっすぐな言葉で背中を押された。
リビングを出ると、カラン、と夏のはじまりを感じさせる、涼しげな音が聞こえてきた。
結局昨日は体育祭のゼッケンの縫い付けとか、団Tシャツの準備とか諸々で、全てが終わる頃には母さんが寝てしまっていたのだ。
「うん。どうしたの?」
テレビドラマを見ていた母さんは、それを躊躇することなく切って僕の方を見た。
溜め込んできた不安が、僕の言葉を押しつぶそうとするのを必死で押えて、新鮮な空気を肺に入れる。
「お願いがあるんだ」
綺麗だって、彼女が何度も褒めてくれた。
その言葉が欲しくて、文化祭の絵も気合を入れて書いたんだ。
「なに、どうしたの」
適当に書いたはずなのに、無意識にイラスト学部があるところを書いていたのは、きっとそれに惹かれていたから。
簡単に夢を捨てられるほど、浅い夢ではないから。
「僕、将来イラストレーターになりたい」
あぁ、言ってしまった。
これから傷つくことを言われるのは分かっているのに。だから今まで、夢なんてないふりをして生きてきたのに。
母さんの顔を見ると、スローモーションのように口が動くのが、さらに僕の緊張を加速させる。
「いいんじゃない?」
「え?」
それは意外な答えだった。
だって去年、触れるようで触れない話をしたときは全く別の意見だった。
イラストレーターでやっていける人はひと握りだと、もっと現実的な夢を吊べきだと、テレビの特集でやっているときにぼそっと話していたのだ。
だから、こんなに話すのを躊躇して、諦めるべきか悩んでいたのに。
実際話してみたら、意外と呆気なかった。
「簡単じゃないと思うけど、努力する前から夢を諦めてたら叶うものも叶わないからね」
そう、まるで優澄先輩のような言葉を並べていた。
「いいの?」
「いいに決まってるじゃない。そのつもりで第一志望の大学選んだんじゃないの?」
違います、とは到底言えなかった。
こういうときのために、こうなればいいという願望がなかったと言えば嘘になる。
「うん。……母さん、ありがとう」
「頑張りなさいね」
まっすぐな言葉で背中を押された。
リビングを出ると、カラン、と夏のはじまりを感じさせる、涼しげな音が聞こえてきた。