準備期間、一度も彼女に会うことができないまま、当日を迎えてしまった。
なんとなく、見に来てほしかった。美術部の活動として、大きなキャンパスを並べて絵本を作った。
彼女にみてもらえて、素敵だと言ってもらえたら、この前結局話せなかった、僕の夢の話を今度こそ母さんに話せる気がした。
公立高校なだけあって、そこまで大掛かりでない文化祭は、自由に動ける時間が多かった。
いつも待ち合わせをする図書室。
この前初めて行った屋上。
もちろん僕の教室にもいないし、保健室も誰かがいる気配はなかった。
どうやら、本当に来ていないらしい。
「佐々木!どうした?探し物?」
仕事でもないのにバタバタ動き回る僕を見て、クラスメイトが不思議そうな顔をしていた。
「いや、そういうんじゃないよ」
「そうか?あ、あと、お前の絵、めっちゃ綺麗だな」
そのまま立ち去るのかと思ったら、ぱっと振り向いて思い出したかのように言った。
「え?」
「なんかこう、うわーってなった!」
手をパタパタと動かしながら、感情を表現している。
「ありがとう」
照れくさかった。嬉しかった。
でも、彼女に見てもらいたかったと、彼女からの感想が欲しかったと、ワガママなことを思った。
もう一度、と、美術部の作品が展示してある、図書室の前の多目的コーナーへ向かうと、誰もいない静かな雰囲気の中、まっすぐ僕の絵を見つめている、探し求めていた彼女がいた。
「優澄先輩?」
「あ、見つかっちゃった」
僕の声に驚きながらも、ニコニコと笑顔をうかべる彼女がそこにいた。
「惺也くんの絵、綺麗。白雪姫の、特にこの森のところ。心がポカポカする」
後ろで手を組んで、茶色くて綺麗な瞳がその絵へ向いている。
「先輩、お腹空きませんか?メロンパン、今日安いんですって」
さっきは普通にありがとうと言えたのに、彼女の前になると、嬉しくて、嬉しくて、照れを隠すのが下手になってしまうらしい。
「あー、ごめんね。私もう帰るんだ」
眉尻を下げて、申しわけなさそうに笑った。
来ないと言っていたのに、わざわざ見に来てくれたんだ。それだけでもありがたいと思わないと。
「そうなんですね。ありがとうございます。見に来てくれて」
「当然だよ。私、惺也くんの友達だもん」
そう、笑顔を絶やさずに言う彼女の言葉が、グサッと僕に刺さった。
別にどこにも傷つく要素はなかったのに、ないはずなのに、その傷はやけに痛かった。
「じゃあ、午後も頑張ってね」
彼女はそれだけ告げて、廊下を歩いていってしまった。
謎の痛みは一度忘れることにして、今夜、絶対に母さんに話そうと心に決めた。
なんとなく、見に来てほしかった。美術部の活動として、大きなキャンパスを並べて絵本を作った。
彼女にみてもらえて、素敵だと言ってもらえたら、この前結局話せなかった、僕の夢の話を今度こそ母さんに話せる気がした。
公立高校なだけあって、そこまで大掛かりでない文化祭は、自由に動ける時間が多かった。
いつも待ち合わせをする図書室。
この前初めて行った屋上。
もちろん僕の教室にもいないし、保健室も誰かがいる気配はなかった。
どうやら、本当に来ていないらしい。
「佐々木!どうした?探し物?」
仕事でもないのにバタバタ動き回る僕を見て、クラスメイトが不思議そうな顔をしていた。
「いや、そういうんじゃないよ」
「そうか?あ、あと、お前の絵、めっちゃ綺麗だな」
そのまま立ち去るのかと思ったら、ぱっと振り向いて思い出したかのように言った。
「え?」
「なんかこう、うわーってなった!」
手をパタパタと動かしながら、感情を表現している。
「ありがとう」
照れくさかった。嬉しかった。
でも、彼女に見てもらいたかったと、彼女からの感想が欲しかったと、ワガママなことを思った。
もう一度、と、美術部の作品が展示してある、図書室の前の多目的コーナーへ向かうと、誰もいない静かな雰囲気の中、まっすぐ僕の絵を見つめている、探し求めていた彼女がいた。
「優澄先輩?」
「あ、見つかっちゃった」
僕の声に驚きながらも、ニコニコと笑顔をうかべる彼女がそこにいた。
「惺也くんの絵、綺麗。白雪姫の、特にこの森のところ。心がポカポカする」
後ろで手を組んで、茶色くて綺麗な瞳がその絵へ向いている。
「先輩、お腹空きませんか?メロンパン、今日安いんですって」
さっきは普通にありがとうと言えたのに、彼女の前になると、嬉しくて、嬉しくて、照れを隠すのが下手になってしまうらしい。
「あー、ごめんね。私もう帰るんだ」
眉尻を下げて、申しわけなさそうに笑った。
来ないと言っていたのに、わざわざ見に来てくれたんだ。それだけでもありがたいと思わないと。
「そうなんですね。ありがとうございます。見に来てくれて」
「当然だよ。私、惺也くんの友達だもん」
そう、笑顔を絶やさずに言う彼女の言葉が、グサッと僕に刺さった。
別にどこにも傷つく要素はなかったのに、ないはずなのに、その傷はやけに痛かった。
「じゃあ、午後も頑張ってね」
彼女はそれだけ告げて、廊下を歩いていってしまった。
謎の痛みは一度忘れることにして、今夜、絶対に母さんに話そうと心に決めた。