彼女と出会って一ヶ月。
思い返すと、図書室に通いつめている日々が続いていた。
お互い約束しているわけではないから、確実に会えるというわけではないけど、それでもいつもの窓際で外の景色を眺めている彼女を探しに来る時間は苦痛ではなかった。むしろ少し楽しみなくらい。
「最近真面目だな。受験生らしくていいじゃないか」
図書室に入る直前、たまたまそこを通りかかった担任が、どこか嬉しそうに言った。
「あはは」
目的は学習じゃなくて女の子なんです、なんて口が裂けても言えない。
先生の背中を見送って、図書室の扉を開ける。
「おー、久しぶり!」
最近は窓の外ではなく、出入口を見て待っている彼女が、なんだか可愛らしく思えてきた。
「久しぶりです」
一日二日会っていないだけで、当たり前のように交わされるこの会話。
静かな図書室で、小さい声だけど話すのが聞こえているのか、数人が怪訝そうな顔をしてこちらを見た。
「惺也くんの教室、行きたいな」
どこかに移動しようかと考え始めたら、心を読んだように彼女が行き先を指定した。
「じゃあ、そうしましょう」
彼女は歩く音さえ響かせなかった。廊下が動いているのかと思うくらい、静かに歩いていた。
「三組かぁ。去年の私と同じだね」
「そんなんですか?」
「うん。今年は……どこだっけ。忘れちゃった」
彼女は今日も、空を見ながら悲しそうな顔をした。
「どう?勉強は順調?」
僕の方を笑顔で振り向いた。
「模試の判定は、まあまあよかったです」
見せようかと、カバンの中を漁るけど、こんなもの見せたところで何かを期待しているわけではないから、そのまま筆箱を出した。
「私もねー、同じ大学A判定貰ったことあるんだよ」
懐かしむように、話して聞かせてくれる。
そんな彼女がどうして、留年なんて……。
「すごいでしょ。だからわかんないところあったら聞いて。教えてあげる」
彼女はそう、頼れる先輩みたいに言ってくれるけど、変な違和感だけが心に残った。
いじめられていたのか、他に出席日数が足りなくなるような事情があったのか。
そうじゃなかったら、僕だったらA判定をもらって学校に行きたくないとは思わないだろう。
「優澄先輩」
「んー?」
窓の外、今度はグラウンドを見下げている彼女。
「文化祭と体育祭、出るんですか?」
出るんだったら、僕が隣で……。
え、何考えてるんだ、僕は。
思いもしない感情が、僕の中に生まれていた。
これが彼女に対する同情なのか、友達としてなのか、なんだかよくわからなかった。
「でないよ。そっか、もうそんな時期かぁ。準備があるからしばらく会えないね」
体育祭は無理でも、文化祭くらい……と思ったけど、彼女の事情は彼女にしかわからないのだ。仕方ない。
「惺也くんは、思いっきり楽しむんだよ。最後の学校祭なんだから、やり残したことがないようにね」
彼女からかけられる言葉は、まるで何かをやり残した、余命が残り少ない人みたいだった。
「優澄先輩も、後悔しないように過ごしてくださいね」
まだまだ先は長くても、高校生活でやり残したことが達成できるのは、卒業してしまったらないに等しい。
もし見かけたら、一緒に楽しめたらいいな、なんて、短絡的なことを考えていた。
思い返すと、図書室に通いつめている日々が続いていた。
お互い約束しているわけではないから、確実に会えるというわけではないけど、それでもいつもの窓際で外の景色を眺めている彼女を探しに来る時間は苦痛ではなかった。むしろ少し楽しみなくらい。
「最近真面目だな。受験生らしくていいじゃないか」
図書室に入る直前、たまたまそこを通りかかった担任が、どこか嬉しそうに言った。
「あはは」
目的は学習じゃなくて女の子なんです、なんて口が裂けても言えない。
先生の背中を見送って、図書室の扉を開ける。
「おー、久しぶり!」
最近は窓の外ではなく、出入口を見て待っている彼女が、なんだか可愛らしく思えてきた。
「久しぶりです」
一日二日会っていないだけで、当たり前のように交わされるこの会話。
静かな図書室で、小さい声だけど話すのが聞こえているのか、数人が怪訝そうな顔をしてこちらを見た。
「惺也くんの教室、行きたいな」
どこかに移動しようかと考え始めたら、心を読んだように彼女が行き先を指定した。
「じゃあ、そうしましょう」
彼女は歩く音さえ響かせなかった。廊下が動いているのかと思うくらい、静かに歩いていた。
「三組かぁ。去年の私と同じだね」
「そんなんですか?」
「うん。今年は……どこだっけ。忘れちゃった」
彼女は今日も、空を見ながら悲しそうな顔をした。
「どう?勉強は順調?」
僕の方を笑顔で振り向いた。
「模試の判定は、まあまあよかったです」
見せようかと、カバンの中を漁るけど、こんなもの見せたところで何かを期待しているわけではないから、そのまま筆箱を出した。
「私もねー、同じ大学A判定貰ったことあるんだよ」
懐かしむように、話して聞かせてくれる。
そんな彼女がどうして、留年なんて……。
「すごいでしょ。だからわかんないところあったら聞いて。教えてあげる」
彼女はそう、頼れる先輩みたいに言ってくれるけど、変な違和感だけが心に残った。
いじめられていたのか、他に出席日数が足りなくなるような事情があったのか。
そうじゃなかったら、僕だったらA判定をもらって学校に行きたくないとは思わないだろう。
「優澄先輩」
「んー?」
窓の外、今度はグラウンドを見下げている彼女。
「文化祭と体育祭、出るんですか?」
出るんだったら、僕が隣で……。
え、何考えてるんだ、僕は。
思いもしない感情が、僕の中に生まれていた。
これが彼女に対する同情なのか、友達としてなのか、なんだかよくわからなかった。
「でないよ。そっか、もうそんな時期かぁ。準備があるからしばらく会えないね」
体育祭は無理でも、文化祭くらい……と思ったけど、彼女の事情は彼女にしかわからないのだ。仕方ない。
「惺也くんは、思いっきり楽しむんだよ。最後の学校祭なんだから、やり残したことがないようにね」
彼女からかけられる言葉は、まるで何かをやり残した、余命が残り少ない人みたいだった。
「優澄先輩も、後悔しないように過ごしてくださいね」
まだまだ先は長くても、高校生活でやり残したことが達成できるのは、卒業してしまったらないに等しい。
もし見かけたら、一緒に楽しめたらいいな、なんて、短絡的なことを考えていた。