『三年三組代表・佐々木惺也』
僕は意外と、クラスの代表になるような人だったらしい。
「はい」
返事をして立ち上がり、一度も上がったことのなかったステージへ、ゆっくり階段を登りながら向かう。
「卒業証書。三年三組佐々木惺也。以下同文」
校長先生の言葉を、噛み締めるほどじゃないけど噛み締めて、クラス全員分の卒業証書を受け取って礼をする。
階段を降りるとき、彼女と目が合った。
もう消えかけて、体育倉庫が透けて見えている彼女が、幸せそうに笑っていた。
式が終わると、教室で先生の話を鼻をすすりながら聞いて、誰かと写真を撮るわけでもなく、僕は図書室へ走った。
胸元の桜の花が静かに揺れる。
大きな音を立てて開けたそこに、彼女の姿はなかった。
僕はまた走った。荷物を持たず、ただひたすら一度しか行かなかった彼女の病院へと走った。
なぜか息が苦しくなかった。今までで一番、早く走れている気がした。
もう一度、彼女と話したかった。
「優澄先輩!」
走るなと怒られながらも、全力で走ったその場所に、酸素マスクの代わりに白い布をかけられた彼女がいた。
あぁ、間に合わなかった。一歩遅かった。
「君が惺也くん?」
薄桃色のナース服を着た人が、僕に向かって話しかけてきた。
「はい、そうですけど……」
「川谷さん、もうこのままだろうって言われていたのに、さっき一瞬薄く目を開いて言ってたの。『惺也くん、卒業おめでとう』って。でも、そのまま眠るように……」
その人は、涙を見せなかったものの、悲しそうな顔をして出ていった。
声を出せるなら、僕がいるときにしてほしかった。
一度でも生身の君と、ほんの一瞬でも思い出が作れたら、どれほど良かっただろう。
「優澄先輩、早いって……」
そんなことを言っても、彼女は起きなかった。
軽く身体を揺すってみても、彼女はピクリとも動かなかった。
付けられていた機械が全て外されていた。白い布をどかすと、血色はないものの、体育館で見たときと同じ、幸せそうな笑顔を浮かべていた。
まだほんのり感じる温もりに、鼻の奥がツンと痛んだ。
涙がこぼれた。次々に、止まることを知らないまま流れ続けた。
時計の針が進む音を聞きながら、バカみたいに泣いた。途中、扉が少し開く音がした気がしたけど、臨機応変に止めて振り向くことすらできなかった。
やっと涙が枯れてきた頃、在校生につけてもらった、桜の花を彼女の胸元につけた。
彼女に、それはよく似合っていた。
「……卒業、おめでとう」
すっかり冷たくなった彼女の手を握って、頬にキスをした。
僕が高校を卒業する日、彼女はこの世から卒業した。
その姿は、誰よりも儚く、美しかった。
僕は意外と、クラスの代表になるような人だったらしい。
「はい」
返事をして立ち上がり、一度も上がったことのなかったステージへ、ゆっくり階段を登りながら向かう。
「卒業証書。三年三組佐々木惺也。以下同文」
校長先生の言葉を、噛み締めるほどじゃないけど噛み締めて、クラス全員分の卒業証書を受け取って礼をする。
階段を降りるとき、彼女と目が合った。
もう消えかけて、体育倉庫が透けて見えている彼女が、幸せそうに笑っていた。
式が終わると、教室で先生の話を鼻をすすりながら聞いて、誰かと写真を撮るわけでもなく、僕は図書室へ走った。
胸元の桜の花が静かに揺れる。
大きな音を立てて開けたそこに、彼女の姿はなかった。
僕はまた走った。荷物を持たず、ただひたすら一度しか行かなかった彼女の病院へと走った。
なぜか息が苦しくなかった。今までで一番、早く走れている気がした。
もう一度、彼女と話したかった。
「優澄先輩!」
走るなと怒られながらも、全力で走ったその場所に、酸素マスクの代わりに白い布をかけられた彼女がいた。
あぁ、間に合わなかった。一歩遅かった。
「君が惺也くん?」
薄桃色のナース服を着た人が、僕に向かって話しかけてきた。
「はい、そうですけど……」
「川谷さん、もうこのままだろうって言われていたのに、さっき一瞬薄く目を開いて言ってたの。『惺也くん、卒業おめでとう』って。でも、そのまま眠るように……」
その人は、涙を見せなかったものの、悲しそうな顔をして出ていった。
声を出せるなら、僕がいるときにしてほしかった。
一度でも生身の君と、ほんの一瞬でも思い出が作れたら、どれほど良かっただろう。
「優澄先輩、早いって……」
そんなことを言っても、彼女は起きなかった。
軽く身体を揺すってみても、彼女はピクリとも動かなかった。
付けられていた機械が全て外されていた。白い布をどかすと、血色はないものの、体育館で見たときと同じ、幸せそうな笑顔を浮かべていた。
まだほんのり感じる温もりに、鼻の奥がツンと痛んだ。
涙がこぼれた。次々に、止まることを知らないまま流れ続けた。
時計の針が進む音を聞きながら、バカみたいに泣いた。途中、扉が少し開く音がした気がしたけど、臨機応変に止めて振り向くことすらできなかった。
やっと涙が枯れてきた頃、在校生につけてもらった、桜の花を彼女の胸元につけた。
彼女に、それはよく似合っていた。
「……卒業、おめでとう」
すっかり冷たくなった彼女の手を握って、頬にキスをした。
僕が高校を卒業する日、彼女はこの世から卒業した。
その姿は、誰よりも儚く、美しかった。