春までのカウントダウンは、まるで昨日の今日みたいに一瞬で終わってしまった。
出かけることが好ましく思われなかった、受験の追い込みを親の遠回しの監視の元で過ごし、残り少ない好きな人と過ごせる時間は、温まったストーブの上に落ちた雪のように、一瞬で溶けてなくなった。
ただ、一人で彼女のことを考えているとき、校長先生が卒業生が事故に遭ったと涙を流しながら話していて、この先生はきっと人がいいんだろうなと、事故に遭った彼女のことなど全く考えていなかった自分を思い出して、少し自分が嫌になった。
そんな冬を終え、受験も無事志望校に合格し、あとは明日、卒業するのみとなった高校生活。
「ねぇ、明日はさ」
彼女が、今日会ったらぼやっと透けていた彼女が、泣きそうな顔をして僕を見た。
「うん」
「私の事なんてなかったことにして、たくさん笑って、たくさん泣いて、たくさんの人にありがとうって伝えてね」
こらえきれなくなった涙をポロポロとこぼしながら、僕に必死で伝えてくる。
これで本当にお別れだと、見て見ぬふりをしたかったその事実を突きつけられた。
「明日だけじゃないよ。この先生きていく上で、ずっと。惺也くんの笑顔は素敵だから、たくさん笑って。辛いときは思いっきり泣いて。今の惺也くんのまま、ありがとうとごめんなさいをきちんと言える人のまま、いつかおじいちゃんになったとき、私に会いに来てほしい」
「そんな、先なんて……」
彼女が僕のこと、覚えているわけない。
いくらこの世で最後に関わった人とはいえ、そんなに長い年月が経てば忘れるものもきっと、同じくらいあるだろう。
「惺也くんは覚えてないかもしれないけど、私が覚えてる。ずっと、ずっと忘れないから」
泣きながら、笑っていた。
こんなに綺麗な泣き笑いは、初めて見た。
「僕も、こんな体験したら忘れられないです。いくつになっても、きっとふと思い出します」
「ほんとかな?」
彼女が笑った。
僕も涙がこぼれてきた。
ほんとだよ。忘れられるわけない。
「僕、優澄先輩が好きです。優澄先輩の彼氏になりたいです」
「え、っと……」
彼女はすごく、驚いているようだった。
「嘘じゃないです。変に印象つけようとか、そういうのじゃないです。心から、大好きなんです」
彼女の瞳をまっすぐ見た。涙がピタリと止まって、目をぱちぱちと何度も瞬きをしていた。
まだ飲み込めていないのがすぐにわかるほど、彼女の表情はやっぱり、嘘をつくのが下手だった。
「僕の、初恋です」
甘酸っぱかった。楽しかった。たくさん大切なものをもらった。
きっと、こんなに幸せな初恋は、僕にしか経験できなかったことだろう。
「……ごめん、ごめんね。応えたいのに、応えられない」
泣きながら恋心を伝えた僕に、彼女もまた涙を流しながら、きちんと返事をくれた。
それだけで十分だった。
「ごめんね、大好きだったよ」
あぁ、抱きしめたい衝動はこうして訪れるのか。
強く強く抱きしめて、温もりを感じたいと思うのは、こういうときなのか。
きっと僕は、この日を一生忘れることはないだろう。
出かけることが好ましく思われなかった、受験の追い込みを親の遠回しの監視の元で過ごし、残り少ない好きな人と過ごせる時間は、温まったストーブの上に落ちた雪のように、一瞬で溶けてなくなった。
ただ、一人で彼女のことを考えているとき、校長先生が卒業生が事故に遭ったと涙を流しながら話していて、この先生はきっと人がいいんだろうなと、事故に遭った彼女のことなど全く考えていなかった自分を思い出して、少し自分が嫌になった。
そんな冬を終え、受験も無事志望校に合格し、あとは明日、卒業するのみとなった高校生活。
「ねぇ、明日はさ」
彼女が、今日会ったらぼやっと透けていた彼女が、泣きそうな顔をして僕を見た。
「うん」
「私の事なんてなかったことにして、たくさん笑って、たくさん泣いて、たくさんの人にありがとうって伝えてね」
こらえきれなくなった涙をポロポロとこぼしながら、僕に必死で伝えてくる。
これで本当にお別れだと、見て見ぬふりをしたかったその事実を突きつけられた。
「明日だけじゃないよ。この先生きていく上で、ずっと。惺也くんの笑顔は素敵だから、たくさん笑って。辛いときは思いっきり泣いて。今の惺也くんのまま、ありがとうとごめんなさいをきちんと言える人のまま、いつかおじいちゃんになったとき、私に会いに来てほしい」
「そんな、先なんて……」
彼女が僕のこと、覚えているわけない。
いくらこの世で最後に関わった人とはいえ、そんなに長い年月が経てば忘れるものもきっと、同じくらいあるだろう。
「惺也くんは覚えてないかもしれないけど、私が覚えてる。ずっと、ずっと忘れないから」
泣きながら、笑っていた。
こんなに綺麗な泣き笑いは、初めて見た。
「僕も、こんな体験したら忘れられないです。いくつになっても、きっとふと思い出します」
「ほんとかな?」
彼女が笑った。
僕も涙がこぼれてきた。
ほんとだよ。忘れられるわけない。
「僕、優澄先輩が好きです。優澄先輩の彼氏になりたいです」
「え、っと……」
彼女はすごく、驚いているようだった。
「嘘じゃないです。変に印象つけようとか、そういうのじゃないです。心から、大好きなんです」
彼女の瞳をまっすぐ見た。涙がピタリと止まって、目をぱちぱちと何度も瞬きをしていた。
まだ飲み込めていないのがすぐにわかるほど、彼女の表情はやっぱり、嘘をつくのが下手だった。
「僕の、初恋です」
甘酸っぱかった。楽しかった。たくさん大切なものをもらった。
きっと、こんなに幸せな初恋は、僕にしか経験できなかったことだろう。
「……ごめん、ごめんね。応えたいのに、応えられない」
泣きながら恋心を伝えた僕に、彼女もまた涙を流しながら、きちんと返事をくれた。
それだけで十分だった。
「ごめんね、大好きだったよ」
あぁ、抱きしめたい衝動はこうして訪れるのか。
強く強く抱きしめて、温もりを感じたいと思うのは、こういうときなのか。
きっと僕は、この日を一生忘れることはないだろう。