あれは嘘か誠か、考えているだけで軽く一週間が過ぎていた。
なんだか会いづらくて、好きなのに甘さはなくて、苦くて苦くて、図書室に行くことを放棄していた。
代わりに打ち込んだ学びは夢へと確実に近づいている気がして、それだけが救いだった。
「惺也、最近例の好きな人とはどうなの?」
ずっと同じ問題で止まっている瑛介が、諦めて僕に話を振った。
「連絡先聞いて、スマホ持ってないって言われてから会ってない」
僕の恋心を知るのは彼一人だから、もう辺に隠すのもめんどくさくなって普通に相談してしまう。
「はぁ?会ってないの?それだけで?なんで?」
お前は乙女か。
そう言いそうになったのをぐっとこらえる。
「卒業したらそのまま疎遠になるかもしれないだろ?スマホ持ってないのも本当のことかもしれないし、今どき誰でも持ってるからそれが当たり前になるのはよくないと思う」
僕の心情をしっかり読み取り、つらつらとそれっぽいことを並べて、彼はまた数式とにらめっこをし始めた。
「お前はどうなんだよ」
「俺彼女いるから」
……まじか。
なんだろう、この敗北感。
今まで気にしていなかったことを気にし始めたからか、今までなんとも思っていなかったことで負けを感じるなんて。
「まぁ、いつでも話は聞いてやるからさ」
なんだかなぁ。
同じ土俵に立っているような気になっていたのに、瑛介一人が一気に高みに登ったようにみえる。
「そこ、間違ってるぞ」
子供っぽいとはわかっていながらも、複雑な心のお返しと言わんばかりに、ふと目に付いた公式の間違いを指摘した。
「うわ、まじか。サンキュ」
きっと僕の嫌味には一ミリも気付くことなく、彼は消しゴムで間違えた公式を消していた。
こんなに子供っぽい自分が、少し恥ずかしくなった。