世の学生は人を二つに分ける。陽キャと陰キャ。それは絶対権力の参考になるとても重要な資格だ。陽キャになればしたいことはほぼなんでも叶い思い通りで、失敗も責められることなくただいつも能天気で学校生活を送ることができる。
あいにく僕はそれを持ち合わせていない。だからクラスの奴からは基本的に影の薄い存在、いやほぼ影と同化した存在に見られているだろう。
学校では自分の声を聞かない、人の顔を見ず床とにらめっこ、周りの進む景色が早い。これが今ある僕の学校。
こんなことを毎日自発的にやっているのが陰キャの特徴の一つでもある。
そしてこの絶対権力を背景にある風潮が小中と続き高校でも起きている、いわゆるいじめは陽キャは必ずしも誰かの上に立ちたいという特徴を最大に発揮させる癖で習性であるが、口論の末否定されることはない。
'こいつと比べたら確実に上だ'
'俺はこいつより何もかも優れている人間だ'
そしていじめが生まれるんだ。そしてその標的になりやすいのは陰キャ。彼は誰よりも比較的にそれに当たりやすい。標的というロシアンルーレットに高確率で当たるやつはほぼ顔ぶれは変わらない。
陽キャが上で陰キャがした。そんな制度はどこから訪れたのだ。そもそもさ───
「人間って変わらないんだな」
僕はさっきまでそれに遭遇して数学のノートを1ページずつシワだらけにされ、表紙も靴の跡がくっきりと黒色で残って、最終的に教室のゴミ箱に捨てられた。今僕は捨てられたノートをそのゴミ箱から丁寧に拾い上げる。
これはもうノートという原型をしていなくて、このゴミ箱にもう放置しても良いように思えてくるゴミとなっている。怒りが込み上げてくる。体の奥底からではなくて体に溜まったままの丁度お腹のおへその当たりから煮え切らない感情がある。抱く感情を並べて一つ一つの名前を知らないものはいずれの感情なのだろうか。
教室を包む春の喜びと輝かしい未来を与える湿気と陽気だが重く苦しく感じら僕はお目にかかることさえできないでいた。
何度も何度も僕はこれだけまでに囚われ、愚図な価値観を正義として過ごした。ちょっと優しい扱いに晒されたのは僕のそんな行動のおかげではない。
こんなことをされても優しいと例えてしまう僕はなんなのだろう。優しくなんかないのに、けれど優しいって盛大に馬鹿げていて反吐が出る。
ただそれを漏らさないように大切に自分という額に組み込むのは思ってたより大変な作業なのはわかっていた。
時にはくつがゴミ箱にあったり、画鋲がいっぱい入っていたり、筆箱がなくなっていたり、わざとぶつかってきて、わざと踏まれて、机に落書きもされた。
ゴミ箱の中に自分のくつがあったときの僕の表情。後ろの教室の隅からの笑い声が無理矢理でも耳に入ってくる。
「見たかあいつの顔、最高だよな」
一人が言うとそれは伝染する。
「ああ、たまらなく笑えてくる」
確かに定まらないその言葉の宛先は誰なのだろうか。主語がない言葉から根を生やし縦横無尽に駆け巡らせる思考は彼らからのヒントを待つばかりで機能はしない。ただ、時は来た。
「田中山は本当に弱虫だよな」
声の大きさは僕の鼓膜を大きく揺らす。それが授業前の教室で発せられ、周りの注目を集め誤情報を拡められた。「田中山は馬鹿だ」ならまだ良かったのだ。特に勉強ができる訳でもなく、成績を付けつための定期テストでも僕は赤点ギリギリの点を取る。ただ弱虫は聞き捨てならない。
「なんだよ、もう一回言ってみろよ」
「田中山は弱虫だ」
僕は弱虫なんかではない。弱虫なら今頃この環境に耐えれず、学校を欠席したり、転校したりの手段をとって君とはおさらばだ。そのいずれもしていないのは僕がそれを誰一人として公言していない証拠だろ。
「最近なんか自殺も増えている。けれど、僕は今ここに生きているじゃないか」
海二の興味あるワードが抜き取られた。
「自殺だってさ」
笑われた。そして、その笑い声は大きい。
「え、自殺ってなに」
「海二なになに?」
阿呆らがしょうもない言葉に群がる。そう心に言い聞かせないと今ここにいれなくなりそうだった。
僕はこれらを全部許した。
「自殺できないやつが何言ってんだよ、ださ───」
そして右頬に一つの塊。
「自分はいじめられています。可哀想な人です───」
お腹に棘のついたカケラが無数になって飛び込んできた。鈍い音、聞こえない悲鳴、見えない傷跡。
犠牲を伴いたくない周りの本心が白で塗りつぶされる紙面に黒を置き目立ち、悪者へと変貌させる。
僕の右手の拳が固くなる。
「やっぱ、取り消し───」
固くなった拳を僕は海二に向ける。放った拳は海二と共に群れる他の男子にそれは当たった。場の空気を今この僕が汚したみたいだ。
自分が海二に当てないようにと拒否したのだと武器とした拳をみて、感触を食べた。泥水でもいい、汚い手を今すぐにでも洗いたかった。だから、今すぐにでもトイレの水道へと駆け出したい気持ちにさせられた。
無論、そんな目立たず面白くない行動と自分のレッテルを貶された海二は面白くない。駆け出した僕は海二に動じない足を出された。
一瞬だった。気づいたら目の前に黒く滲んだ白色の板があった。僕はそこにおでこを酷くぶつけ、重力に逆らえず顔のほぼ全パーツをそこに落とした。鼻の奥だけに風が吹いたような、異変は癖になる。
シャツが喉仏を強く締める。後ろからシャツの襟を持ち上げられている。
「く、苦しい……」
「うるさい、だまれ」
背後だったから見えないけど冷酷な顔をしていると思った。それぐらい声に張りがなく緊張を表す一本の揺れてはいけない弦と化す周りの雰囲気。それは酷く恐ろしい。
「お前が殴ったのは俺じゃない。だから弱虫なんだよ。あいつらはお前に何もしていないのに、お前はあいつら目掛けて拳を突き出した」
おいおい、ちょっと待てよ。
「おかしいだろ!」
海二は一喝した。それは自分が正義であるかのように、英雄のように振る舞った。状況は察している。微かに大人の声が聞こえる。男で、次の時間の社会の授業となると田村先生。確か、海二の所属するバスケ部の顧問の先生だ。
「おかしいのは海二だ!」と逆に一喝しようと思ったがそんなドラマチックなワンシーンを作ることは陰キャの僕にとって到底不可能。
ここで出るんだよ。酷く心臓を握り締め爪で引っ掻いて痕を残すが、残ったのは言葉によって負わされた深く眠り底に居た悲しみだ。
「何か言ったらどうなんだ!」
傷しか負わない心臓の役割ってどこに辿り着く。
「死にたい……………………」
本当は言いたくないのに、まだ生きていたいのに、僕の感情はもう頭と繋がっていないのだろうか。思っていることと違うことを口にしてしまったりしてしまう。
逆だと気づくのは苦しいとわかって、たちまちのうちに涙を流していたときのこと。
その日の惨事は放課後まで付きまとうことになる。
あの後は思いもしないことが起こった。僕が持ち上げられているまともじゃない現場を目撃した田村先生は瞬時に状況を把握したかのように思えた。
「山本! 何をしている。その子を下ろしなさい」
周りのざわつきを葬る先生の一声は破壊力が凄まじい。既婚者と新学期早々の授業の自己紹介で言っていて「きっといいお父さんになるんだろうな」と一度は思った。
人を透かした形で見たくなった。いや正確には脳と心だ。あなたの思考が知りたい。その隠れた嘘だらけの感情をぜひ曝け出した。
今日という短時間に何があったのか。僕はあの後怒られた。
「先生、俺の友達の洋一郎が殴られた。その先生の庇うその子って奴に」
目は戦っていた。鋭くて外から見ると平坦なのに刃物のように今にも刺してきそうな勢いだ。けど途中で潰えた。それは、人を見下す腐った心が作り出した幻想なんだと気づいてしまったから。いかにも馬鹿馬鹿しい。
「本当なのか君」
田村先生は言う。"君"と何度も主語を誰でも通せるものに表記して僕を呼ぶ。名前を知らないのだろう。一応、この先生は高校三年間で全部の授業を受けもらっていた。だから、こそ結婚の報告を自己紹介のときに聞いて嬉しくなった。田村先生は我らが学生のお手本となるのに相応しい人だと───。
「田村先生、僕の名前は知っていますか?」
場の空気が凍りつく。誰として無音も発さないこの状況と、発言の権利を持つ田村先生はただ一度も口を動かそうとしない。
待ったな、こいつ。
舌打ちをした。それと同時に授業の始まりを知らせるチャイムが鳴ったからそれは周りには聞こえなかった。
「えーと、チャイムが鳴ったから席に着こう。ほら、山本もその子を下ろして席に着いて───」
彼は僕という存在をどうやら知らなかったらしい。酷く傷をつけた。授業中も先生とは目が合わなかった。
僕は授業後がちょうどお昼休みだったからか、生徒指導室に呼び出された。しかも、その現場を目撃した田村先生にだし、さらにその現場にあからさまに関わっていた海二も呼び出された。俺が殴ったらしい奴はそんな酷い怪我でもないのに保健室へ他の男子としっかりと二足歩行で歩いて行った。
生徒指導室では僕は一人で座らされた。田村先生と海二が隣同士で僕がその向かい側の席。
「えっと、何があったんだ。田中山が一方的に友達を殴ったことで間違えないのか」
だから、おかしいだろ。
「なぜ僕が容疑者なのでしょうか」
「事前に山本から聞いた。教室の片隅でうずくまる田中山をその友達が見て心配になった。「保健室に連れて行くか聞いてくるわ」って言って田中山の方に向かった。ただ、彼は殴られた」
田村先生は間違いないなと確認を取るためか海二の方に目を送る。
「はい。間違えありません先生」
「おかしい。全然違う!」
僕は怒鳴った。立ち上がり、その勢いで椅子が後ろに飛んで倒れていく。手は強く机を叩いた。
「山本。自体はわかったしもう教室に戻っていい。保健室にも寄って友達の様子でも見に行ったらどうだ」
「そうですね。心配なので見に行ってきます」
声を出そう。そう口を開く前に海二は部屋から出ていった。ドアが閉まる。ドアの金具が寂しい声を漏らす。
やめてくれ、それは僕の音だ。
「君は殴った子に一度は謝ったか?」
海二が出ていったのを見計らって田村先生は話しかけてきた。けど、これはあれだ。怒こる前兆の匂いがする。
「君は殴った子に謝ったのか聞いている。謝っていないのか?」
匂いは間違っていない。この空間に漂ってはいけないものが漂い僕を抱く。
このあと僕は怒られた。田村先生の放つ空間で猛抗議をしてもこれは勝訴を奪えないと確信があった。田村先生の顔は熱血教師そのものだ。怒った顔が変だ。
僕の心は散々傷を負う一方、一言だけ生命を宿す言葉を出せた。
「悪いのは海二だ───」
田村先生は呆れた顔が僕を見た。
一人孤独な夕暮れを探して迷った。夕日に照らされここにありという感じを発している子供心揺すぶるブランコを見た。揺すぶられたものはそう容易く均衡を保てなかった。
乗りたいと思った。僕は右足、左足と出して前に進み鎖でぶら下がる不安定な板に腰を下ろす。心と頭はしっかりと繋がっていた。それも以前より結束力が高まっているとひしひしと感じる。懐かしさを感じるこのチェーンの硬さ、形、そして匂いが魅力的で目の前にして恥ずかしさなんか置いてきた。
何に囚われているのだろう───
小さい手でチェーンを握っていた頃の記憶が思い起こされる。
・
緊張が僕の体を透明の縄で抑えている。だって、今僕は幼馴染の如月香澄と歩いて帰っている。対して差のない小さな一歩が変わらない歩幅を作って、お互い似たような身長だから目線も同じ高さ。
コンクリートで固められた歩道を歩いているのになんだか足元は柔らかいと感じる。それは君も同じなのかな。
「なんか面白い顔してるね」
「え、なんで」
「なんでって───」
弾んだ楽しい口調の香澄の声にはなんだか惹きつけられる。
「面白いからだよ」
「感情だけって、定理不足だよ」
香澄の声はこんなに高揚とふんわりしてて気持ちいいのに僕のはどうもこう冷たくてひんやりで固いのだろう。こんなこと考えてもしょうがない。
「香澄、ちょっと公園行かない?」
「いいね公園!」
心を落ち着かせるために僕は公園を提案して、案の定の了承が余裕をもたらしてくれた。今少し荒い心の振動を抑えよう。
そして、しばらく歩幅を合わせること五分して近所の公園に着いた。
この質素な公園にはポツンと隅に赤色と青色と黄色の三原色からなるブランコがある。それと時計があるが特に変わり映えもしない。さらに言うのならこの公園は周りが深い緑をした葉っぱを纏う木たちに囲まれているから少し暗い。
おかげで防犯面や遊具の少なさと狭さからあまり小学生たちから使われることはない。だから、女の子と来るのにも周りからの目がないから僕はよく香澄とここに来る。
「いつもみたいにブランコ乗る?」
「そうだね、ブランコ乗ろう」
いつも通りブランコに誘導できた、と少し落ち着きを取り戻せた気がした。香澄と一緒に帰る時は、いつもこの公園に来て激しく跳ねる心を落ち着かせる。けれど、ブランコに乗ることによってなんだかもっと落ち着けるぞ、と言うジンクスも手に入れることが出来た。
ランドセルをブランコに立てがけてブランコに乗る。先に香澄のランドセルを置かせて自分のを置く。ランドセル同士がちょっと触れるように僕はわざと置いた。
ブランコにお互い身を任せる。生憎、交互に揺れる形となったが横に香澄がいることには変わらない。
「そういえば渉ってさ───」
ブランコのチェーンの擦れる音が微かな涼しさを感じさせる夏の妖精風鈴の音色のように聞こえ、ただ僕は楽しいを痛感させる淡いオレンジの妖精を覚える。
「さくらんぼだね。ほっぺが赤いよ」
「いっぱいある赤からよくさくらんぼを出したね」
「出したよー。だって昨日の夜ご飯の後にさくらんぼ食べたもん」
「あー、そういうこと」と頷く。多分だけど、そのさくらんぼはもっと熟れたと思う。ほっぺが熱くなったから。
「なんだか、美味しそうだな。食べてもいい?」
「ダメだよ」
「渉はケチだなー」
「これはしょうがないと思うよ」
あからさまにわかっていたように香澄は声を出して笑う。抑揚のある可愛らしい声だと思う。そして、この笑った顔がどうにも僕の目の置き場に困る。
「キョロキョロしてどうしたのかな?」
僕という説明書でも持っているのだろうか。とにかくそれを読まれた。
「私の顔に何か付いてた?」
「いや特に何も」
「じゃあ可愛いから見てた?」
「そんなわけ───」
ある。口にもしない、顔にもしない。けれど、体が本心を勝手に示す。
「まあいいかな。私には許嫁がいるし、誰を好きになろうとも自由は保証されない」
恋も恋愛も、好きも愛してるも言えない真実はこれだから。香澄には幼いときから親同士の密約で将来を約束されていた。何かの間違いかもとか思った香澄は今のこの歳になって親に直接聞いたみたいだ。
「貴方には許嫁がいる。そして、その子を守る義務があるんだよ」
そうきっぱりと言ったらしい。親が勝手に定めた方程式は無駄な数字を提出して崩すことはできない。僕はその無駄な数字で解がなくなることになる。
「お母さんが昔その相手のお母さんに命を助けてもらったらしい。それがさ、ドラマみたいな感じでさ───」
その劇的な部分を僕の耳が通すはずなかった。顔はしっかり香澄を捉えて関心の無い心を装い偽るも中身は予想以上にしっかりと組み立てられていることを深刻に受け止めた。
そして、今になる。
「私はその許嫁の旦那を生涯かけて守る役割があるからね」
「もう旦那って呼ぶんだ」
「許嫁ってそういうことでしょ」
「そうだけど。てか会ったのか?」
「いや、あの三歳のとき以来から会ってないかな。相手も忙しいとかでなかなか会えてないんだよね」
香澄が覚えている記憶ではその子は無口な少年と聞いた。幼いのに騒いだりせず、机に正座して座っていた。
「見てて面白味の無い人だったな。向こうは私をどう思っているのやら、ますます怖くなってくるね」
「大人びた人ってことか。香澄もそんな一面あるしお似合いだと思うけどな───」
口にしたくなかったけど、会話の話題を逸らしかねなかった。僕は香澄と話すこの時間を大切にして今を楽しいと感じていた。特にすることもないこの退屈な少年期はこんな無駄な日々が価値あるものへと照らしてくれる。
「渉だけにはそんなこと言わないで欲しかったな」
「僕も今言って後悔した」
日が知らぬ間に傾いて夜を知らせようとしていた。
「そろそろ帰ろうか、子供だけの夜遊びはよくないし」
「そうだね」
何か物足りなかったのは今日が初めてだった。だから、お互い手を振って別れ道を進むとき笑っていない笑顔をしていた。
・
それ以来香澄とは話すことはなかったみたいな青春小説の道を突っ走ることはなくてその次の日も僕らは普通に変わりなく会話を楽しんでいた。あのことが脳裏によぎることはあったものの元々僕が必死になっても届く人ではなかった。
そもそもも考えた。僕はまだ小学生で見える視野も世界も小さい。中学、高校で大きい世界がある。何も香澄だけが全てではない。そんな当たり前のことを思うと自分は宇宙のゴミと比喩してしまう。
そして、それから約九年の月日が流れて僕は相変わらずブランコに乗っていた。冬の忘れ物が体に染みる。
「香澄は今───」
冬の忘れ物はもう一つあって、それがこの冷たい風だ。その風にこの言葉を乗せてどこか遠くへ飛んで行ってしまって欲しい。願わくば香澄の元まで。
香澄のいる天国まで───。
翌日の学校は体に鉛をまとっているかのように重かった。昨日はいろんな過去を回想した。回想した疲れというまるっきり未知なものを作って自己満足に駆られていた。そして、頭も使いすぎてのことか頭頂部がズキズキと痛みを感じさせ危険信号を示している。今日は、そんな気の向かない痛い体での登校だった。
自分の席へ移り席に着くと頭痛が恐ろしく痛くなってきた。急の出来事で、痛みを抑えようと最初は痛む部分を指で強く押し心地良い感情を痛みの感情に対して反抗させる。だが、それでも耐えられない僕は机に頭を打ち続けることとなった。
"死ね"
"バカ"
"キモい"
黒で書かれた文字が毎度大きくなって少し気持ちが良くて痛い思いをすると小さくなって、そしてまた大きくなって。それの繰り返しを僕は今何度も何度もしている。
この頭痛は朝から続くが机に刻まれた罵倒を受けると頭どころか胸の奥側まで悲鳴をあげそうだった。
楽です。使うエネルギーは頭を上げるだけの至極簡単は作業でそれを一気に失えばあとは重力が始末してくれる。吸い込まれる頭を木製の机が固く受け止める。
驚いたことがあって、頭を机に打ち続けているのにも関わらず音がしない。唯一する音があってそれが机がズレる時にするガチャンという音。これは何度も何度も耳に入ってくる。
こう何度も打ち続けていると痛みもなくなるんだな。ズキズキと一般的な痛みは打ち続けている今でも感じないし、ただヒリヒリと痒くなるだけ。血もおでこに回っているのかわからないぐらいに感覚もしだいにはなくなってきている。
疲れた。それを良いことに僕は机に突っ伏して寝てしまった。無駄な行動で体が根を上げたらしかった。
意識が何処かへ飛んでいく。
あいにく僕はそれを持ち合わせていない。だからクラスの奴からは基本的に影の薄い存在、いやほぼ影と同化した存在に見られているだろう。
学校では自分の声を聞かない、人の顔を見ず床とにらめっこ、周りの進む景色が早い。これが今ある僕の学校。
こんなことを毎日自発的にやっているのが陰キャの特徴の一つでもある。
そしてこの絶対権力を背景にある風潮が小中と続き高校でも起きている、いわゆるいじめは陽キャは必ずしも誰かの上に立ちたいという特徴を最大に発揮させる癖で習性であるが、口論の末否定されることはない。
'こいつと比べたら確実に上だ'
'俺はこいつより何もかも優れている人間だ'
そしていじめが生まれるんだ。そしてその標的になりやすいのは陰キャ。彼は誰よりも比較的にそれに当たりやすい。標的というロシアンルーレットに高確率で当たるやつはほぼ顔ぶれは変わらない。
陽キャが上で陰キャがした。そんな制度はどこから訪れたのだ。そもそもさ───
「人間って変わらないんだな」
僕はさっきまでそれに遭遇して数学のノートを1ページずつシワだらけにされ、表紙も靴の跡がくっきりと黒色で残って、最終的に教室のゴミ箱に捨てられた。今僕は捨てられたノートをそのゴミ箱から丁寧に拾い上げる。
これはもうノートという原型をしていなくて、このゴミ箱にもう放置しても良いように思えてくるゴミとなっている。怒りが込み上げてくる。体の奥底からではなくて体に溜まったままの丁度お腹のおへその当たりから煮え切らない感情がある。抱く感情を並べて一つ一つの名前を知らないものはいずれの感情なのだろうか。
教室を包む春の喜びと輝かしい未来を与える湿気と陽気だが重く苦しく感じら僕はお目にかかることさえできないでいた。
何度も何度も僕はこれだけまでに囚われ、愚図な価値観を正義として過ごした。ちょっと優しい扱いに晒されたのは僕のそんな行動のおかげではない。
こんなことをされても優しいと例えてしまう僕はなんなのだろう。優しくなんかないのに、けれど優しいって盛大に馬鹿げていて反吐が出る。
ただそれを漏らさないように大切に自分という額に組み込むのは思ってたより大変な作業なのはわかっていた。
時にはくつがゴミ箱にあったり、画鋲がいっぱい入っていたり、筆箱がなくなっていたり、わざとぶつかってきて、わざと踏まれて、机に落書きもされた。
ゴミ箱の中に自分のくつがあったときの僕の表情。後ろの教室の隅からの笑い声が無理矢理でも耳に入ってくる。
「見たかあいつの顔、最高だよな」
一人が言うとそれは伝染する。
「ああ、たまらなく笑えてくる」
確かに定まらないその言葉の宛先は誰なのだろうか。主語がない言葉から根を生やし縦横無尽に駆け巡らせる思考は彼らからのヒントを待つばかりで機能はしない。ただ、時は来た。
「田中山は本当に弱虫だよな」
声の大きさは僕の鼓膜を大きく揺らす。それが授業前の教室で発せられ、周りの注目を集め誤情報を拡められた。「田中山は馬鹿だ」ならまだ良かったのだ。特に勉強ができる訳でもなく、成績を付けつための定期テストでも僕は赤点ギリギリの点を取る。ただ弱虫は聞き捨てならない。
「なんだよ、もう一回言ってみろよ」
「田中山は弱虫だ」
僕は弱虫なんかではない。弱虫なら今頃この環境に耐えれず、学校を欠席したり、転校したりの手段をとって君とはおさらばだ。そのいずれもしていないのは僕がそれを誰一人として公言していない証拠だろ。
「最近なんか自殺も増えている。けれど、僕は今ここに生きているじゃないか」
海二の興味あるワードが抜き取られた。
「自殺だってさ」
笑われた。そして、その笑い声は大きい。
「え、自殺ってなに」
「海二なになに?」
阿呆らがしょうもない言葉に群がる。そう心に言い聞かせないと今ここにいれなくなりそうだった。
僕はこれらを全部許した。
「自殺できないやつが何言ってんだよ、ださ───」
そして右頬に一つの塊。
「自分はいじめられています。可哀想な人です───」
お腹に棘のついたカケラが無数になって飛び込んできた。鈍い音、聞こえない悲鳴、見えない傷跡。
犠牲を伴いたくない周りの本心が白で塗りつぶされる紙面に黒を置き目立ち、悪者へと変貌させる。
僕の右手の拳が固くなる。
「やっぱ、取り消し───」
固くなった拳を僕は海二に向ける。放った拳は海二と共に群れる他の男子にそれは当たった。場の空気を今この僕が汚したみたいだ。
自分が海二に当てないようにと拒否したのだと武器とした拳をみて、感触を食べた。泥水でもいい、汚い手を今すぐにでも洗いたかった。だから、今すぐにでもトイレの水道へと駆け出したい気持ちにさせられた。
無論、そんな目立たず面白くない行動と自分のレッテルを貶された海二は面白くない。駆け出した僕は海二に動じない足を出された。
一瞬だった。気づいたら目の前に黒く滲んだ白色の板があった。僕はそこにおでこを酷くぶつけ、重力に逆らえず顔のほぼ全パーツをそこに落とした。鼻の奥だけに風が吹いたような、異変は癖になる。
シャツが喉仏を強く締める。後ろからシャツの襟を持ち上げられている。
「く、苦しい……」
「うるさい、だまれ」
背後だったから見えないけど冷酷な顔をしていると思った。それぐらい声に張りがなく緊張を表す一本の揺れてはいけない弦と化す周りの雰囲気。それは酷く恐ろしい。
「お前が殴ったのは俺じゃない。だから弱虫なんだよ。あいつらはお前に何もしていないのに、お前はあいつら目掛けて拳を突き出した」
おいおい、ちょっと待てよ。
「おかしいだろ!」
海二は一喝した。それは自分が正義であるかのように、英雄のように振る舞った。状況は察している。微かに大人の声が聞こえる。男で、次の時間の社会の授業となると田村先生。確か、海二の所属するバスケ部の顧問の先生だ。
「おかしいのは海二だ!」と逆に一喝しようと思ったがそんなドラマチックなワンシーンを作ることは陰キャの僕にとって到底不可能。
ここで出るんだよ。酷く心臓を握り締め爪で引っ掻いて痕を残すが、残ったのは言葉によって負わされた深く眠り底に居た悲しみだ。
「何か言ったらどうなんだ!」
傷しか負わない心臓の役割ってどこに辿り着く。
「死にたい……………………」
本当は言いたくないのに、まだ生きていたいのに、僕の感情はもう頭と繋がっていないのだろうか。思っていることと違うことを口にしてしまったりしてしまう。
逆だと気づくのは苦しいとわかって、たちまちのうちに涙を流していたときのこと。
その日の惨事は放課後まで付きまとうことになる。
あの後は思いもしないことが起こった。僕が持ち上げられているまともじゃない現場を目撃した田村先生は瞬時に状況を把握したかのように思えた。
「山本! 何をしている。その子を下ろしなさい」
周りのざわつきを葬る先生の一声は破壊力が凄まじい。既婚者と新学期早々の授業の自己紹介で言っていて「きっといいお父さんになるんだろうな」と一度は思った。
人を透かした形で見たくなった。いや正確には脳と心だ。あなたの思考が知りたい。その隠れた嘘だらけの感情をぜひ曝け出した。
今日という短時間に何があったのか。僕はあの後怒られた。
「先生、俺の友達の洋一郎が殴られた。その先生の庇うその子って奴に」
目は戦っていた。鋭くて外から見ると平坦なのに刃物のように今にも刺してきそうな勢いだ。けど途中で潰えた。それは、人を見下す腐った心が作り出した幻想なんだと気づいてしまったから。いかにも馬鹿馬鹿しい。
「本当なのか君」
田村先生は言う。"君"と何度も主語を誰でも通せるものに表記して僕を呼ぶ。名前を知らないのだろう。一応、この先生は高校三年間で全部の授業を受けもらっていた。だから、こそ結婚の報告を自己紹介のときに聞いて嬉しくなった。田村先生は我らが学生のお手本となるのに相応しい人だと───。
「田村先生、僕の名前は知っていますか?」
場の空気が凍りつく。誰として無音も発さないこの状況と、発言の権利を持つ田村先生はただ一度も口を動かそうとしない。
待ったな、こいつ。
舌打ちをした。それと同時に授業の始まりを知らせるチャイムが鳴ったからそれは周りには聞こえなかった。
「えーと、チャイムが鳴ったから席に着こう。ほら、山本もその子を下ろして席に着いて───」
彼は僕という存在をどうやら知らなかったらしい。酷く傷をつけた。授業中も先生とは目が合わなかった。
僕は授業後がちょうどお昼休みだったからか、生徒指導室に呼び出された。しかも、その現場を目撃した田村先生にだし、さらにその現場にあからさまに関わっていた海二も呼び出された。俺が殴ったらしい奴はそんな酷い怪我でもないのに保健室へ他の男子としっかりと二足歩行で歩いて行った。
生徒指導室では僕は一人で座らされた。田村先生と海二が隣同士で僕がその向かい側の席。
「えっと、何があったんだ。田中山が一方的に友達を殴ったことで間違えないのか」
だから、おかしいだろ。
「なぜ僕が容疑者なのでしょうか」
「事前に山本から聞いた。教室の片隅でうずくまる田中山をその友達が見て心配になった。「保健室に連れて行くか聞いてくるわ」って言って田中山の方に向かった。ただ、彼は殴られた」
田村先生は間違いないなと確認を取るためか海二の方に目を送る。
「はい。間違えありません先生」
「おかしい。全然違う!」
僕は怒鳴った。立ち上がり、その勢いで椅子が後ろに飛んで倒れていく。手は強く机を叩いた。
「山本。自体はわかったしもう教室に戻っていい。保健室にも寄って友達の様子でも見に行ったらどうだ」
「そうですね。心配なので見に行ってきます」
声を出そう。そう口を開く前に海二は部屋から出ていった。ドアが閉まる。ドアの金具が寂しい声を漏らす。
やめてくれ、それは僕の音だ。
「君は殴った子に一度は謝ったか?」
海二が出ていったのを見計らって田村先生は話しかけてきた。けど、これはあれだ。怒こる前兆の匂いがする。
「君は殴った子に謝ったのか聞いている。謝っていないのか?」
匂いは間違っていない。この空間に漂ってはいけないものが漂い僕を抱く。
このあと僕は怒られた。田村先生の放つ空間で猛抗議をしてもこれは勝訴を奪えないと確信があった。田村先生の顔は熱血教師そのものだ。怒った顔が変だ。
僕の心は散々傷を負う一方、一言だけ生命を宿す言葉を出せた。
「悪いのは海二だ───」
田村先生は呆れた顔が僕を見た。
一人孤独な夕暮れを探して迷った。夕日に照らされここにありという感じを発している子供心揺すぶるブランコを見た。揺すぶられたものはそう容易く均衡を保てなかった。
乗りたいと思った。僕は右足、左足と出して前に進み鎖でぶら下がる不安定な板に腰を下ろす。心と頭はしっかりと繋がっていた。それも以前より結束力が高まっているとひしひしと感じる。懐かしさを感じるこのチェーンの硬さ、形、そして匂いが魅力的で目の前にして恥ずかしさなんか置いてきた。
何に囚われているのだろう───
小さい手でチェーンを握っていた頃の記憶が思い起こされる。
・
緊張が僕の体を透明の縄で抑えている。だって、今僕は幼馴染の如月香澄と歩いて帰っている。対して差のない小さな一歩が変わらない歩幅を作って、お互い似たような身長だから目線も同じ高さ。
コンクリートで固められた歩道を歩いているのになんだか足元は柔らかいと感じる。それは君も同じなのかな。
「なんか面白い顔してるね」
「え、なんで」
「なんでって───」
弾んだ楽しい口調の香澄の声にはなんだか惹きつけられる。
「面白いからだよ」
「感情だけって、定理不足だよ」
香澄の声はこんなに高揚とふんわりしてて気持ちいいのに僕のはどうもこう冷たくてひんやりで固いのだろう。こんなこと考えてもしょうがない。
「香澄、ちょっと公園行かない?」
「いいね公園!」
心を落ち着かせるために僕は公園を提案して、案の定の了承が余裕をもたらしてくれた。今少し荒い心の振動を抑えよう。
そして、しばらく歩幅を合わせること五分して近所の公園に着いた。
この質素な公園にはポツンと隅に赤色と青色と黄色の三原色からなるブランコがある。それと時計があるが特に変わり映えもしない。さらに言うのならこの公園は周りが深い緑をした葉っぱを纏う木たちに囲まれているから少し暗い。
おかげで防犯面や遊具の少なさと狭さからあまり小学生たちから使われることはない。だから、女の子と来るのにも周りからの目がないから僕はよく香澄とここに来る。
「いつもみたいにブランコ乗る?」
「そうだね、ブランコ乗ろう」
いつも通りブランコに誘導できた、と少し落ち着きを取り戻せた気がした。香澄と一緒に帰る時は、いつもこの公園に来て激しく跳ねる心を落ち着かせる。けれど、ブランコに乗ることによってなんだかもっと落ち着けるぞ、と言うジンクスも手に入れることが出来た。
ランドセルをブランコに立てがけてブランコに乗る。先に香澄のランドセルを置かせて自分のを置く。ランドセル同士がちょっと触れるように僕はわざと置いた。
ブランコにお互い身を任せる。生憎、交互に揺れる形となったが横に香澄がいることには変わらない。
「そういえば渉ってさ───」
ブランコのチェーンの擦れる音が微かな涼しさを感じさせる夏の妖精風鈴の音色のように聞こえ、ただ僕は楽しいを痛感させる淡いオレンジの妖精を覚える。
「さくらんぼだね。ほっぺが赤いよ」
「いっぱいある赤からよくさくらんぼを出したね」
「出したよー。だって昨日の夜ご飯の後にさくらんぼ食べたもん」
「あー、そういうこと」と頷く。多分だけど、そのさくらんぼはもっと熟れたと思う。ほっぺが熱くなったから。
「なんだか、美味しそうだな。食べてもいい?」
「ダメだよ」
「渉はケチだなー」
「これはしょうがないと思うよ」
あからさまにわかっていたように香澄は声を出して笑う。抑揚のある可愛らしい声だと思う。そして、この笑った顔がどうにも僕の目の置き場に困る。
「キョロキョロしてどうしたのかな?」
僕という説明書でも持っているのだろうか。とにかくそれを読まれた。
「私の顔に何か付いてた?」
「いや特に何も」
「じゃあ可愛いから見てた?」
「そんなわけ───」
ある。口にもしない、顔にもしない。けれど、体が本心を勝手に示す。
「まあいいかな。私には許嫁がいるし、誰を好きになろうとも自由は保証されない」
恋も恋愛も、好きも愛してるも言えない真実はこれだから。香澄には幼いときから親同士の密約で将来を約束されていた。何かの間違いかもとか思った香澄は今のこの歳になって親に直接聞いたみたいだ。
「貴方には許嫁がいる。そして、その子を守る義務があるんだよ」
そうきっぱりと言ったらしい。親が勝手に定めた方程式は無駄な数字を提出して崩すことはできない。僕はその無駄な数字で解がなくなることになる。
「お母さんが昔その相手のお母さんに命を助けてもらったらしい。それがさ、ドラマみたいな感じでさ───」
その劇的な部分を僕の耳が通すはずなかった。顔はしっかり香澄を捉えて関心の無い心を装い偽るも中身は予想以上にしっかりと組み立てられていることを深刻に受け止めた。
そして、今になる。
「私はその許嫁の旦那を生涯かけて守る役割があるからね」
「もう旦那って呼ぶんだ」
「許嫁ってそういうことでしょ」
「そうだけど。てか会ったのか?」
「いや、あの三歳のとき以来から会ってないかな。相手も忙しいとかでなかなか会えてないんだよね」
香澄が覚えている記憶ではその子は無口な少年と聞いた。幼いのに騒いだりせず、机に正座して座っていた。
「見てて面白味の無い人だったな。向こうは私をどう思っているのやら、ますます怖くなってくるね」
「大人びた人ってことか。香澄もそんな一面あるしお似合いだと思うけどな───」
口にしたくなかったけど、会話の話題を逸らしかねなかった。僕は香澄と話すこの時間を大切にして今を楽しいと感じていた。特にすることもないこの退屈な少年期はこんな無駄な日々が価値あるものへと照らしてくれる。
「渉だけにはそんなこと言わないで欲しかったな」
「僕も今言って後悔した」
日が知らぬ間に傾いて夜を知らせようとしていた。
「そろそろ帰ろうか、子供だけの夜遊びはよくないし」
「そうだね」
何か物足りなかったのは今日が初めてだった。だから、お互い手を振って別れ道を進むとき笑っていない笑顔をしていた。
・
それ以来香澄とは話すことはなかったみたいな青春小説の道を突っ走ることはなくてその次の日も僕らは普通に変わりなく会話を楽しんでいた。あのことが脳裏によぎることはあったものの元々僕が必死になっても届く人ではなかった。
そもそもも考えた。僕はまだ小学生で見える視野も世界も小さい。中学、高校で大きい世界がある。何も香澄だけが全てではない。そんな当たり前のことを思うと自分は宇宙のゴミと比喩してしまう。
そして、それから約九年の月日が流れて僕は相変わらずブランコに乗っていた。冬の忘れ物が体に染みる。
「香澄は今───」
冬の忘れ物はもう一つあって、それがこの冷たい風だ。その風にこの言葉を乗せてどこか遠くへ飛んで行ってしまって欲しい。願わくば香澄の元まで。
香澄のいる天国まで───。
翌日の学校は体に鉛をまとっているかのように重かった。昨日はいろんな過去を回想した。回想した疲れというまるっきり未知なものを作って自己満足に駆られていた。そして、頭も使いすぎてのことか頭頂部がズキズキと痛みを感じさせ危険信号を示している。今日は、そんな気の向かない痛い体での登校だった。
自分の席へ移り席に着くと頭痛が恐ろしく痛くなってきた。急の出来事で、痛みを抑えようと最初は痛む部分を指で強く押し心地良い感情を痛みの感情に対して反抗させる。だが、それでも耐えられない僕は机に頭を打ち続けることとなった。
"死ね"
"バカ"
"キモい"
黒で書かれた文字が毎度大きくなって少し気持ちが良くて痛い思いをすると小さくなって、そしてまた大きくなって。それの繰り返しを僕は今何度も何度もしている。
この頭痛は朝から続くが机に刻まれた罵倒を受けると頭どころか胸の奥側まで悲鳴をあげそうだった。
楽です。使うエネルギーは頭を上げるだけの至極簡単は作業でそれを一気に失えばあとは重力が始末してくれる。吸い込まれる頭を木製の机が固く受け止める。
驚いたことがあって、頭を机に打ち続けているのにも関わらず音がしない。唯一する音があってそれが机がズレる時にするガチャンという音。これは何度も何度も耳に入ってくる。
こう何度も打ち続けていると痛みもなくなるんだな。ズキズキと一般的な痛みは打ち続けている今でも感じないし、ただヒリヒリと痒くなるだけ。血もおでこに回っているのかわからないぐらいに感覚もしだいにはなくなってきている。
疲れた。それを良いことに僕は机に突っ伏して寝てしまった。無駄な行動で体が根を上げたらしかった。
意識が何処かへ飛んでいく。