「ふーん。あかりんは衣装係として頑張っていくってことね。良かったじゃん、自分の好きなこと出来て。」

放課後、バイト先のカフェで大学生の青山さんが氷をカップに入れながら微笑んでくれた。私はレジ打ちから戻ってくると、コクリと頷いた。

「でも、私みたいなのがやってもいいのかなって…。衣装デザインとかは得意ですけど、一部の人にしか言ってないですし。」
「大丈夫だって!自分のやりたいことをやっちゃいけないなんて言う決まりはない!」

きっぱりと青山さんはそう言って、「あかりんは自己肯定感上げてかないとだね。」と呟いた。紅茶の茶葉を入れていた私は後ろを振り向いて、「青山さんみたいにいつでも明るくはできませんよ」と反論しておく。青山さんが本気を出したら怖いのだ。いろんな意味で。




翌日…

「ねぇ、ガムテープある?」
「こっちにもっと色紙ちょうだい!」
「会計係、この費用でお願いします。」
「男子、力仕事は任せた!」

いろいろな人の声が飛び交う教室の中、私たちはみんなが着たい衣装を集計していた。

「早速今日から始めるなんて…。まぁ、後2か月ぐらいしかないことを考えればみんなで頑張ってかないとなんだけど。」

ぶつぶつと言いながら、赤坂さんはパソコンに入ってきたアンケートの結果を書き出していく。私はその横でデザインを考え、黒川さんは必要な材料をメモしている最中だ。他の衣装係のメンバーには、使えそうな布が余っていないか家庭科の先生に聞きに行ったりしてもらっている。私は必死になりながら、一人一人のコスプレの要望に合ったものを描いていった。

高校生の力では何とかできない衣装もあるから、そこは自分たちで買ってもらうかしてもらわないと。

「白石さん、ほんとに絵上手だし、センスいいし。いてくれてよかったー!」
「本当に。すごく助かってるわ。デザインは個人で考えてもらおうと思ってたもの。葵が推薦してくれて、よかった。」

心から嬉しそうに赤坂さんは言って、パソコンと睨めっこをしている。黒川さんもメモを続けながら笑顔でお礼を言ってくれた。私が洋服のデザインが好きなことは隠して、葵ちゃんが私が得意なことを生かせる仕事に推薦してくれたのだ。

私でも役に立つことってあるんだ。

少し嬉しくなりながら、私は一つ、デザイン画を完成させた。



「ふぅ。こっちの集計は終わりっと。ちょっと後で出してなかった数人には話を聞きにいかないと。」
「こっちもあらかた終わったわよ。」
「私はまだ…。半分までは書き終わったけど。」

申し訳なく思いながら、小さな声で告げる。なんだか納得いかないところもあり、何回も描き直したりしていたら、いつの間にか時間が経っていたのだ。なにしろ、着ぐるみや手の凝った衣装を希望する人以外の35人分の衣装をデザインしなくてはいけないのだから。家に帰ってからも描かないと、と決意していると、

「ガムテープもうないの?」

と言う声が聞こえてきた。どうやら、内装係が使っていたガムテープが切れてしまったようだ。

「ほんとだ。でも、今忙しくて行けない。」
「俺らもこっちの仕事あるし。誰か他の係に頼むしかなくね?」
「誰かガムテープ取りに行ってくれる人いる〜?」

あまり手が進まないし、気分転換も大事だよね。ここは私がっ!

「私取りに行ってくるよ。何個必要?」
「わぁ、ありがとう白石さん!2個取ってきてくれる?あ、それと、本当にごめんなんだけど、追加でリボンを全種類1束ずつと…。」

必要なものをガンガンしゃべっていく内装係の子に目を白黒させながら必死で聞いていると、黒川さんと赤坂さんが作業の手を止めて、こっちへ向かってきた。

「私たちも取りに行くの手伝うよ。一人じゃ絶対多い量だし。」
「本当にごめんね!」

内装係の子にぺこぺこ謝られながら、私は2人と教室を出た。