「朱莉ちゃーん!!!」
「わっ!葵ちゃん!風邪治ったの?」
「うん。さみしかったよー!暇だし、熱で苦しいし、みんなには会えないし!」

涙を浮かべながら私に抱きついてきたのは葵ちゃんだった。しきりに「さみしかったよー」と言いながら私に抱きついたまま歩き出す。

「え、このまま⁉」
「ダメなの?友達充電しときたいんだけど。」
「じゃあ、どうぞ。でも、歩きにくいよ。」
「えー、でもスキンシップ取らないと会えなかった分の力出ないよ。」

ちょっと悲しそうにしながら「じゃあ、後でいっぱい愚痴聞いてね」と言って私の横に並んでくれた。その後、いなかった時の学校がどんな風だったのか矢継ぎ早に質問される。

「え、じゃあ、朱莉ちゃんの案が文化祭の出し物として通ったってこと!すごいじゃん!」
「私はすごくないよ。葵ちゃんが呟いていたのを聞いていたから、葵ちゃん喜ぶかなーって。」
「ほんと、いい子過ぎるよ、朱莉ちゃん。」

感動した様子の葵ちゃんにしみじみと言われ、私がちょっと照れ臭くなっていると、「朱莉ー。」と陽彩が走ってきた。

「これ、朱莉のだよね?」
「あ、そうだ。ごめんね。」

陽彩がかわいい猫のマスコットが付いたポーチを手渡してきた。今までなかったことに気が付かなかった私、我ながらやばいなと思いながらポーチを受け取る。中には、私がいつも使っている身だしなみ用品が入っている、大事なものだ。

「葵も元気になったんだね。」
「うん。」

また後でね、と言ってそのまま陽彩はスキップでもしそうな勢いで去っていった。

「いいなぁ、私も遊びに行きたかった。朱莉ちゃんと。風邪さえ引いていなかったら遊びに行けたのに…!」
「あ、葵ちゃん?」
「今度は私と遊びに行こう!ね?」

にっこりと笑って言われ、私は「う、うん。」と圧に押されて返事をした。


「葵ー‼‼」
「わっ。桃花、おはよう。芹菜も。」
「ほんとに心配したのよ。風邪ひいたっていうから。」
「ごめんって。」

教室に着くなり、がばっと葵ちゃんに抱きついたのは赤坂さんだった。後ろから黒川さんもやってきて、3人は仲良さそうにおしゃべりを始めた。私は邪魔にならないようにそっとその場を立ち去ると、自分の席へと戻った。

やっぱりあの輪の中に入れない…。

へこみながらカバンの中を整理していると、隣の席に黒川さんが戻ってきた。

「おはよう、白石さん。今日は文化祭の分担をする日ね。」
「おはよう、黒川さん。」

にこりと笑顔で挨拶を交わすと、黒川さんはそのままスマホに視線を落とした。やっぱり自分から話しかけられず、また私の心は沈んだ。



「これから、文化祭の分担決めを始めます。」

ロングホームルームの時間、委員長がそう宣言してにっこりと笑った。

「今年の1-Ⅾの出し物はコスプレカフェです!コスプレカフェとは、名前の通り、コスプレをして飲み物や軽食を出す、というものです。そこで、まぁ、当日はシフト制で全員に仕事をしてもらいますが、準備期間の間は誰が何をやるのか、今日決めちゃいたいと思います。分担する係は、コスプレの衣装を作る衣装係、教室をカフェに作り替える内装係、メニューや食材の調達をする食材係、ポスターや看板などを作ったりする広報係、全ての費用を管理する会計係の5つ。それぞれ、6~8人ほどでお願いします。この中から、1人1つはやってもらいます。」

その言葉と同時に、黒板に書記の人が分担する係を書いていく。周りが、「どれやる?」「一緒にやろうよ」と盛り上がるなか、私はものすごく悩んでいた。

本当は衣装係とか楽しそうだけど…。あんまり目立たなさそうなのは内装係かなぁ。でも、衣装係をやりたい。だけど、目立たず、みんながやりたい係をできるようになるなら…。

悩んでいると、ふとこの前の陽彩の言葉を思い出した。

『自分の意見を言うことも大事だよ』

そうだ。周りを窺ってばかりじゃなくて、自分がどうしたいのかをはっきりと述べてもいいんだ、と陽彩はあの後言ってくれた。だったら自分の心に従うべきなのかもしれない。

「みんな決まった?それじゃあ、何をやりたいか、やりたいところで手を挙げて。まず、衣装係。」

恐る恐る手を挙げた。周りを見渡すと、私を含めて8人。結構ぎりぎりの人数だ。その中には、黒川さんや赤坂さんの姿があった。

これを機に普通に話しかけられるようになるかな。

そんな思惑を胸に、私はこれからの文化祭に思いをはせた。