『速報!韓国コスメブランドの10色パレットが来月発売するって!』

夜、お風呂から出て英語の課題を片付けていると、私のスマホに陽彩からの通知が来た。メイク情報をなるべく共有しようということで、毎日夜にはチャットを使って情報交換をしている。おかげで、私も毎日コスメブランドの公式SNSをチェックするようになった。10代、20代に人気の韓国コスメブランドの10色パレットはパッケージがものすごく可愛くて、しかも自分も可愛くなれる。このブランドのコスメはどれも可愛くてすぐに欲しくなるから、中学時代は必死になってお小遣いを貯めていた。

バイトができるようになってからはだいぶ楽になったな。役に立っているかは分からないけど、やっててよかった。

『やった。絶対買いに行く!』
『いつもパケ可愛いもんね。僕も絶対買う。』
『情報提供ありがとう。』
『どういたしまして。』

スマホのカレンダーに発売予定日をしっかりとメモしておくと、私は『おやすみ』とメッセージを送った。






翌朝、学校に向かっていると、葵ちゃんからメッセージが来た。
『ごめん、風邪ひいちゃったから今日は休む!』
泣いているクマさんのスタンプとともに送られてきたメッセージを見るなり、私は落ち込んだ。

もしかして昨日のことがあったから避けられてる…。いや、でも、「頼ってね」って言ってくれてたし…。

またぐるぐると考え込んでしまいそうで、私は急いでメッセージに返事をした。

『お大事に。授業内容のノート、今度見せようか?』
『神!ありがとう。』

ちゃんとノートを取るんだから、今日は授業にいつも以上に集中しよう、と気持ちを切り替えて私は学校へと足を進めた。





ふぅ。

一息ついて私は教室のドアに手をかけた。いつもは途中で葵ちゃんが声をかけてくれるから、一緒に教室まで入れたけれど、今日は自分1人だ。挨拶しても返してくれるかな…と不安になりながら一歩踏み出した。

「白石さんおはよう。」
「あ、おはよー!」

真っ先に私に気が付いて挨拶をしてくれたのは葵ちゃんと仲良しな黒川さんと赤坂さんだった。

「おはよう!」

少しホッとして私は挨拶を返した。少し緊張している私に気が付いたのか、

「今日は葵、休みなのよね。」

と黒川さんがわたしに微笑みかけてくれた。スマホをいじっていた赤坂さんも顔をあげて、

「いつもにこにこしてる葵が風邪なんて珍しい!って思っちゃったもん。アイスの食べすぎかな。」

心配そうな顔になった。「それはあんただけでしょ」と鋭い突っ込みを受けていたけど。
楽しそうに会話をしている2人の邪魔をしてはいけないと思い、そっと離れて自分の席へ向かうと、葵ちゃんの席に座っている陽彩が手をひらひらとふっていた。

「おはよ。葵、休みだってね。」
「おはよう。勝手に座っちゃって怒られないの?」

机の中を勝手に覗いたりしている陽彩に私が聞くと、ちょっといたずらっ子のような顔でニヤリと笑った。

「いいのいいの。いつも僕のコスメ、勝手に使うから。仕返しってことで。あ、葵には不用意にしゃべんないでね。あいつ怒ると怖いから。」

そう言い残すと自分の席へと戻っていった。


よし、午前中の授業の分はまとめ終わった。

お昼休み、私は「一緒にお昼食べない?」と黒川さんたちに声をかけられずにまた中庭にいた。お弁当を食べる前にまずはノートをまとめちゃおうということで、シャーペンを必死で走らせていたのだ。

とりあえずまとめ終わったからご飯食べよ。

お弁当箱を取り出して、私は「いただきます」と一人で食べ始めた。

「一人で食べてるの?」
「わ!」

ビクッとして後ろを振り向くと、そこには購買のメロンパンといちごミルクを手に持った陽彩がいた。そのまま、私の隣に座ってメロンパンの袋を開けると、パクっとおいしそうにかぶりついた。

「一人じゃさみしいでしょ。一緒に食べよ。」
「あ、ありがとう。でもいいの?友達とか、いるでしょ?」
「そこらへんは気にしなくていいの。ってか僕、いつも一人でお昼食べてるし。」

平然とした顔でそう言い放つと、そのまま大きなメロンパンをぺろりと平らげてしまった。

購買の人気商品を勝ち取れるって相当すごい人なんだな、陽彩って。

熱血運動部系の男子たちが授業が終わるとこぞって買いに行くメロンパンは売り出してから数分で売り切れる大人気商品だ。私はその空気の中に行くだけでも怖いから購買に入ったことがないけれど、毎日すごい争奪戦が起きているらしい。

「あのさ、聞きたいことがあったんだけど。」
「何?」
「今週の土曜日、一緒に出掛けない?」
「…え?」

ぱちぱちと目を瞬かせて陽彩を見上げると明確な返答がなかったことに戸惑っている陽彩の顔があった。

「だから、土曜日に一緒に出掛けない?って。」
「分かった。でもどこに行くの?」

我ながら事務的な返事をしてしまったと心の中で責めた後、私はデザートについていた小さなゼリーを食べ終えた。

「ふふふ。これ!」

よくぞ聞いてくれましたとでも言うように、スマホの画面をずいっと見せてきた。

「アットコスメ東京?」
「そう。いろんなコスメがあって自由に試せるらしいよ。一回行ってみたかったんだけど忙しくてなかなか行けなくて。」

陽彩からスマホを借りてホームページを見ると、プチプラからデパコスまでたくさんのブランドのメイクがあった。しかも、全部自由に試したりできるし、コスメ選びの相談までできちゃうらしい。今まで私が気が付かなかったのが不思議なくらいに魅力にあふれていた。

ここが本店みたいなものなんだね。いろんなところにお店があるんだ。

するするとそのままスクロールをしていってると、視線を感じた。

「あ、ごめん!これ、陽彩のスマホだったよね。長々と借りちゃってごめんなさい。」
「いいよ。すっごい夢中で見てたし。」

私はぺこぺこと謝りながら陽彩にスマホを返した。陽彩はスマホをいじりながら、「待ち合わせどこにする?」と特に気にした様子もなく聞いてきた。

「場所って原宿だっけ?」
「うん。駅の改札の所で待ち合わせる?」
「分かった。時間はいつぐらい?」
「10時集合?いっぱい見たいから?早すぎたらもうちょっと遅めにするけど。」
「ううん、10時集合で大丈夫。」

細かいことを決めていっていると、お昼休みの終了を告げるチャイムが鳴った。私がハッとして荷物をまとめていると、

「それじゃあ、また分からないことがあったらチャットとかで聞いて。」

そう言って陽彩はサッと立ち上がると手をひらりとふって校舎へと戻っていった。

ほんとに自由人だな…。そこが陽彩の良さなのかもしれないけど。

ノートをひとまとめにすると、私も後を追うように教室へと向かった。