あ、鍵閉めてくるの忘れた…。今日は何かとついてない日だ…。
落ち込みながら、私は少しでも気分を上げるためにターミナル駅のビルに入っているコスメショップに来ていた。お気に入りのブランドのコーナーを見て回ってコスメ情報を得ることがわたしのここ最近の日課だ。いつもならワクワクとその時を待っているはずが、今日は図書室での一軒があったことで少し気分が沈んでいた。
バレちゃったよ…。あの人の人柄がどういうものなのかよくわからないけど、絶対馬鹿にされるよね…。「こんな地味な奴が洋服のデザインしてんのww」って。
どんよりとした気持ちで私の最近好きなコスメブランド、Louismakeのコーナーまで来ると、私と同じ高校の制服を着た人が真剣にリップを見比べていた。なんか見覚えがあるような…。
「ぎゃ!」
さっきの図書室の人だと一目見て分かった。私のノートを偶然にも見てしまった人。私の声にその人はこっちを見た。パチリと目があって、逃げ出そうとした時、
「ちょっと待って!」
いきなり手首をガシッとつかまれた。そのまま、私はぐいぐいと引っ張られて男子生徒の目の前まで来てしまった。細そうに見えて意外と力が強い。
「あのさ、君に聞きたいことがあったんだけど。」
「な、なんでしょう?」
「洋服とか、コスメとか好き?」
真っ直ぐ私の顔を見て問いかけた男子生徒はそのまま続けた。
「さっき図書室でちらっと見ちゃったんだけど、あのノートに洋服のデザインとかどんなメイクをしたら綺麗に見えるかとかいっぱい書いてあったから…。」
「…。」
どうやってごまかそう。私が洋服やメイクが好きなことは秘密にしてなくちゃいけない。私の平穏な学校生活のためにも。
学校中にばらされたら私は多分学校に行けなくなってしまう。そうなってしまったらまたお母さんたちを心配させることになる。
でも…。
期待に満ちた瞳で私を見ている男子生徒を裏切れないような…。
1分ほどそのまま固まって考えた後、私は心を決めた。もうどうにでもなれ!と。
「ここで話すのはちょっとあれだからどこか別の所で話さない?」
その後、私たちは駅ビルにあるファーストフード店に入り、飲み物やポテトを注文して席に着いた。
明日はサラダをちゃんと食べなきゃ…。また逆戻りしちゃう…。
「それで、結局好きなの?」
主語も何もかもすっ飛ばして本題を聞いてきた男子生徒に、私はどう話そうか考えを巡らせていると、ハッとしたように男子生徒は口を開いた。
「あ、待ってごめん。僕の自己紹介がまだだったね。僕の名前は紺野陽彩。陽彩って呼んで。」
「私も自己紹介してなかった。白石朱莉。」
「じゃあ、朱莉って呼ぶね。」
いきなり呼び捨てでもいいの?とちょっとびっくりしたけど少しでも話したことで緊張はほぐれてきた。すぅっと息を吸って一気にしゃべる。
「洋服もメイクも好きだよ。陽彩は?」
「僕も好き。メイクをしてると幸せになれるから。」
私の答えに陽彩は引くこともなく、うんうんと笑顔で耳を傾けてくれた。その姿に、私はメロンソーダを一口飲んで一番気がかりなことを聞いてみた。
「あのさ、私の趣味を聞いて引いたりとかしないの?」
「なんで?いいことじゃん。自分の好きなことを口にしていいんだよ?」
「そっか。ありがとう。」
当たり前のことを聞いてしまったかな、と一瞬思ったけど、少しだけ心が軽くなったような気がした。こんなふうに自分の趣味を認められたのは家族以外に陽彩が初めてだったから。
でもきっと、私の過去を知ったら意見は変わっちゃうんだろうな。
また余計なことを考えそうになって、私が少し俯くと、
「そだ。さっきのノート、もう一回見せてもらうことってできる?」
「いいけど…。ほかの人には絶対しゃべらないで。」
「分かった。」
陽彩がノートを見たいと言ってきた。学校の人にはバレたくないので、しっかりと念を押して、私はカバンの中からノートを出して手渡した。陽彩はノートをめくるなり、「すごっ!」とか「確かにこのメイクはこの洋服にぴったりだわ」とかいろいろとしゃべりながら一つ一つをじっくりと見ていった。
「見せてくれてありがとう。いろんなアイデアが詰まっててすごくおもしろかったしメイクの勉強にもなった。」
「そんなにすごいものだった?自分では納得できてないところがあるけど。」
嬉しそうな表情でお礼を言った陽彩に私はびっくりした。あんな趣味のノートが人のためになるとは一ミリも思ってなかったのだ。
「どこが納得いってないの?メイクのことだったら一応分かってるつもりだけど。」
「えっと…。まずはこのページの…。」
自分の趣味を受け入れてくれたことが初めてで、私は戸惑ったけれど、少し嬉しくなった。
落ち込みながら、私は少しでも気分を上げるためにターミナル駅のビルに入っているコスメショップに来ていた。お気に入りのブランドのコーナーを見て回ってコスメ情報を得ることがわたしのここ最近の日課だ。いつもならワクワクとその時を待っているはずが、今日は図書室での一軒があったことで少し気分が沈んでいた。
バレちゃったよ…。あの人の人柄がどういうものなのかよくわからないけど、絶対馬鹿にされるよね…。「こんな地味な奴が洋服のデザインしてんのww」って。
どんよりとした気持ちで私の最近好きなコスメブランド、Louismakeのコーナーまで来ると、私と同じ高校の制服を着た人が真剣にリップを見比べていた。なんか見覚えがあるような…。
「ぎゃ!」
さっきの図書室の人だと一目見て分かった。私のノートを偶然にも見てしまった人。私の声にその人はこっちを見た。パチリと目があって、逃げ出そうとした時、
「ちょっと待って!」
いきなり手首をガシッとつかまれた。そのまま、私はぐいぐいと引っ張られて男子生徒の目の前まで来てしまった。細そうに見えて意外と力が強い。
「あのさ、君に聞きたいことがあったんだけど。」
「な、なんでしょう?」
「洋服とか、コスメとか好き?」
真っ直ぐ私の顔を見て問いかけた男子生徒はそのまま続けた。
「さっき図書室でちらっと見ちゃったんだけど、あのノートに洋服のデザインとかどんなメイクをしたら綺麗に見えるかとかいっぱい書いてあったから…。」
「…。」
どうやってごまかそう。私が洋服やメイクが好きなことは秘密にしてなくちゃいけない。私の平穏な学校生活のためにも。
学校中にばらされたら私は多分学校に行けなくなってしまう。そうなってしまったらまたお母さんたちを心配させることになる。
でも…。
期待に満ちた瞳で私を見ている男子生徒を裏切れないような…。
1分ほどそのまま固まって考えた後、私は心を決めた。もうどうにでもなれ!と。
「ここで話すのはちょっとあれだからどこか別の所で話さない?」
その後、私たちは駅ビルにあるファーストフード店に入り、飲み物やポテトを注文して席に着いた。
明日はサラダをちゃんと食べなきゃ…。また逆戻りしちゃう…。
「それで、結局好きなの?」
主語も何もかもすっ飛ばして本題を聞いてきた男子生徒に、私はどう話そうか考えを巡らせていると、ハッとしたように男子生徒は口を開いた。
「あ、待ってごめん。僕の自己紹介がまだだったね。僕の名前は紺野陽彩。陽彩って呼んで。」
「私も自己紹介してなかった。白石朱莉。」
「じゃあ、朱莉って呼ぶね。」
いきなり呼び捨てでもいいの?とちょっとびっくりしたけど少しでも話したことで緊張はほぐれてきた。すぅっと息を吸って一気にしゃべる。
「洋服もメイクも好きだよ。陽彩は?」
「僕も好き。メイクをしてると幸せになれるから。」
私の答えに陽彩は引くこともなく、うんうんと笑顔で耳を傾けてくれた。その姿に、私はメロンソーダを一口飲んで一番気がかりなことを聞いてみた。
「あのさ、私の趣味を聞いて引いたりとかしないの?」
「なんで?いいことじゃん。自分の好きなことを口にしていいんだよ?」
「そっか。ありがとう。」
当たり前のことを聞いてしまったかな、と一瞬思ったけど、少しだけ心が軽くなったような気がした。こんなふうに自分の趣味を認められたのは家族以外に陽彩が初めてだったから。
でもきっと、私の過去を知ったら意見は変わっちゃうんだろうな。
また余計なことを考えそうになって、私が少し俯くと、
「そだ。さっきのノート、もう一回見せてもらうことってできる?」
「いいけど…。ほかの人には絶対しゃべらないで。」
「分かった。」
陽彩がノートを見たいと言ってきた。学校の人にはバレたくないので、しっかりと念を押して、私はカバンの中からノートを出して手渡した。陽彩はノートをめくるなり、「すごっ!」とか「確かにこのメイクはこの洋服にぴったりだわ」とかいろいろとしゃべりながら一つ一つをじっくりと見ていった。
「見せてくれてありがとう。いろんなアイデアが詰まっててすごくおもしろかったしメイクの勉強にもなった。」
「そんなにすごいものだった?自分では納得できてないところがあるけど。」
嬉しそうな表情でお礼を言った陽彩に私はびっくりした。あんな趣味のノートが人のためになるとは一ミリも思ってなかったのだ。
「どこが納得いってないの?メイクのことだったら一応分かってるつもりだけど。」
「えっと…。まずはこのページの…。」
自分の趣味を受け入れてくれたことが初めてで、私は戸惑ったけれど、少し嬉しくなった。