真凛って…。もしかして!
今までのいろいろなことが頭をよぎる。衣装切り裂き事件の時も、あの人だけは鍵を自由に借りられたし、家庭科室に出入りすることもできた。それに、私がこの学校にいることを小金井さんに教えられたのもあの人の所属する部活がテニス部だったからに違いない。
そう確信して、私は教室へと走って戻った。
「あ、お帰りー。久しぶりの友達との会話、どうだった?」
無邪気に聞いてきた葵ちゃんに私は無理やり笑顔を作る。思い出したくもない過去が蘇ろうとしているのを防ぐように、私は「末澤さんの下の名前って真凛だったよね?」と確認する。怪訝そうな顔で頷いた葵ちゃんを見て、私はキッチンにいた末澤さんを捕まえる。
「ねぇ、末澤さんって小金井明日香さんと仲良し?」
「え、何、急に。」
「質問に答えて!」
思わず声を荒らげてしまった。後ろをついてきた葵ちゃんがびっくりしたように私を見ている。
「何そんなカリカリしてんの。そうだよ、仲良しだよ。あ、もしかして、私があなたがいることをしゃべったのバレた?」
急に怒鳴り込んできた私を嫌そうに見た後、末澤さんは手に持っていたグラスを置いた。葵ちゃんだけが状況を呑み込めず「え、え?」と混乱しているが、私はじっと末澤さんを見つめたまま動かなかった。
「なんで…?」
「なんでってあなたが嫌いだったから。すぐに紺野くんと仲良くなっちゃうのも、紺野くんと楽しそうに話をしているのも気に入らなかったからよ。少しは叱られて懲りたかしら?」
フフッと笑みを浮かべて末澤さんは答え、思い出したように「テニス部の合宿で偶然明日香ちゃんとあって私のクラスに嫌いな子がいるって話したら「私もその子苦手!」って答えが返ってきたんだよね。」と笑顔で言い放つ。誰が嫌いなのかは伏せられていたが、私が嫌いなことは前後の発言から明白だ。目をそっと伏せて私が押し黙ると満足したように末澤さんは
「もう紺野くんにも近づかないでね。邪魔だから。近づいたら、また明日香ちゃんに告げ口しちゃうよ。」
と脅して去っていった。
「朱莉ちゃん、さっきは声荒らげてどうしたの?何かあった?」
末澤さんが去っていくなり、葵ちゃんが私を心配そうに見つめた。
「何にもないよ。戻ろう。」
「でも…。」
必死で笑顔を作り、葵ちゃんに持ち場に戻ろうと声をかけたのに、煮え切らない様子でその場から動く気配がない。早く戻らないとお店が回らなくなる。
私のせいで。
「大丈夫だから。早く戻ろう?」
葵ちゃんの背中を押してキッチンスペースからカフェスペースに出ようとすると、「大丈夫じゃないよ…」と葵ちゃんが俯いたまま言った。
「え?」
「朱莉ちゃん、すごい怒ってたじゃん!何にもないわけないでしょ?」
葵ちゃんが私の前に立ちはだかり、「事情を聴くまでは通さないよ。」とまっすぐに視線を向けてきた。
「今はそんな話してる場合じゃないよ、葵ちゃん。早く戻らなきゃ、テーブルの上とか、ぐちゃぐちゃなままでお客さんを迎えることになっちゃう。みんなそれぞれ仕事をこなしてるんだから。」
だんだんとキッチンにいる人たちの視線が私達に集まってきた。マズい…。
「どうしたの?二人とも?こっちまで声が聞こえてたけど?」
「何かあった?」
桃花ちゃんや芹奈ちゃんが心配そうにこっちへやってくる。
「葵ちゃん、戻ろう。お客さんに心配かけちゃうから。」
立ちはだかる葵ちゃんに最後にもう一度そう言った。これで頷いてくれたら…。
「私は朱莉ちゃんを心配してるんだよ⁉︎なんで今お客さんの方を…。」
声を荒らげて葵ちゃんは私を見据えた。もうダメだ…。
「そんなに怒んなくてもいいじゃん!人には話したいことと話したくないことがあるんだよ?」
私の中で何かが切れて、思わず大きな声を出してしまった。あ、と思った時にはもう遅かった。
「そんな、言わなくても、いいじゃん…。」
びっくりしたように葵ちゃんは言葉を途切れさせ、目に涙を溜めた。
「ごめっ…」
全てを言い終わる前に葵ちゃんは私をひと睨みして、くるりと踵を返してしまった。
後に残った私はみんなからの視線に晒されて、どうしようもない気持ちで床に座り込んでしまった。
今までのいろいろなことが頭をよぎる。衣装切り裂き事件の時も、あの人だけは鍵を自由に借りられたし、家庭科室に出入りすることもできた。それに、私がこの学校にいることを小金井さんに教えられたのもあの人の所属する部活がテニス部だったからに違いない。
そう確信して、私は教室へと走って戻った。
「あ、お帰りー。久しぶりの友達との会話、どうだった?」
無邪気に聞いてきた葵ちゃんに私は無理やり笑顔を作る。思い出したくもない過去が蘇ろうとしているのを防ぐように、私は「末澤さんの下の名前って真凛だったよね?」と確認する。怪訝そうな顔で頷いた葵ちゃんを見て、私はキッチンにいた末澤さんを捕まえる。
「ねぇ、末澤さんって小金井明日香さんと仲良し?」
「え、何、急に。」
「質問に答えて!」
思わず声を荒らげてしまった。後ろをついてきた葵ちゃんがびっくりしたように私を見ている。
「何そんなカリカリしてんの。そうだよ、仲良しだよ。あ、もしかして、私があなたがいることをしゃべったのバレた?」
急に怒鳴り込んできた私を嫌そうに見た後、末澤さんは手に持っていたグラスを置いた。葵ちゃんだけが状況を呑み込めず「え、え?」と混乱しているが、私はじっと末澤さんを見つめたまま動かなかった。
「なんで…?」
「なんでってあなたが嫌いだったから。すぐに紺野くんと仲良くなっちゃうのも、紺野くんと楽しそうに話をしているのも気に入らなかったからよ。少しは叱られて懲りたかしら?」
フフッと笑みを浮かべて末澤さんは答え、思い出したように「テニス部の合宿で偶然明日香ちゃんとあって私のクラスに嫌いな子がいるって話したら「私もその子苦手!」って答えが返ってきたんだよね。」と笑顔で言い放つ。誰が嫌いなのかは伏せられていたが、私が嫌いなことは前後の発言から明白だ。目をそっと伏せて私が押し黙ると満足したように末澤さんは
「もう紺野くんにも近づかないでね。邪魔だから。近づいたら、また明日香ちゃんに告げ口しちゃうよ。」
と脅して去っていった。
「朱莉ちゃん、さっきは声荒らげてどうしたの?何かあった?」
末澤さんが去っていくなり、葵ちゃんが私を心配そうに見つめた。
「何にもないよ。戻ろう。」
「でも…。」
必死で笑顔を作り、葵ちゃんに持ち場に戻ろうと声をかけたのに、煮え切らない様子でその場から動く気配がない。早く戻らないとお店が回らなくなる。
私のせいで。
「大丈夫だから。早く戻ろう?」
葵ちゃんの背中を押してキッチンスペースからカフェスペースに出ようとすると、「大丈夫じゃないよ…」と葵ちゃんが俯いたまま言った。
「え?」
「朱莉ちゃん、すごい怒ってたじゃん!何にもないわけないでしょ?」
葵ちゃんが私の前に立ちはだかり、「事情を聴くまでは通さないよ。」とまっすぐに視線を向けてきた。
「今はそんな話してる場合じゃないよ、葵ちゃん。早く戻らなきゃ、テーブルの上とか、ぐちゃぐちゃなままでお客さんを迎えることになっちゃう。みんなそれぞれ仕事をこなしてるんだから。」
だんだんとキッチンにいる人たちの視線が私達に集まってきた。マズい…。
「どうしたの?二人とも?こっちまで声が聞こえてたけど?」
「何かあった?」
桃花ちゃんや芹奈ちゃんが心配そうにこっちへやってくる。
「葵ちゃん、戻ろう。お客さんに心配かけちゃうから。」
立ちはだかる葵ちゃんに最後にもう一度そう言った。これで頷いてくれたら…。
「私は朱莉ちゃんを心配してるんだよ⁉︎なんで今お客さんの方を…。」
声を荒らげて葵ちゃんは私を見据えた。もうダメだ…。
「そんなに怒んなくてもいいじゃん!人には話したいことと話したくないことがあるんだよ?」
私の中で何かが切れて、思わず大きな声を出してしまった。あ、と思った時にはもう遅かった。
「そんな、言わなくても、いいじゃん…。」
びっくりしたように葵ちゃんは言葉を途切れさせ、目に涙を溜めた。
「ごめっ…」
全てを言い終わる前に葵ちゃんは私をひと睨みして、くるりと踵を返してしまった。
後に残った私はみんなからの視線に晒されて、どうしようもない気持ちで床に座り込んでしまった。