「かり、朱莉…!」

ぼうっと意識が遠のいている中で誰かの声が響いた。続いて、体がゆらゆら揺れる感覚。

「いつまで寝てるの?もう12時30分だよ?」
「わ!」

ゆっくりと瞼を開けると、目の前にはお姉ちゃんの心配そうな顔が!

「疲れてるみたいだったからゆっくり寝かせておいたけど流石にこの時間まで寝てたらあと寝れなくなっちゃうよ。それに、朱莉今日出かけるんでしょ?」
「ごめん…。」

寝起きのぼうっとした頭のまま私は謝ると、ベットからむくりと起き上がった。

「お昼ご飯、まだ用意してあるから食べてね。私も午後から出かけちゃうから。」
「はーい。」

部屋を出ていくお姉ちゃんに返事をして、私は顔を洗うために部屋から出た。

「あ、今日お母さん仕事だった。」

誰もいないリビングで私はひとり呟いた。お母さんは、メイクアップアーティストとして働いている。その影響で、私はメイクやファッションが好きになったといってもいい。
お昼ご飯を温めなおしてゆっくりと食べ始めた。


さて、今日は久しぶりにネイルをして出かけよう。

お昼ご飯を食べ終えた後、私はコスメボックスからネイルに使うマニキュアやトップコートを出した。バイトを始めてからは、衛生に気を付けるため、あまりネイルをしてこなかった。でも、今日はお休みだし、次にバイトが入っているのは文化祭の次の日だ。時間がたっぷりあるということで、私はまず爪を磨いた。

今日は明るい黄色かな。気分が少しでも上がる色のほうが元気が出るから。

色とりどりのマニキュアの中から、黄色を選び、私はベースコートを塗った後にはみ出ないように気を付けてマニキュアを塗った。


「うん、綺麗にできた。」

ドレッサーで自分の爪を確認して、私は一つ頷いた。トップコートも塗ったから、ツヤが出て綺麗に色が生かされている。ついでに言うと、今日のネイルの出来はすごくいい。ムラがないし、マニキュアがはみ出て綿棒などで調整する必要もほぼなかった。

後は…。

学校ではメイクもネイルも禁止という形をとっているが、実際のところ黙認されている。さすがに派手なメイクをしたら生徒指導の先生につかまるが、そんなことをしない限り先生たちにとやかく言われることはない。だから私はくちびるに色が薄めのリップを塗ることで保湿をしてきた。

でも今日は…。

私はフフッと笑ってドレッサーの引き出しから去年の誕生日プレゼントにもらった、有名なブランドコスメのリップを取り出した。キラキラしたパッケージのリップは優しいレッドベージュだ。優しい色だから、私の顔にも似合うよ!とお母さんがプレゼントしてくれたのだ。

ちょっと大人になった気分になれるんだよね。これでしっかりメイクしたらどこに行っても自信を持てる気がする。

鏡をよく見ながら、そっとリップをくちびるに塗ると、馴染ませるために少し指でなぞった。

やっぱりこの色にしてよかった。すごい綺麗に見える。

自分の姿を見て満足げに頷くと、壁にかけてある時計を見上げた。




うーん。おいしい…。

数時間後、私は都内にあるホテルのラウンジでイチゴのスイーツをほおばっていた。今日は頑張って稼いだバイト代で自分へのご褒美としてホテルのスイーツビュッフェに来ているのだ。

メイクしっかりしたのに食べ物食べるってどうなの?という疑問が聞こえてきそうだが、スイーツビュッフェに来る前にしっかりとリップは落としてきた。

ビュッフェも大事だけど、私の今日の目的は有名ファッションデザイナーさんの展覧会を見に来ることだったのだ。私が大好きな人で、洋服だけでなく、コスメのデザインも手掛けていて、私の最近好きなコスメブランド、Louismakeともコラボしたことがある人だ。

ちょうど同じ日にビュッフェもとれてよかった。ずっとここのスイーツ食べてみたい!って思ってたんだよね。

お皿に盛ったスイーツを見て、私は次は何を食べようと考えていた。このホテルのスイーツはどれも絶品で絶対にいつかは食べたい!と思い、日々を過ごしてきた。

イチゴだけじゃなくていろんなフルーツを使ったスイーツもあったし、チョコファウンテンもあった。楽園みたいな空間…。


今日だけは自分の食べたいものを心ゆくまで食べる、と決めてこの場所に来たのだ。心行くまで堪能しなければ…!

スイーツに囲まれた、幸せな空間で私は日々の疲れを癒した。